ダンジョンの真実
黄金の尾が静かに揺れる中、妖狐・葛の葉は穏やかな声で語り出した。
「私たちは……もともと、あなた方人間と同じ“地球”に住む存在です」
拓海とレイカが思わず顔を見合わせる。
「え、人間と同じ世界って……どういうこと?」
「ただ、私たちは“精霊界”と呼ばれる別の層に暮らしているのです。
昔は人間界と行き来できました。人々が自然を敬い、精霊を信じていた時代にはね。
でも、人間界の文明が進むにつれ、精霊たちは居場所を失い……やがて交流も絶えてしまいました」
どこか寂しげな微笑を浮かべる葛の葉。
まるで昔を懐かしむように、金色の尾がゆらゆらと揺れる。
「しかし――最近になって、異変が起きました。
“人間界を支配しようとする者たち”が現れたのです。
不死王ネクロス、炎王イグニス……そして彼らは異星の者と手を組み、この忌まわしい“ゲーム”を始めました」
「異星の……?」
拓海の眉がピクリと動く。
「ええ。異星の存在がダンジョンシステムを提供し、不死王たちはそれを利用しているのです。
本来、精霊界は“精霊王様”が治める平和な世界でした。炎王も不死王も、そして私も、その方の配下でした。
しかし、すべては精霊王様が亡くなられた直後から……狂い始めたのです」
葛の葉の表情が陰る。
「本来、精霊王様は亡くなられても、すぐに精霊界のどこかで“転生”されるはずなのです。
けれど、今回は転生が起きませんでした。
恐らく、不死王ネクロスが精霊王様の魂を封じてしまったのでしょう」
拓海もレイカも、しばし言葉を失った。
その沈黙の中、葛の葉の尾が一層しなやかに揺れる。
「どうか……どうか、この“ゲーム”を終わらせてください。
我々精霊は争いを望みません。早く、元の世界で静かに暮らしたいのです。
どうか……精霊界をお救いください……!」
葛の葉の瞳に涙が浮かぶ。
その涙は、長い年月の中で積もった悲しみの結晶のようだった。
沈黙の中、最初に口を開いたのはルピナだった。
いつもの軽口も笑顔もなく、真っ直ぐな目で葛の葉を見つめている。
「ねぇ、拓海……。私からもお願い」
「……ルピナ?」
「不死王ネクロスがどんな奴か、私、この目で見たんだ。
あいつ……精霊たちを兵器みたいに扱って、使えなくなったら平気で壊すの。
同じ精霊として、もう見ていられない。
お願い、精霊王様を助けて。私の故郷でもある精霊界を救って!」
ルピナの小さな拳が震えていた。
それでも、その声には迷いがなかった。
拓海は目を閉じ、少しだけ考えたあと、口を開く。
「……ああ。奴には俺にも因縁がある。
それに、どうせ勝たなきゃ人間界も終わりなんだろ?
だったら全力でやるさ」
レイカも腕を組んで、ふっと笑う。
「ま、こうなったらもう引き返せないしね。
“悪党の王”って響きもムカつくし、人間界とルピナのためにも、私も頑張るわ」
ルピナはぱっと顔を明るくして、翼をパタパタさせた。
「ありがとう、2人とも! これで希望が見えたよ!」
拓海は苦笑しながら頭をかく。
「まぁ、希望っていうか……また面倒ごとが増えただけな気もするけどな」
「何言ってるのよ、拓海。私たち、いつもそうでしょ?」
「……それもそうだな」
ルピナがクスクスと笑う。
葛の葉も静かに微笑んだ。
その表情は、どこか救われたようでもあり、懐かしい母のようでもあった。
こうして拓海たちは、“ダンジョンの真実”と“精霊界の悲劇”を知り、
新たな決意を胸に、次なる戦いへと歩き出すのであった。




