第6話 農民、畑に夢を見る
四層目から先のダンジョンは、地獄のようだった。
壁や天井をうねうねと這うヘビ。足元をカサカサと走り回る巨大ムカデ。
極めつけは、顔ほどもある羽音ブンブンの虫。
「ひぃぃぃぃぃ!! 無理無理無理!! 絶対無理!!!」
レイカは銀刀を放り出し、俺の背中に張りついた。
さっきまでの無双っぷりが嘘のように、顔面蒼白で震えている。
「いや……まあ、男でもこれはキツイけどな」
爬虫類と虫系は、苦手な人間のほうが多い。
警察官とはいえ、女の子がギブアップするのは当たり前だろう。
「仕方ねえな。ここからは俺の出番ってわけだ」
俺は万能農具を鍬に変え、振りかぶる。
「耕せぇぇぇ!!!」
ズドドドドドッ!!!
一振りするごとに地面が耕され、モンスターたちはミンチになって土に還っていく。
ヘビもムカデも巨大虫も、全部が「バリバリバリッ!」と砕けて、ふかふかの黒土へと変化。
「……え、すご……」
レイカがぽかんと呟く。
ダンジョンの通路は、いつのまにか立派な畑の畝みたいに整ってしまった。
「ふぅ……やっぱ農作業は体にいいな」
「いやいや! 今の戦闘だよね!? 戦闘だったんだよね!? なんで農業終わったみたいな顔してんの!?」
俺は周囲を見渡しながら、ふと思った。
これ、畑化したダンジョンの土に野菜を植えたらどうなるんだろう。
「……ダンジョン産のナスとか、めっちゃ美味そうじゃね?」
「はあああ!? そんなこと考えてる場合!?」
レイカの絶叫を聞き流しながら、俺の頭の中はすでにカレーの献立でいっぱいだった。
ダンジョンナスとダンジョンジャガイモ、そしてモンスター肉のカレー。
世界を救うより、よっぽど大事なことに思えてくる。
その間にも、次々と湧いて出る虫と爬虫類モンスターたち。
だが俺が鍬を振るうたびに――
「ズバァァン! ドドドドドッ!」
畑が広がり、モンスターは全部、土の養分に変わる。
「……これ、もはや駆除作業っていうか……農地拡大じゃない?」
「そうだな。ここで農業始めたら地元ブランドできるかもしれん」
「ブランド化する気ぃぃ!?」
こうして俺は、ダンジョンを攻略しながら“農業開拓”を進める、世界で唯一の農民プレイヤーとなった。
「俺、農家なんですけど〜スコップはダンジョンを制す〜」という作品も連載しています。
よろしくです。
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