第9話 農民、妖精を仲間にする
七層を突破し、さあ八層へ――と階段を探していると、ふわりと光の粒が近寄ってきた。
一体の小さな妖精だった。
「おっと? シロップの残党狩りか?」
「ちょっと! また鍬構えないで!」
レイカが慌てて俺の腕を押さえる。
妖精はにこにこと手を振り、俺のリュックを指差した。
「……もしかして、これ?」
取り出したのは、まだ残っていた蛍光ピンクのシロップ瓶。
キャップを外して差し出すと、妖精は嬉しそうに飛びつき、ゴクゴク飲み干してしまった。
「お、お前……案外雑な飲み方するな」
「ちょ、かわいい……!」
レイカが目をキラキラさせている。
そんな俺たちの耳に、突如として声が響いた。
――聞こえる? 私、妖精のルピナっていうの。
「!? 頭の中に直接!?」
「きゃー! かわいい自己紹介きた!!」
――アンタたちのおかげで、魔女に使役されてたのから解放されたの。
――シロップも美味しかったし……これからついて行くわ。
――その代わり、時々美味しいものちょうだいね。
「………………」
レイカは感激して両手で口を押さえている。
俺はというと――
「……まあいっか」
いつものごとく即了承。
ダンジョンで妖精を連れ歩くとかヤバそうだけど、こいつ食い物で買収できるなら問題ない。
農家の冷蔵庫は潤沢だ。
「やったぁ! 妖精仲間とか最高じゃん!」
「お前、完全に観光気分だろ」
そんなやり取りをしていると、俺のスマホがピコンと鳴った。
【通知】
仲間加入:妖精ルピナ
固有スキル【妖精魔法】を使用可能になりました。
特典として「妖精の加護」を獲得しました。
「……おお、またチート感ある通知きた」
「仲間加入って、ソシャゲみたいだね!」
スマホを掲げる俺の隣で、レイカと妖精ルピナは手を取り合ってクルクル回っていた。
……なんだろう。戦力アップのはずなのに、急にパーティの空気がメルヘンになってきた。
俺はそっとリュックの奥を確認する。
次に備えて、シロップもう何本か買っておくべきかもしれない。
「俺、農家なんですけど〜スコップはダンジョンを制す〜」という作品も連載しています。
よろしくです。
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