39.成長
「はい、ここ重要だから覚えておいて!」
マイノリティ大会開幕まで、日にちが迫っていた。
しかし若きブレイバーたちは、普段と変わらず"知識"の講義を受けていた。
担当をしていたのは、シルク・ホワイタビーだった。
以前魔術を教えていた彼女だが、最初の講義で行ったコップの水を"心で"動かすことを、しばらく経ってもほとんどが出来なかったことに驚いたのだ。
そして仕方なく、今は基本的な知識から学んでもらおうと考え、講義内容を変更していた。
「じゃぁ次のページ、ひらいてー」
生徒たちはしぶしぶと、ページをめくっていた。
「ふわぁーあ、めんどくせ」
サイスは大きなあくびをした。
「こらサイス君、我慢しなさい。あともうちょっとだから」
「だってよー、ほとんど俺分かることだし。寝ていい?」
「だーめ」
「ちぇっ」
サイスはふてくされ、教室にかけてあった時計を眺めた。
予定としては、講義はあと10分ほどで終了する。
「じゃぁ時間も迫ってきたことだし、ここで今日は最後にしましょう。サイス君、読んで」
「はいはい」
面倒くさそうにサイスは立ち上がった。
「えー、『我々ブレイバーが用いる武器は様々である。物理的な攻撃に特化したもの、魔術を使うことに特化したものなどがある。』」
「はい、ありがとう。そこで問題。"など"ってあるけど、例外って何だと思う? サイス君」
サイスは少し困った顔をした。
「えーなんだろう……あ、分かった。 防御特化?」
「吸収反射特化ってことね。間違ってはいないわ。 でもね、まだあるのよ」
「?」
この問題は、成績1位入隊のサイスでも分からなかった。
「さて、なんでしょうねぇ……?」
シルクの問いかけに、教室は静まりかえってしまった。
「――お! なんか分かってるけど恥ずかしいから答えたくない、って思ってる人がいるみたいね! 恥ずかしがらなくてもいいわ! 答えていいわよ!」
「そんなやついるのかよ、なにやってんだ、講義終わんねーんだよ」
サイスは急かすように言い、教室を見渡した。
そしてゆっくりと、一人の生徒が手を挙げた。
「あなたならできるわね、ワイヤー」
「ワイヤーだと!?」
サイスは目を丸くした。
成績が下位のワイヤーが、サイスが分からない問題を答えるというのだ。
しかし、姿がサイスの知っているワイヤーとは異なっていた。
以前会ったときは、短い髪で、さえない印象を与えていたのだが、今のワイヤーは、眼鏡をかけていて、視線がはっきりとしていたのだ。
さらに隊員服も剣士用ではなく、魔術特化の"導師用"となっていたのだ。
「それは"心"を介した接触攻撃に特化した武器です。"心の流れ"を武器に送り込むことにより、"心"の力を武器が拡張します。そしてその力が相手に接触すると、魔術とはまた異なる強大な"心撃"を与えることができます」
「正解! よくやったわ!」
シルクは満面の笑みをみせた。
「なにっ! "心撃"だと!?」
サイスはその言葉を知らなかった。
「うん、知らなくても大丈夫よ。今の質問は本当は答えられなくて当然なの。今やってるページが53ページだよね? でも"心撃"の記述が載ってるのは387ページ以降なんだ」
「ぐぐぐ……」
サイスは、言葉が出なかった。
ワイヤーは続ける。
「一例として挙げるなら、熱流剣という武器があります。この武器はさびた鉄のような赤みのかかった金属の剣で、切れ味があまり良くありません。しかしながらこれは非常に強い耐熱性の合成金属で、"心"の力を熱エネルギーにコンバートします」
「熱流剣……まさか!」
サイスははっとした。
スタン・ハーライトが強い熱を帯びてこちらに立ち向かってくるのを。
持っていた剣が、赤く光り、まるで燃えているかのようだったことを。
「あいつ……っ!」
サイスは教室内を見渡した。しかし、スタン・ハーライトの姿はそこには無かった。
「これで分かった、サイス? まだまだ勉強することってあるのよ? 学ぶことは無限なの。あー、勉強って楽しい!」
シルクは大きく伸びをした。
「じゃぁ、こんなところで今日は終わりにしましょ。ばいばい!」
シルクはそう言い、足早に教室を後にした。