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BRAVER-大会編-(後)  作者: Tommy
第6章-時は進む-
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40.才能

講義終了のチャイムがなった。


少年ワイヤーは、その分厚い教科書を鞄にしまって扉を開けた。

部屋に戻ろうと廊下を歩き始めた。

たくさんの"マイノリティ"生徒が歩く中をかいくぐっていると、一人と肩をぶつけてしまった。

「すいませ――」

すぐに謝ろうとしたが、ワイヤーは立ち止った。

見覚えのある姿だったからだ。

「君か」

「そうだ、忘れてないよな、さすがに」

黒い隊員服を纏ったその男。髪の毛を限界まで逆立てたその男。

「サイス、って名前だったよね」

「正解だ。話がある、ついてこいメガネ野郎」サイスはにやけながら言った。


*


行きついた先は、人っ気の無い階段の踊り場。窓が無く日の光を受けないので、昼でも薄暗い場所であった。

「――いないな、誰も」サイスは言った。

「他人に聞かれたくない話なの?」ワイヤーは質問する。

「いいや?"見られたくなかった"のさ」

サイスは笑みを浮かべながらそう言った。

「質問がいくつかあるんだ」


その瞬間、ワイヤーの首には刃がつきたてられていた。


「!!」

サイスはそれまで何も手にしていなかった。

彼の武器である巨大な鎌、それは持ち歩いていなかったはず。

しかし今、ワイヤーの目の前にはその刃があった。

「物質化能力――」

考えられるのはそれだった。

心の力を空間に干渉させ、物質として具現化する力だった。ワイヤーはその力について資料を読んだことがあった。

だが、それ以前に気になることがあった。

「君、魔術は使えないんじゃなかったんじゃないのか」

「自惚れるんじゃねぇよ、一週間くらいあればできるようになる」

「いや、君のやってるそれはそういう領域を超えている。レベル4に値する力だぞ」

レベルとは、国際魔術管理協会の定める、魔術の習得難易度のことである。

レベルは5段階あり、始めの講義でシルクが教えた"水を動かす"技がレベル1である。

またシルクのやっていた"水を手の形に保つ"技など、「空間に干渉して一定の形に具現化する力」は軒並み高いレベルで規定してある。

「……やっぱり成績トップは伊達じゃないんだね」

「そういうことだ、余裕ぶっこいてるんじゃねぇぞビリ欠野郎。動いたらお前の首はオシマイさ」

首につきたてられた刃が、さらに近づく。

「"見られたくない"ってのは、そういうことか……」

「では、俺の質問に答えてもらおう」

「何だ」


「スタン・ハーライトは何処にいる」


「知らないよ」ワイヤーはそっぽを向いた。

「嘘をつくな、心が揺らいでるぜ」サイスはさらに刃を近づけた。

「こ、心を読むことまでできるようになったのか」

「感心するな、とっとと言え」

「本当に知らないよ、どこにいるかなんて。一週間以上、帰ってないよ」

「では質問を変える。あいつは"何をしているのか"?」

「教えて何になる」

「何もしないさ」

「え?」

「ただ、気になる」

「僕を脅してまで知りたいのか」

「シルク・ホワイタビーは、スタンが講義に一週間以上出ていないにも関わらず、アイツについて一切言及していない」

「……」

「エクセルとかいう野郎も帰ってないな。それについても何も言ってない。で、残りのお前がひっさびさに帰ってきて姿を見たら何だそれは? 部署が変わったとでも言いたくなるような服だ……いや、マイノリティの内は部署なんて決まってねぇんだったな。モラトリアムってやつか?」

「僕は自分のやり方を見つけたんだ。ただそれだけ」

「確かにそうみたいだな。ケンカはガキの頃から好きだが、初め見たお前はチキン野郎の眼だった。だが今はそれなりに"覚悟"を持ってるみたいだな」

「よくしゃべるね」

「ふん、だから気になるんだよ。スタンが何をしているかがよ」

「じゃぁ答えてあげるよ」ワイヤーは微笑んだ。

「何笑ってるんだ、自分の状況を分かって――」


「雷電放射!」


「なっ!」

とてつもない量の光がワイヤーを包んだ。手がしびれ、サイスは持っていた鎌を衝撃で手放してしまった。

「くそっ!」

強い光をまともに受けてしまった。眩む眼をこすり、前を向く。

そこにはワイヤーがサイスに向かって手を突き出して立っていた。

彼の手には強い光の塊があった。

「レベル2程度で怯むんだね、君は」

ワイヤーはそう言うと、構えてた手を引いた。掌の光は消えた。

「まぁ、頭を使えばレベルなんて関係ないよね。適材適所さ」

サイスが周囲を見渡すと、階段の手すりに電撃が走っていた。視覚できるほど強いものだ。

「てめえ……」


「僕らはね、努力してるんだよ」


「……努力だと?」

「そうさ。あの時、僕らはスタンの力に驚いたさ…強い意思を持ったあの光。僕らは彼の力を前に知ってはいたけど……やっぱすごかった。だから」

「だから?」

「追いつきたかった。 強くなりたかった。力になりたかった…そのための努力」

「独学か、それ?」

「僕には良い先生がついてくれたよ。魔術のエキスパート」

「シルク・ホワイタビーか」

「正解だ」

「…『正解』、か」

サイスはふっと笑って、鎌を拾い、目を閉じた。

持っていた鎌は姿を消した。

「俺はな、この力を独学で手にした。 いいか、強い奴に師はいらない。一人の力で手にすることができる奴が強いんだよ」

「それは……違うと思うな」

「ふん、じゃあ今度ケリ付けようぜ。 マイノリティ大会で会おうじゃねえか! ゼッテー勝つからな! ハハハッ!」

そう言い残し、彼は去った。


彼がいなくなってから、ワイヤーはつぶやいた。

「自惚れてるのは君の方だ、サイス」

そして、階段の上方向を見て、大きな声を出した。


「ですよね、シルク様」


すると、誰かが階段を降りる音が聞こえた。

「……分かっていたのね」

白い髪の女性はそう言った。

「極限まで力を抑えていたんだけどね……よく気付いたわね」

「えぇ、それ、確か〝心殺〝でしたよね、レベル5の」

「少し動揺してしまったからかしら」

「そうですね。僕が刃を向けられた時に、心の揺れを感じたんですよ」

「そうね」

シルクは苦笑いした。

「手を出さないで頂いて、ありがとうございました」

「手を出して欲しくないって言ったのはあなたよ」

「心の中で、ね?」

「ほんと、強くなったわね。こんな短い間に。先生嬉しい」

彼女は今度は本当に笑った。

「先生、マイノリティまでもう日がありません、教えてくださいーー」

「何を……?」


「レベルを超えた魔術を!!」


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