ヘビ嫌いとウナギ談義
「……おいおい、マジかよ」
拓海が思わず後ずさる。
目の前に現れたのは、洞窟いっぱいを占める巨大なアナコンダ。
岩肌をズルズルと這う音が響き、口からはいやらしい舌がチロチロとのぞく。
「なるほど……そういうことか」
拓海は腰に差した小瓶を取り出す。
「このガマの油、巻き付かれたときに体を滑らせて脱出しろってことだな」
その理屈は正しい。正しいのだが――
「ひぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!」
レイカの悲鳴が洞窟に木霊した。
普段は冷静な彼女が、顔を真っ青にしてへたり込む。
弓を握る手も震えっぱなしだ。
「レ、レイカ……?」
「む、無理! 無理無理無理!! 大嫌いなのよ、ヘビだけはっ!」
完全に戦意喪失。弓どころか、今にも泣き出しそうである。
「拓海ー! どんな手を使ってもいいから早くこの階層抜けるわよ!」
「はぁ……やれやれ。しゃあねぇな」
拓海は肩をすくめ、万能農具を構えた。
次の瞬間――
「ファイヤーーーッ!!!」
ゴォォォォッ!
火炎放射が洞窟を焼き尽くし、アナコンダは悲鳴をあげる間もなく黒焦げに。
進路を塞いでいた蛇の大群もまとめて丸焼きにされ、道はすっかりきれいになった。
「……終わったぞ」
「う……ありがと。ほんっと、ヘビは無理なのよ」
まだガクガク震えているレイカ。
「はいはい、怖いのはわかったから。次行くぞ」
拓海は宝箱を開け、中から小瓶を取り出した。
「お? 毒消しポーションか」
「毒消し? ってことは……」
「次の階層は毒蛇だな、多分」
拓海の言葉にレイカの顔がさらに引きつる。
「もーーっ!! ヘビは嫌だって言ってるでしょー!!!」
耳まで真っ赤にして抗議するレイカ。
「いや、でもこれ流れ的にそういうことだろ。……どうせならウナギだったらよかったんだけどなぁ」
拓海がため息混じりに言った瞬間――
「ウナギ? なにそれ? どんなお菓子?」
すかさずルピナが食いついてきた。目がキラキラしている。
「お菓子じゃないけど……美味いぞ。甘辛いタレをかけて、炭火でじっくり焼いてだな……」
「ふーん……」
一瞬興味を示したルピナだったが、次の瞬間、ぷいっと顔を背けた。
「お菓子じゃないならいーや。私チョコ食べたーい」
「お前……話聞いてただろ……」
拓海がガックリとうなだれる。
「ヘビは嫌! 絶対嫌!!」
「お菓子ちょうだい!」
「……俺の立場ないんだけど」
そんな三人の掛け合いを響かせながら、一行は次の階層へと足を踏み入れるのだった。




