41.レベル
「おらぁ!」
エクセルの拳が、岩に直撃した。
彼の身長をゆうに越える岩山は、ヒビが入り、崩れ小石の塊と化した。
「おー、いい感じだ」
天竜鳶人は言った。
彼は鳥人間計画の実験体で、腕には鳥の羽が生えていた。
「ぶはーっ、疲れた!」
エクセルは石の前で倒れた。
「おい、もう終わりかよ」
鳶人は寝そべる彼に近寄った。
「だって、この岩壊せばいいって…」
「まぁ、確かにそうだな、休憩とすっか」
鳶人は懐をまさぐり、
「ほれ、水」
水筒を取り出した。
「おお!」
エクセルは喜び、飛び起きた。
そして水は彼の頭にかかった。
「うわっ! なんで」
「飲むのと大差ねぇだろ」
「そんなわけないでしょ!冷たいっすよ!!」
「はい、じゃあ次に教えることは」
「休憩終わるの早っ!」
「当たり前だろう、強くなりたいんだろ? そんなんじゃ勝負になんねぇぞ」
「……分かってますよ」
エクセルは考えていた。
スタンの力を見た今、彼に追いつかないと大会では勝てない。
強くなる、そのために鳶人の側に付いたのだ。
「あと、質問あるんスけど、いいスか?」
「なんだ?」
「ここって確かアレですよね?ブレイバーの人皆『森』って言ってますけど」
「俺の家でもあるな」
「……そういうことじゃなくて、ここって『特別管理環境保護区』でしたよね? 森林少なくなって、環境保護のために国が全力で自然保護してる場所」
「それがどうした?」
「岩とか破壊したり木折ったりしてますけど、それって大丈夫なんスかね?」
「なあんだ、そんなこと心配してたのか? 大丈夫に決まってるだろ」
「あ、やっぱり許可とってあるんですね」
エクセルは安堵の表情を浮かべた。
「こんだけ広いんだぞ? 一本追ったり岩ぶっ壊したりしても気づかないっしょ」
「へ?」
「なんとか協会が出てきたら、殴って黙らせりゃあいいんだよ。俺はそうして来た。まぁ、多少はね?」
「武力行使じゃないスか!?」
「うーるせ」
「痛っ! 暴力反対っ!」
鳶人はエクセルにげんこつした。
「……で、まだまだお前に教えることはいくらでもあるんだ。立ちな」
「えー、もうちょっとこうしていたいっス」
「じゃあお前に良いことを話してやろう」
「オルダー戦争での武勇伝はもう聞きましたよ」
「今回は真面目な話だよ」
「それ毎回言ってますよね」
「まぁ聞けって」
鳶人はエクセルの前に腰掛けた。
「……エクセル、お前は『レベル』という概念を知っているか?」
「レベル?なんですかそれ? 敵を倒して経験値をもらって……?」
「経験値もいらないし飴を食べる必要もないぞ。 国際魔術協会が定める魔術の習得難度だ」
「へぇー」
エクセルは興味を示したのか、身を乗り出した。
「で、もう一つ。俺が今教えた術は、レベルいくつだと思う?レベルは五段階あるんだけどな」
「……え?これ拳法じゃなかったんですか?」
エクセルが教わった技は、精神を集中させて拳に込める技であった。
「厳密に言えば魔術なんだよ。分類としては"強化系"と呼ばれている」
「ふーん」
「じゃぁ、もう一回質問するぞ。どれくらいだと思う?」
「……3、くらいスか?」
「残念だな。これの習得レベルは"1"だ」
「はっ!?」
エクセルは衝撃のあまり、しりもちをついてしまった。
「えーっ、じゃあもっと高いレベルのもあるってことスか?」
「勿論。まぁ、大体強化系はレベル1なんだけどな」
「これだけ頑張ってレベル1じゃぁ……強くなるには程遠そうっス」
「勘違いしていないか?」
「え?」
「高いレベルの技が強いわけではないし、低いレベルの技が弱いわけではない。あくまで習得難易度だからな」
そう言うと鳶人は立ち上がった。
「よく見てろよ」
「え……」
「疾風!」
すると鳶人の周囲を、強い風が囲んだ。
木々が揺れ、砂塵が舞う。
エクセルはその威風に飛ばされそうな思いだった。
「どうだ、これがお前に教えたレベル1の技の応用だ! そしてもう一つ……」
鳶人は両足を踏ん張り、拳に力を込めた。
「おおおおっ……!」
「凄い――圧倒されちまう」
「破砕掌!」
彼は拳を突き出した。
すると体を囲んでいた風は竜巻となり、鳶人の前に一直線に進んだ。
竜巻は強い風を吹き荒らしながら、木々をなぎ倒し、土煙を上げた。
風が止んだ――そこには木々はなく、大地にえぐり取られたかのような窪みができていた。
「なにこれ……」
「こういうことだ。レベルは低くとも、心の強さ――意思の強さで威力が変わる」
「すげぇーっ」
エクセルは立ち上がった。
「どうだ、やる気出てきたろ?」
「はい、やる気出てきました! 頑張ります! ぶるぶるぶる!」
彼は首を振って水気を切った。
「犬の真似しろって誰が言った」
「ガウーッ」
「アホ」
「いたっ!」
鳶人はエクセルにげんこつをかました。
その時、遠くに炎が見えた。
「!!」
「なんだ!?」
空まで昇る勢いの火柱が、立ちめこめた。
「あれは……火柱斬か」
「カチューザン?」
「"剣"を使って火柱を作り上げる術だ」
「剣……ってことはあれは」
「あぁ。お前も、いや、俺も立ち止ってる暇はなさそうだな」
「アレのレベルは?」
「――レベル5だ」
「えっ!?」
「レックス……お前の弟子は中々にすごい奴みたいだ――あんなにデカい火柱斬見たことがない」
「鳶人、さん――」
「スタン=ハーライト……」