第五話 衝撃
休日の公園のショッピングモールに一人の男が座っている。黒のレザージャケットに白Tシャツそしてジーパン。
ほぼ完璧な服装に身を包んだその男こそ俺、飯田京介――もとい、ブラッドシャイニングマスターだ。
突然だが今俺は敵の手中にいた。
事の始まりは二週間前、早乙女と激闘を繰り広げた際、奴は俺に一方的に感謝を述べ、今日この場所へと俺を呼び出した。
一体奴は何を考えている?まさか、あの時褒め称えたのはブラフ。真の目的は俺を油断させ、人目のないところで始末すること……そう考えていた。
だが、あえて奴の掌で踊ってやろう。踊りながら隙を見出し、この因縁に決着をつけるのだ。
「クククッ、心優しき俺に感謝するんだな早乙女ェッ……!」
「呼んだ?飯田くん?」
「ざゔぁんぷ!?」
背後から突然響いた声に、情けない悲鳴が漏れた。振り返れば、そこに彼女は立っていた。
今日の早乙女は、膝上丈の白いAラインワンピースに、ベージュのカーディガンをさらりと羽織っている。
ふんわりとしたパフスリーブから覗く白い腕と、清楚なラウンドネックに縁取られた首元。それは、気合を入れすぎないナチュラルな装いでありながら、見る者の視線を釘付けにする圧倒的な『光のドレス』だった。
その姿は目を奪われるほど――っていかーん!!!
まただ。保健室送りにされた時と同じ、強烈な精神汚染があああああああああ!!!
おのれ!早乙女ッ!すでに攻撃を仕掛けてくるとは! 抜け目ないな!
「おはよー!」
「おっ、おはよー!早乙女さん.....?」
「なんで疑問形なの、変なのー!」
ププッと早乙女が吹き出す。
し、仕方ないではないか! どう呼べばいいのか分からないのだ。
「ところで、今日は何故誘ったのだ?」
「へ? この前言わなかったっけ? ほら、期末テスト終わるし、お祝いとキーホルダーのお礼にお昼奢らせてって」
「あははー、そうだった。そうだった。ついうっかりしてたぞー!」
……完全に忘れていた。そんな事があったのか。あの時はもうそれを言われたことが衝撃でそれ以外覚えていなかった。
「ねぇ、せっかくだしさ。色々見て回らない? 」
「お、おう。構わんぞ」
先ほどから声が上ずる。落ち着け飯田。落ち着くんだ飯田。これは敵の策略に乗ってるだけだ。
「じゃあ、いこっか!」
早乙女がさっさと歩き出す。その後を追いながらも、先程から続く精神汚染と胸の鼓動は強くなるばかりだった。
■
小太りな体に丸縁眼鏡をかけ、背中にはパンパンに膨らんだ黒のリュックを背負っている男がいる。
そう、ぼくの名は織田管夫。
両手はいくつもの紙袋で塞がっており、端から見れば手持ち無沙汰で不自由そうに見えるだろう。
しかし、ぼくにとってそれは重荷ではなく祝福だった。何故なら――
『ブラブラっとDEATHブラブラ』の『ルイス・アーファルド』たん七分の一スケールフィギュアを、遂にその手に収めたのだから。
これまでずっと入手が限定的で、都会のanamaiteやGEHEARS、さらにはネット通販にも見つからなかった。
一生彼女とは縁がない人生なのだと、絶望していたこともあった。だが、ここに奇跡は起きたのだ!
辿り着いたのはショッピングモールの中古ショップ。
この際、彼女が中古だなんて関係ない……3500円という投げ売り価格で放置されていたことなど、どうでもいいのだ。
彼女と出会えた。ただそれだけで十分だ。
「もう二度と離さないからね、ルイスたん……っ!」
右手の紙袋を強く握り締めた、その時。
「ハッ……」
ぼくの手から、魂よりも重いはずの紙袋が滑り落ち、床に無機質な音を立てた。
「な、なんだよ。あれ!!」
目の前にはぼくに想像し難い光景が広がっていた。
視線の先。ショッピングモールの一角にあるネットカフェの前で、あまりにも不釣り合いな男女が立っていた。
その姿は間違いない。厨二病という哀しい病を背負った少年であり、冴えない同胞である飯田。もう一人は噂の美少女転校生、早乙女若葉だった。
「う、嘘だ……そんなことあるはずが」
早乙女に手を引かれ、耳を赤くして狼狽える飯田。
二人の姿は、そのまま吸い込まれるようにネットカフェへと消えていった。
「昼間からなにするつもりだよおおおおお!!!」




