4番地 魔法使い、大学へ
今回は少し場所を変えて、大学が舞台です。
そして、小鹿の平穏をさらにかき乱す新キャラが登場します。
月曜の朝。
俺は大学へ行く準備をしていた。
寝室の向こうではクロエが机に突っ伏している。
「今日は大学?」
「ああ」
「いってら」
俺はそのままアパートを出る。
……しかし、このとき俺は気づいていなかった。
財布を忘れていたことに。
午前の講義が終わり、俺は教室棟を出た。
学食に行くため財布を出そうとして、ポケットを探る。
……ない。
バッグの中を探る。
…………ない。やらかした。財布がない。昼飯どうしよう。
そう思ったとき、背後から声が。
「探してるのこれ?」
振り向くと、そこにいたのは忘れようにも忘れられない青髪。
「……なんでいる」
「これ忘れてたから届けに来た」
クロエは俺の財布を差し出す。
「いやそれは助かったけども。なんで大学にいる」
「ついてきた」
さも当然かのように言うな。
結構目立つ外見なのに絡まれたりしなかったのか?いや、昨日スーパー行った時点で今更か。
「あと、俺間違いなく鍵かけて出たよな?まさか開けっ放しにしたなんてことは……」
「その心配はいらない」
そう言うクロエの手には1本の鍵が。
「……俺お前に合鍵渡した覚えないんだが」
「氷魔法使って型取って村の鍛冶師に作ってもらった」
「セキュリティやらプライバシーの概念とかないのかよ」
腹が減ったのもあってそれ以上ツッコむ気力が出なかった。のでそのまま学食へ。
……クロエも一緒に。若干不本意だが、まだ目立たない服で来ているのでよしとしよう。
昼飯時ということもあり、中は学生でかなり混んでいる。クロエはキョロキョロしている。
「食べ物がいっぱい」
「食堂だからな」
券売機の前まで来る。
「これは?」
「券売機。ここで食券買って向こうで渡す」
「合理的」
適当に定食を買い、空いている席に座る。
クロエはトレーの上の料理を見ている。
そして一口ずつ食べる。
「……どれもこれもおいしい」
「大袈裟だな」
軽口もそこそこに箸を進めていると、背後から声。
「よう小鹿!」
振り向くと、そこにいたのは牛込達也。大学の友人で、何かと好奇心の強い陽キャだ。
牛込は俺の正面の席を見る。そこに座るは青髪のクロエ。
数秒止まる。
「え、何、いつの間に彼女こさえた?」
「「コレとだけはない」」
「息ピッタリじゃん。どこで知り合ったんだよ?」
「いや、これはその……親戚の、預かりもので……」
我ながら苦しい言い訳だ。かといって、この場で馬鹿正直に話すわけにもいかない。
「ふーん……?」
ああ、やっぱり疑いの目!コイツ相手に俺ごときの嘘は通用しなかった。牛込のやつ、妙に鋭いところあるからな……。
正直コイツにバレるのは避けたかったんだが……。
「……ここだと人目が多すぎる。場所を変えて説明するわ」
「あれ、思ったよりヤバい案件だった感じ?」
人気のない場所へ移動し、意を決して事情を説明する。
「実は……寝室の壁が異世界につながった」
「新手の新興宗教か?」
宗教だとしてもそれで何を訴えるんだ。信じられないのは想定済みだが。
「俺だって信じたくないが、これを見ろ!」
そう言って、俺は事前に撮っていた寝室の写真をビフォー・アフターで見せる。
「えぇー……PHOT●SHOPで編集したにしてもどこ需要だよ?」
なおも疑っている牛込。いい加減説明に疲れてきたところで、流石に痺れを切らしたらしいクロエが前に出る。
「面倒くさい……そこまで疑うなら証拠見せる」
そう言うと、クロエは牛込が持っているペットボトルの水を一瞬で凍らせた。
「うわ、水が……!?」
「これで信じる?アキヒサの友達」
「……め……」
「「め?」」
「めっっっちゃ面白いことになってんじゃん!!!これとか夏場のキャンプとかで最強じゃん!」
「面白くねえって……あと声デカい」
「4コマ終わったらお前んち行っていい!?」
「OK」
「勝手にOKするな!」
「決まりだな!んじゃ、また後で」
ヒラヒラと手を振りながら去っていく牛込。
この後やってくるであろう波乱に胃が痛くなるばかりであった。
というわけで新キャラ・牛込が登場しました。
「氷魔法を活用して合鍵を作る」という、ある意味チートで恐ろしいスキルを披露したクロエ。
セキュリティ概念の崩壊した同居生活、先が思いやられますね……。




