転校生なんて実際そんないい物じゃない
「はぁ…はぁ…!」
…どうも、桐生京介だ。
今の状況を簡単に説明すると、走っている。それはもう凄い勢いで走っている。
なぜ走っているかは…説明しなくても分かるだろ?
現在の時刻を確認するため俺は腕時計の表示を見た。
8時57分…学校まではあと2分強程かかるな…。
このままじゃ間に合わないか。仕方ない。
「平成のライカンスロープと呼ばれている俺の脚力を見せてやるぜ!」
「桐生、桐生ー。…遅刻と」
「ちょっと待ってくれええぇい!」
「チッ…桐生、ギリギリセーフと」
あれ?今舌打ちされた?
まぁいいや。間に合ったんだから俺の勝ちだ!
「おぅ桐生、また夜中までゲームか?」
「はぁ…はぁ…うるせぇよ」
こいつは秋山拓真。俺の友達だ。とりあえずこいつは女好きで、暇さえあればナンパしている。
「ゲームなんてしてる暇があればナンパしに行こうぜ!」
「あーはいはい」
「ったく、ノリが悪いな〜お前は」
「悪かったな」
俺は色々あって疲れてるんだよ。言えないし、言っても信じないだろうけど。
…それに魔王も美少女の類に入るだろうし。こいつに言ったらどうなるか…。
「では、朝のホームルームを始めます。」
担任の声で、日直が号令をかける。
いつもの風景だ。
…ここまでは。
「えー、今日はみんなにお知らせがあります。実は転校生がきています」
ザワ…ザワ…
教室が騒つくのも無理はない。そんな話は今の今まで聞かなかったからな。
転校生と聞いてみんなテンションが上がってるんだろう。端々から、男子?女子?とか、外人?等の声が挙がっている。
そしてここにも一人。
「聞いたか桐生!転校生だってよ!可愛い娘かもしれねーぞ!」
「あぁ、そーだな」
「なんだテンション低いな。もっと喜べよ!」
だから俺は疲れてんの。
…走りすぎて喉渇いたな。
俺はカバンに入れていたお茶を飲もうと、ペットボトルを取り出しお茶を口に含んだ。
「では、入って下さい」
担任の呼び掛けで入ってきたそいつは、漆黒の髪、深紅の目、白い肌を持つ―
「!!…ゲホッ!ゲホッ!」
「うおっ!めっちゃ綺麗な娘じゃん!…どした?桐生?」
「な、何でもない」
…もう分かってると思うが、その転校生はあいつだった。
「では自己紹介を」
担任の指示でそいつは黒板に名前を書く。
魔王…って…
「まんまじゃねーか!」
他に何かあっただろ!もっと考えろよ!
…と、クラスの視線が俺に集まる。そりゃいきなり叫んだらこうなるだろう。
「む、勇者ではないか。では他に何か名を考えてくれ」
…勇者って何?…桐生とあの転校生の子って知り合い?…彼女とか?
というクラスメイトの声が聞こえる。
「お、桐生の知り合いなのか。じゃ桐生。この子の本当の名前は?」
どうやら担任は魔王というのは冗談と取ったようだ。まぁ本気にされても困るが。
しかしどうする…名前考えろって言われてもなぁ。
魔王…マオウ…マオ……。
これだ!マオ!
「…えーと、そいつはマオって言います」
「マオね。どうもありがとう。…えー、みんな静かに!聞きたい事は休み時間に聞く事!…マオの席は…桐生の隣だ」
担任の言葉で、一旦席に着くクラスメイト達。
が、その視線は俺と魔王に向けられている。
…特に前の席から凄い睨まれてる気がする。
「桐生…じっくりと話を聞かせて貰うぜ?」
「……はぁ…」
…こりゃあ休み時間は休めそうにないな。
と、貴重な休み時間の心配をしていると
「勇者よ」
「…何だ?」
「なぜマオなのだ?」
あぁ…その事か。ちょっと考えたら分かると思うけど。
「魔王からマオを取っただけだぜ?」
でも個人的には素晴らしいと思うんだけどな、マオ。
俺が自分のセンスに少し自信を持ち始めた時、魔王はこう言い放った。
「まんまではないか」
「ですよね〜…って……お前にだけは言われたくねーよ!!つーかお前の方がまんまだろ!そのまま魔王って書くか!?普通!」
「おぉ、勇者が珍しく沢山喋っているぞ」
「おぉ、じゃねーよ!」
「えー…二人共、静かに」
担任に注意されてしまった。魔王のせいだな、間違いない。
「いや、今のはお前が悪いぞ、勇者よ」
「オイ、その心眼スキルはどうやったらガード出来るんだ?」
これから先も考えを覗かれると思うと、恐怖しか覚えないんだが。
すると魔王は勝ち誇った顔をしてこう言う。
「ふふっ…残念だったな、勇者よ。ガード不可だ」
「な、何だと…?」
馬鹿な、ガード不可で命中率100%だと!軽くチートじゃないか!
そう思った俺はつい叫んでしまった。
「チートは許さんぞおおぉーっ!!」
「…桐生、後で職員室に来なさい」
叫びすぎたせいか、担任から呼び出しを食らってしまった。
くそ…これも全部
「私のせいではないからな」
うわっ、読まれた。
…つか本当になんとかならないのか。あのスキル。
そんな訳でホームルームが終わった後、俺は職員室に向かった。
「失礼しまーす…」
「来たか、桐生。…まぁ座れ」
そう言われ俺は近くの椅子に座った。座らされたって事は結構時間かかるのか?
「桐生」
「さっき叫んだ事なら謝ります。すいませんでした」
「いや、その事はもういい」
?じゃあ俺は何の用で呼ばれたんだ?
「あのマオという子なんだが、どういう関係なんだ?」
「どういうって、ただの知り合いですよ」
ただの知り合いだったらどれだけいいか。
「本当にか?」
「本当ですよ」
なんだってこんなにしつこく聞いてくるんだ…あ、まさか魔王の奴変な事言ったんじゃないだろうな…。
「しかしな、転校の手続き中に住所を聞いたんだが、『勇…桐生京介と同じ住所だ』と言ったんだよ」
…面倒くさい事になっちまったよ。魔王の奴分かって言ってんのか?
「これはどういう事だ?場合によっては親に言わねばならないんだけど」
落ちつけ。考えろ俺…何かそれっぽい言い訳を…。
その時、俺の脳にこれ以上ないってくらい素晴らしい言い訳が浮かんだ。
マオは外人だろう。一応。なら
「実は…マオはうちにホームステイしてるんですよ」
「ホームステイ?いつから?」
「えーと…1年前くらいからですね」
どうだ、この言い訳。完璧だろ。
担任は少し間をおいて
「…なるほど。……まぁいいだろう。戻っていいぞ」
と言った。
俺の言い訳スキルが上がったな。…何か嫌だけど。
担任から解放された俺は教室に戻るため廊下を歩いていた。
「そういえば、今教室に魔王いるんだよな…」
そして、質問したくてウズウズしてたであろうクラスメイト達。勿論、秋山も。
「…ヤバイ気がしてきた」
担任に『男子と同棲してます』って言うような奴だ。
…絶対変なこと言ってる気がしてきた。
身の危険を感じた俺はダッシュで教室に向かった。…今日はよく走る日だ。
俺が教室に入ると、男子の半分くらいに怨念の籠もった目で見られ、その中のリーダーっぽい奴…っていうか秋山が俺に近寄ってきた。
「桐生…お前はこっち側の人間だと思ってたのによ…よくも裏切ったな!?」
多分、こっち側ってのは彼女居ない奴等の事だろう。つか俺も現在進行形でそっちだし。
…ていうか
「秋山、お前彼女出来たって言ってなかったか?」
「…フッ、3日前に振られたんだよ」
カッコつけられても…。
「俺の事はどうでもいい!桐生!聞かせろ!」
「何をだ?」
「…あの美少女と一夜を共にしたってのは本当か?」
「なっ…!」
魔王の奴!何でよりにもよって一番面倒くさい奴に一番面倒くさい事言うんだよ!
ふと、魔王を見るとこっちを見てニヤニヤ笑っている。
「…さてはあいつ、わざとやりやがったな」
「技を使ってヤっただと!?」
「違う!!」
なんつー聞き間違いだ!お前やっぱり馬鹿だろ!?
「何が違うってんだ!?…まぁいい。…お前等!桐生をひっ捕らえろ!」
秋山がそう言うと怨念軍団が俺を取り囲もうとしてきた。
こいつらガチだ…逃げるしかねぇ!
そう思った俺は教室を飛び出し、さっき走ってきた廊下を引き返す事にした。
「待てえぇーっ!!」
くそっ、こんな事になったのも…いや、今はそんな事どうでもいいな。とにかく逃げないと。
…本当に今日はよく走る日だぜ。
「ふっ……頑張って逃げたまえ、勇者よ…」
次回予告
「さて、勇者よ。次回予告だ」
「そうだな。…ところで前回の予告とタイトルが違うんだが」
「細かい事を気にしていては一流ゲーマーになれんぞ、勇者よ」
「え!…まぁなりたくない事はないが」
「であれば、気にするな」
「…まぁいいや」
「さて、今日はクレームが1件来ているぞ」
「マジかよ」
「佐藤というナレーションからだ。『最初しか出番がなかった。そろそろ出して欲しい』だと」
「作者に言ったらどうだ?」
「うむ、その通りだな。では次回『勇者は強盗と一緒』お楽しみに」
「じゃ、またな」