第8話 農民、妖精にシロップを振る舞う
「……ねえ拓海」
「なんだ?」
「鑑定スキル、最初からショップで売ってたみたいなんだけど」
スマホを突きつけられる。
確かに【初心者必須アイテム:鑑定の書 たったの100ポイント!】とある。
「ひゃ、ひゃく!? 鍬の1000分の1 !?え、マジで!?」
「今まで拾った怪しい液体、全部放置してきたじゃん! 必須アイテムだよこれ!!」
「……安物買いの銭失いってやつか」
「買ってすらないからね!?」
レイカに小一時間説教されつつ、俺たちは七層へと降りていった。
七層。そこにいたのは――小さな羽を生やした妖精たち。
きらきら光って、見た目はめちゃくちゃメルヘン。
「……おお、ファンシー」
「よし、倒すか」
俺が鍬を構えた瞬間――
「バカ拓海ぃぃぃ!!!」
レイカが全力で俺にタックル。危うく吹っ飛ぶところだった。
「なんで!?」
「妖精はファンタジー世界の友好種族! 倒しちゃダメでしょ!!」
「ダンジョンだぞ!? 友好とか信用ならんだろ!」
結局、俺が攻撃する前に妖精たちの群れが襲ってきて、俺たちは防戦一方。
攻撃しても効かず、仕方なく六層まで退却する羽目になった。
「はぁ……なんか攻略法ねえかな」
スマホを開き、ショップをスクロールする。
すると「妖精の蜜」というアイテムが売られていた。
「お、これじゃね?」
「でもそれ、ただの回復アイテムでしょ?」
説明欄を読むと確かに「妖精の好物。摂取するとHP小回復」とある。
……待てよ。
「……あ、そうか!」
「な、なによ急に!」
「イチゴシロップ! あれ妖精の餌じゃね!?」
リュックから例の蛍光ピンクの小瓶を取り出し、七層へ戻る。
妖精の群れに向けて、シロップをパシャッと撒いてみた。
「きゃきゃきゃ~~♪」
「ひゃっほーい!」
妖精たちは一斉に群がり、あっという間にシロップに夢中。
俺とレイカには見向きもしない。
「……え、マジで避けられた」
「本当にジュース扱いじゃん!」
こうして俺たちは一滴の血も流さずに七層を突破。
最奥のボス部屋に入ると、そこにいたのは妖精ではなく――
黒いとんがり帽子にマント、いかにも童話に出てきそうな魔女。
「ほうほう、よくぞここまで――」
「セイヤッ!!!」
ズバァァァンッ!!!
レイカの一閃で終了。
「……また俺の出番なし」
「まあ、これはもう警察官の職務よ」
そう言って刀を振るう幼なじみの背中を見ながら、俺はしみじみ思った。
このダンジョン、攻略法が農業と食い物でなんとかなってる気がする。
「俺、農家なんですけど〜スコップはダンジョンを制す〜」という作品も連載しています。
よろしくです。
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