第一話
俺の名は飯田京介。だがそれは世を忍ぶ仮の名だ。真名はブラッドシャイニングマスター。
やがて世界を混沌から守りし者。今貴様らの脳内に直接語りかけている。
突然だが俺は今人生で最大の危機に陥っている………
世界を滅ぼす大魔王が遂に俺の目の前に現れたのか、それとも数多の魔物が地獄の門から出現して今にも地上を埋め尽くさんとしているのか、はたまた俺の身体が魔に乗っ取られてしまったのか。
他にも色々な思惑が貴様らの脳内を駆け巡っただろう。だがどれも否いな!
答えは至ってシンプル。
一人の女から精神汚染を受けているのだ。
今貴様らはあまりの衝撃に膝から崩れ落ちただろう。
場合によっては衝撃的過ぎて気絶した者もいるかもしれん。それと同時に俺への反感を持つ者もいるかもしれない。
なんだ。その程度のことか、それくらい簡単に解決できるんじゃないか? アンタほどの力の持ち主ならと。
そう思っている奴らに俺は一言言いたい。BAKAが!!!
貴様らの思ってるようなた・だ・の精神汚染なら、その程度のことでこの俺ブラッドシャイニングマスターが追い詰められるわけがないのだ。
事態は思ったよりも深刻、かつ重大なのだよ。これから話すことは全て真実だ。
これが俺の目前で起こった。そのことを意識して聞いてもらいたい。
事の始まりは2週間前、知っての通り俺は私立馬路奇智高校に通っている高校1年生だ。
SHRの10分前にクラスへと辿り着いた俺は荷物を置き、いつものように廊下へ出る。このように、SHRや、休み時間のときに生徒に危険がないか、見守るのが俺の役目だ。
「フッ……………」
この学校の生徒はいつも俺に尊敬の念を送っているだろう。安心しろ。万が一、魔物や不審者が現れたときはこの俺が倒してやる。
廊下で腕を組む俺の姿は、さぞや威圧感に満ちていただろう。
実際は標準的な身長に、特筆すべき点のない制服姿。どこからどう見ても「クラスのモブ」でしかない俺だが、それは世界を欺くための完璧な擬態に過ぎない。
内側から溢れ出す覇気は、この程度の薄い制服の布切れ一枚では隠しようがないのだ。
「前から思ってたんだけどお前いつもここで腕組んでなにしてんの?」
「世界の平和を守ってるのさ…………」
「…………」
俺のあまりのカッコよさになにも言えなくなってるこの男は隣のクラスの幼馴染岡山遊戯。
「お前の方こそいつもは3時間目にくる癖に今日は早いではないか」
この男、高校はほとんど遅刻するし、売られた喧嘩は全て買い、生意気なやつならそれが教師でも堂々と盾突く。おまけに金髪。お手本のようなDQNだ。
ちなみに喧嘩は負けたことがなく、全て勝っている。
まあ俺の足元にも及ばないがな。俺とコイツが戦えば3秒で肩がつく。当然俺の勝ち。
「あぁ、それな。今日お前のクラスにめちゃくちゃ可愛い女の子が転校してくるって聞いていても立ってもいられず、見に来たってわけ」
めちゃくちゃ可愛い子=美少女=突然転校してきた美少女って…………
「――まさかそいつ能力者か!?」
「は?」
「美少女の転校生といえば謎の能力者などが定番だろ」
「お、おう」
なんだその反応は。前から思っていたが、やはり変なやつだなこいつ。
まあこういう感じなのもあって、岡山に話しかけるのは俺くらいと言う訳だ。かわいそうに。
「それで、その超絶美少女転校生とやらはいつ来るというのだ。」
「お前のクラスのことなんだからお前が一番知ってるはずだろ………」
「そんなこと知るわけがないだろこの俺が。俺は世界の平和を守るために忙しいのだ」
「お前、最近どうしちゃったんだよ、マジで。高校2年に上がってから別人のようになったけどさ」
「俺は何も変わってなどいない、あの時から…………なにも」
キーンコーンカーンコーン。
「あ、貴様がモタモタしてるからチャイムが鳴ってしまったではないか!」
「完全にお前の自分語りのせいだろうが!人のせいにすんな!!」
モタモタしてる訳にはいかないのだ。俺は表向きには普通の高校生。なので不審に思われるわけにはいかない。早く席につかなければ。
教師が来る前に急いでクラスへと戻り、席へと着いた。
「はい、お前ら、先週言ってた転入生を紹介するぞ」
「遂に来たか!」
「待ってたぜ、美少女」
「付き合ってぇぇぇ!!」
「まだ入ってきてねぇよ、カス!!」
クラス中がガヤガヤと騒々しくなる。まるで男どもは発情期の猿のようだ。
「入ってきていいぞー」
「はい………!」
ガラガラとドアを開け、入ってきた。その少女は。黒髪でサラサラなロングヘアーに。ぱっちりとした瞼。色白の肌。
典型的な美少女である。
「さ、早乙女若葉です………! えっと……みんなとは違って途中からだけど仲良くしてくれると嬉しいです………!よろしくお願いします」
彼女からは何も感じない。なんだ普通の美少女ではないか。
「早乙女は飯田の隣の席な」
担任のその言葉に、クラス中から殺意に近い嫉妬の視線が突き刺さる。だが、俺は動じない。
たかが転校生如きに何を興奮しているのだ。このクズ共は。この俺のようにいつも冷静で、慎つつましく――
隣に座ろうとした早乙女若葉の気配。その瞬間、机の端に置いていた俺の消しゴムが、床へとダイブする。
「あ、飯田くん。消しゴム落ちたよ?」
ガタッドダダダダン!!!
「うぉい、どうした飯田!?」
「飯田君が突然倒れた!」
「気絶してるよ!?先生保健室!」
気づけば俺はどこかのベッドで寝かせられていた。
「……………知らない天井」
「じゃねぇわ、馬鹿」
聞き慣れた女の声。だが、そこにはドスの利いた響きが混じっている。視線を向ければ、茶髪でボブヘアの少女がいた。そう、その姿こそ――
「我が親愛なるマイシスター!」
「可能なら、今すぐアンタと家族の縁を切りたい」
突然の修羅場!?
「そんな冗談はともかくここは何処だ」
「アンタが毎回のように仮病で転がり込んでくる保健室」
「え、なんで?」
「こっちが聞きたいわ! 期末試験一週間前の気合入れて授業受けてるとき、急に兄が倒れたって呼び出される妹の気持ちになって!!」
「フッ…………期末試験など人類の滅亡に比べれば些事。世界を混沌から守るこのブラッドシャイニングマスターの命が守られただけ良いではないか」
「一度でもアンタを心配した私が馬鹿だった!!」
すると涙目の妹が俺のベッドに乗っかかり、顔面を執拗に殴ってくる。
ここである一定の層からすれば、羨ましがられる展開だが、生憎俺には実の妹に乗っかかられ興奮するような性癖はな――
「痛っ、親にも殴られたことな、あっ、ちょっ、たんま、せめ、て最後まで言わせ、いたっ!」
「うるさい、うるさい、うるさい!!!」
「いた、いって、やめ、ろって、ギブ、ぎぶあ――」
妹による無慈悲な蹂躙は、カーテンの奥から聞こえた声により、ひとまず幕を下ろした。
「あ、あのすいません。飯田くんいますか…………?」
するとそそくさと何もなかったかのように定位置に着き、泣き真似をする妹。器用なやつだ。ぶん殴ってやりたい。
「む、無論だ、誰だかわからんが入ってきても良い」
「失礼します………」
入ってきたのは例の転入生だった。
「早乙女若葉です」
そして彼女の顔を見た瞬間俺は言葉を失った。
「飯田君だったよね? 体調大丈夫?」
「あ、えっと、だだだ、大丈夫だ」
「そ、そう? まだちょっと体調悪そうだよ? 顔傷だらけだし………ごめんね、もしかして、私のせい?さっき倒れちゃったのって」
「そ、それは、あの」
「気にしないほうが良いですよ、早乙女さん。うちの兄いつもこんな感じなんで」
「ちょっ!!」
何言ってんだこの馬鹿!!これでは俺が趣味でよく失神する様子のおかしい奴ではないか、
ただこの転入生のせいで気を失ったわけではないのは確か………だ。
お、俺があの程度で屈するがはずがない。マジで!
「良かったぁ……」
彼女は安心したようにホッと息をつく。
「えっと………妹さん?」
「真那でいいですよ」
「真那ちゃんだね。わかった」
「飯田君に、真那ちゃん、これから仲良くしてくれると嬉しいな」
ニコりと彼女は笑顔で微笑んだ。
――その日からだ。気づけば俺はあの女のことを考えることが多くなった。
あの女のことを考えると心臓がキュッと引き締まり、鼓動が止まらない。
あの女に出会ったときには、頭の中が真っ白になってしまい、何も言葉を発する事ができなくなってしまう。
寝る前、いつも保健室の時の笑顔が頭にこびりついて夜も眠れない。なんだ。なんなのだ。この気持ちは。アイツは一体………
そして俺は確信した。この気持ちの正体を。
あの女に抱くこの気持ちはまさか………俗に言う執念!?
俺はまさか前世であの女と深い因縁があり、幾度の死闘を繰り広げたが結局決着が着かずにお互い死んでしまった!!
そしてその因縁の決着をつける為に女はここへ再び現れた。
それなら俺がここまで追い詰められる理由もわかる。うむ、ありえる、ありえるぞ!!
俺がここまで追い詰められることは初めてだ。もしかするとこれは神からの俺への試練なのかもしれないな。
フッ…………良いだろう。受けてやるとも。
俺はあの忌まわしき女を倒し、長きに渡る因縁に決着を着け、この試練を乗り越えるっっっっ!!!
俺の人生最大の戦いが今始まる!!!!
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