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BRAVER-大会編-(後)  作者: Tommy
第7章-忍び寄る魔-
13/15

50.約束

「ブラッキイ、こっちだよ」

元気で、それでいて優しさを感じる声に導かれ、俺は走り回った。

「まって、リーナ」


リーナに助けられてから半年ほど経過し、俺は片言ながら言葉を話せるようになっていた。

リーナは10歳だった。俺も同じぐらいの年齢なのだろうか。それははっきりしていない。


細い、石畳の街路を俺たちは走りまわる。

教会、レンガの建築物、赤や黄色の色とりどりの家屋――

俺たちの住む街「希望の街:スペランツァ」は、そういうところだった。


「こーら、そんなに走り回っちゃだめですよ、二人とも」

ふと、大人の女性に優しく諭される。

背の小さかった俺は、そのまま服の襟元を摘ままれてしまった。

「ごめんなさい、お母さん」リーナは言った。


マリア=サンセット。それが彼女の母親の名前だった。

彼女は娘とは違い、金色の髪だった。父親が赤い髪なのだろうか。

「まったく、服が汚れるじゃないですか。 洗濯する身にもなってくださいよ。分かりましたね、ブラッキイ」

「ごめんなさい、マリアさん」俺は謝った。

「もう、"おかあさん"で良いって言っているじゃない」

「……」

口うるさいと思うときもあったが、マリアは俺に対して自分の子供同然に接してくれた。

勿論俺も、彼女のことは母親同然に思っていたのだが、何故かそう呼ぶ気が起きなかった。


 「でもおかあさん、ダメだよそんなに動いちゃ!お腹に赤ちゃんがいるんだよ!」リーナは母親に抱き着いた。

彼女は、俺が会った時には既に身籠っていた。

「少しは動いた方が、子供のためにもなるんですよ。でも、心配してくれるなら、お母さんに迷惑かけないようにしなさいね」

マリアは、リーナと俺の頭を撫でた。

「はーい!」リーナは笑顔で返事した。

マリアも微笑んだ。


*


沢山遊んだ、その日の夜だった。

俺はリーナと、グローリア塔という場所に来ていた。

この街の最も高所に位置する塔で、展望台から街を一望することができた。

時計塔、寺院の鐘楼、商店街――街頭が照らし出すこの街並みは、夜でも生きているようであった。

「ここは何度来ても良いね」リーナは言う。

「うん」俺は頷く。

満月の夜。この日は雲一つない空で、星々が良く見えた。風が心地良い。

「ねぇ」リーナは言う。

「なに?」

「ブラッキイは、わたしとずっと一緒にいてくれる?」

「!」

俺は言葉に迷った。

リーナは続ける。

「お母さんはね、お父さんのことが大好きなの。でもね、中々会えないの」

リーナが父親のことに言及するのは初めてだった。

「……リーナのおとうさん、どんな人?」俺は尋ねた。

「お父さんはね、凄く強いんだよ。勇者(ブレイバー)なんだ」

「ブレイバー?」

「うん。この世界にやってくる、わるーい奴と戦うんだよ。すっごく強いの」

「すごく、つよい」

「うん!本当に!」

リーナは歯を見せて笑った。

「強い、本当に……だから、戦い続けなければならないの」

しかし、すぐにうなだれてしまった。

「お父さんに、会えない……ずっと一緒にいたいのに……」

「……」

俺は黙って聞いているしかなかった。

「だから、ブラッキイは、一緒にいてくれる?」

その時の俺は少し考えて、こう言った。

「リーナとずっと一緒にいる。でも、一緒にいるには、戦う、べき」

「え?」

「一緒にいるために、戦う。強い、必要」

「……そっか、そうだね。一緒にいるためには、強くなって、強くなるために戦い続けなければならないのね」

俺は頷いた。

「だから、オレ、いちばん、強い人に、なる。いちばん強いブレイバーに、なる」

「うふっ、ブレイバーに? あはは!」

落ち込んでいた顔をしていた彼女は、突然笑い出した。

「なんで、笑うの?」

「ブレイバーは、まだ職業じゃないの。お父さんが勝手に名乗ってるだけなのよ」

「そうなの?」

「うん。ずうっと昔にあった話に憧れて、ね」

「じゃあ……」

「?」

「じゃあ、いちばん強い人、だれ?」

「えぇ?そうだなー……王様、かな?」

「じゃあ、そうなる」

「え?」

「オレ、おうさまになる。 そして、リーナと一緒にいる」

「あははははっ!」

リーナは大笑いした。

「ありがとう、ブラッキイ。ずっと一緒にいてね」

「うん、ずっと、リーナと、一緒にいる!」


俺はリーナとずっと一緒にいる。


その願いが、叶うことはなかった。

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