第三話 邂逅
俺の名はブラッドシャイニングマスター。混沌から世界を守りし、孤高の守護者。
……遂に、この刻が来た。
あの忌まわしき女、早乙女若葉に断罪の鉄槌を下す、審判の日がッッッ!!!
今、俺は奴を討つべく、自宅の玄関にて最終準備を行っている。
凡俗なる貴様らにもあるだろう? 決戦を前に、士気を高める儀式が。
俺が選んだのは、伝説的聖典『ブラブラっとDEATHブラブラ』の挿入歌――『ブラブラDEATH行進曲』だ。
『ブーラブラブラ DEATH!DEATH!ブラブラついでに DEATH!DEATH!二時間待っても 誰も来ない
それでも人生 ブーラブラ』
「……良しッッッ!!!」
胸の奥底で、魔力が滾るのを感じる。
俺は抑えきれない衝動と共に、玄関のドアを蹴破らんばかりの勢いで開放した。
「ドア壊れるでしょうが!!」
背後から、聖母の咆哮が聞こえた気がしたが、もはや些事。
俺は疾風となり、運命の地へと駆け出した。
潜伏任務:現在六時十五分
目的地は、早乙女家の側近にそびえ立つ、漆黒の電柱。
俺はこの日のため、情報屋(織田)に命じ、奴の居所を特定させておいた。
勝つためには手段を選ばない。冷酷なる執行者、それがブラッドシャイニングマスターだ。
到着時刻:六時三十分
少々、刻を早めすぎたか。学園のSHR開始まで、まだ120分以上の猶予がある。
だが、これでいい。早乙女は魔性の女だ。これほどの早朝から、街を混沌に陥れる「悪魔の儀式」を企てている可能性も否定できん。
「フッ……作戦第一段階、完了だ」
俺は電柱の影に身を潜め、第二段階 へと移行する。ひとまず待機だ。
――1時間経過。
「遅い……遅すぎるではないか、あの女」
何をちんたらとしているのだ。この俺が1時間も待機してやっているというのに、一向に現れる気配がない。あの女この俺を待たせるとは、万死に値するぞ! 馬鹿がッ!
「クッ……クッウウウ…………!」
「ママ、あの人なにしてるの?」
「見てはいけません。行くわよ……」
……無垢なガキが何かを囁いていたが、気にするな。これは認識阻害が解けているわけではない。俺の覇気が強すぎるだけだ。
――2時間経過。
「……う、うう……くぅ……」
膝が、震えている。
俺は自らの愚かさに、魂が削れるのを感じていた。
二時間もこの電柱に身を潜めて、何をしているのだろう。
自分が情けない。世界の守護者が、朝から何という醜態を
――頼む、もう誰でもいいから出てきてくれ……。早く俺を終わらせてくれええええ!!!
「ハッ!!!」
その時、脳内に電撃が走った。
……もしや。これも奴の攻撃か!
この虚無感と自己嫌悪こそが、奴の放った広域精神汚染。
奴は俺がここに来ることを見越し、あえて現れないことで俺の精神を内側から崩壊させる策に出たというのか!?
「おのれ早乙女……あんな、のほほんとした腑抜けた笑顔の裏に、これほどの策略を隠し持っていたとは……。恐るべき策士ッ!」
俺は改めて、とんでもない怪物を相手にしていることを確信した。
その時だ。早乙女家の玄関から遂に現れた。
我が校の制服を纏い、漆黒のロングヘアーをたなびかせ、なおかつ麗しき美貌を兼ね備えている、あの最強の美少女は!!
奴だ。早乙女若葉だ。
「遂に……遂に、この刻が来たッ!」
俺の推測は正しかった。やはり奴はまだこの家にいたのだ。
「地獄への片道切符、受け取ってもらうぞ……!」




