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BRAVER-大会編-(後)  作者: Tommy
第7章-忍び寄る魔-
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47.光の刃

「炎龍刃を奪ったのは、鳥人間計画のストロン――」

マーズから告げられたその言葉は、レックスに大きな衝撃を与えた。


彼が考え事をする時に使う場所として、資料室の他にもう一つある。

それは大会場だった。

秋の冷たい夜風に吹かれ、目を閉じ、ゆっくりと息を吸う。……そして吐く。

彼にとって、この頃気がかりなことが多すぎる。

「悪魔」の件、「心器」の件、ミッチェルの件。

"総長"が帰還したら、何と報告すれば良いのか――


「ストロン……」

彼には聞き覚えがある名前だった。

そう、数ヶ月前、初めて「悪魔」がブレイバーの前に姿を現したあの日――

ジューンが言っていた、探していた名前。

『僕が探しに来たのはストロンだよ、君じゃない』

『ここにいる、スタン=ハーライトのことか?』

『そいつじゃない、半分当たってはいるけどね。今はいないのさ』


「半分当たっている……」

スタン=ハーライトを指して、ジューンはそう答えた。今はいない。直前までいた。

そういえば、シルクも似たようなことを言っていた。

『半分しか心が感じられないようで、一人分の心を感じるっていうか、はっきりした精神を感じるんだけど、半分空っぽな状態……っていうか?』

レックス自身も彼と接していて、違和感は感じていた。

満ちたりた心を持ちつつも、どこかに空虚感があるような――


「スタン・ハーライトの不可解な点……」

スタンは以前悪魔が姿を現した時に、とても同一人物とは思えない言動をしていた。

悪魔に対して「ケダモノ」と――

そしてあの時スタンが持っていた剣は、炎で揺らめいていた。

彼が持ち歩いている武器は熱流剣である。


「熱流剣……! まさか……」

彼は気づいた。一つの仮定を立てることで、すべてが繋がることに。


そもそも、奴らはどうして、ブレイバー本部に現れたのか。

ストロンを探しにブレイバー本部に現れるということは、あの時、ストロンが近くにいた、ということだ。

スタンを指して「半分」と言ったこと、スタンが「熱流剣」を持っていること、ストロンが「心器 炎龍刃」を奪ったということ――


それは、つまり――


「スタン=ハーライトの裏の人格にストロンが存在し、今あいつが持っている武器は炎龍刃である……」


裏の人格。そんなものが存在するのか。

しかし、それが有り得るのならば、凄まじき速度で成長を遂げている彼の才能にも納得がいく。

あれだけの力の炎を出すことが出来るのも、"心器"の力によるものなら――


「スタンを調べなくてはならないな」


そう彼が思った、次の瞬間であった。


「!」


突然、背後に凍りつくような殺気を覚えた。


だが、それも刹那のこと。

黒髪の狂乱者と呼ばれた彼には通用しない。


自らの背負う大きな剣、「心器 雷牙」を抜き、刃先を向けながら、振り返る。


「誰だ」


……


そこに立っていたのは、白髪の老父だった。


白いローブのようなものを身にまとい、じっとレックスの方向を見る。

目元に皺が浮かんでいるが、その奥の青い瞳は、しっかりレックスを捉えていた。


しかし、彼はその姿に、動揺を隠せなかった。


その老父の背中からは、白い翼が生えていたからだ。


そして、レックスはその老父を見たことがあった。


ミッチェルから見せられた写真を思い出す――


「お前が、ネオンか……」

レックスは言った。


「ほう、私の事を知っているのか」

ネオンは、ゆっくりと、落ち着いた口調でそう言った。


「鳥人間……何故ここにいる」

刃先を向ける手を緩めることなく、レックスは尋ねる。

「"それ"だ」

ネオンは、刃先を人差し指でなぞるように手を動かしながら答えた。


「"心器"を回収させてもらうぞ」

威圧するかの如く、老父はゆっくりと、手を広げ、足を広げ、翼を広げる。


「……くっ」

レックスは、柄の部分を握り直し、両手を使って構え直した。


「なぜ貴様ら鳥人間は"心器"を集める?」

「未来を守るためだ」

「なんだと?」


「『過去』の人間に、これ以上説明する気はない」

ネオンの両手が、薄紫色に輝き始めた。

その光は、球体のように広がる。


「晄!」

ネオンはそのまま光の玉を、レックスの方向に放った。

それも一つではない、二つ、三つと、止むことなく放ち続ける。


装甲形態シールド・モード!」

レックスは叫んだ。

すると、レックスが持っていた剣が白い光を放った。

光が収まったときには、剣は彼の背丈を包むほどの、白い盾となっていた。

白い盾はそのまま無数の光の玉を受け止める。

光の玉は弾かれ、まるでシャボン玉のように消える。

盾は微動だにしない。


が、その衝撃はゼロにはできなかった。

盾を持つレックスは、そのまま地面に抑えつけられ、身動きが取れなかった。

さらに、盾で体全体を覆ってしまっているため、前方を見ることができない。


光の玉の雨が止んだ時には――

「!」

ネオンはレックスの後ろを捉えていた。

「面白い」

ネオンはそう言いながら、手刀をレックスの首元に振り下ろした。


「うあっ!」

レックスはそのまま、盾ごと吹き飛ばされてしまった。


「"心器"……持ち主の"心"を読み取り、その姿を変える。まさしく心の器」

倒れこむレックスのもとに、ネオンが歩み寄る。

「ちっ……刀剣形態(ブレード・モード)!」

レックスは盾を片手で握りながら、立ち上がった。

盾は白い光を放ち、再び大剣へと姿を変えた。


「がっかりだ、黒髪の狂乱者ベルセルク。もう少し、できると思っていたぞ」

「いいや、まだだ!」


「今の姿を、リーナが見たらどう思うだろうか……」


「!」

その言葉を聞いた瞬間、レックスの目の色が変わった。

「リーナ、リーナだと! 貴様、リーナのことを知っているのか? どこにいるんだ!」

「……」

ネオンは何も答えなかった。

「答えろ!リーナはどこにいる!」


そう叫んだ瞬間だった。


レックスの右肩に、何かが突き刺さった。


「っ……あ」


ネオンの手刀が、白い光を帯びた刃物と化していた。


「答えよう。お前の知るリーナは、死んだ」


ネオンは刃を引き抜く。


そして、そのまま膝をつき、レックスは倒れてしまった。


「……くっ、そ」

倒れこむレックスを、憐れむかのようにネオンは見下ろす。


「あっけなかったな、"ブラッキイ"。心器、回収させてもらうぞ」

「……リー、ナ」


ネオンは、雷牙の柄に手を伸ばした。

ところが――

「なにっ!」

ネオンの手に、電流が走った。

たまらず手を引く。


「やはり"拒否反応"があるのか。私では無理か」

ネオンは言った。


そして――


「レックス!」

「レックスさん!」


入口の方から、叫ぶ女と、少年の声がした。


「シルク……スタン、ハー、ライ、ト」

朦朧とした意識の中、レックスは言った。


「えっ……どうして……」

その光景にスタンは、驚きを隠せなかった。


「どうして、おじいちゃんが……」


「なん、だ、と」

その直後レックスはついに目を閉じ、ぐったりとしてしまった。


「スタン=ハーライト、か」


そうつぶやくと、ネオンは背中の翼を広げそのま飛び上がった。


鳥人間の老父はそのまま、宵闇へと姿と消した。

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