第3話 伝説になる農夫
「これより、ライセンス試験を開始する!」
会場のアナウンスと共に、受験者たちが一斉にざわめいた。
試験項目はシンプル。腕力、瞬発力、脚力、走力、持久力の測定。
世界各国の研究者が“ダンジョン帰り”の人間の能力を調べるために設定したテストである。
「はい次、ベンチプレス二百キロ挑戦者どうぞ!」
「軽いっす!」
ドン、と持ち上がるバーベル。観客がどよめく。
次々とステータス持ちたちが世界記録を軽々更新していく。
拓海も呼ばれたが、本人は気乗りしない。
「(はぁ……こういうの、正直めんどくさいんだよな)」
そんなことを考えながら、ベンチにごろりと横たわり、バーベルを持ち上げた。
――結果、世界記録更新。
「……え?」
本人が一番ポカンとしていた。
周囲から注目の視線が突き刺さる。
その後も同じ調子だった。
反復横跳び。ちょっと腰をほぐすつもりで動けば、センサーが壊れたかのような数値。
垂直跳び。軽くジャンプしただけで天井に頭をぶつける。
百メートル走。「ダッシュ」ではなく「駆け足」くらいのつもりだったのに電光掲示板には金メダリスト超えのタイム。
十キロマラソン。本人は軽いジョギング感覚だったのに、ゴールしたらぶっちぎりの一位。
「お、おい……あいつ、なんだ……?」
「農家にしか見えねえぞ……?」
「いや、鍬持って畑耕してただけで、ステータスがエグいのか……?」
そんなヒソヒソ話をよそに、拓海はあくびを噛み殺していた。
そして最後の試験。
「最終項目は、得意武器による破壊力測定! 用意されたコンクリートブロックをどれだけ破壊できるかだ!」
受験者たちが次々と挑む。
鉄の棒、木刀、槍……。初心者はホームセンター感あふれる武器が多い。
一方、上位勢はスマホショップ製の魔剣や特殊武器を披露し、観客を沸かせていた。
そして、拓海の番。
「お、おい……あれ見ろ……」
「鍬だぞ……? 農具じゃねぇか……!」
「いや、鎌とかなら分かるんだが……鍬はないだろ……」
ざわめきが一段と大きくなる。
さっきまで全項目でトップクラスの結果を叩き出してきた男が、よりによって鍬を武器にしているのだ。
「(あー……また悪目立ちしてるなぁ)」
拓海はため息をつきつつ、コンクリートブロックの前に立った。
そして、特に力を込めるでもなく、いつもの畑仕事のように「よいしょ」と鍬を振り下ろした。
――ゴゴゴゴゴ!
轟音と共にブロックは跡形もなく粉々になり、砂塵が舞い上がった。
周囲は一瞬、静まり返った。
「……お、おい」
「ブロック、消えたぞ……?」
「鍬……強くね……?」
次の瞬間、会場は大騒ぎ。
「農具最強説!」
「俺も鍬に持ち替える!」
「武器屋じゃなくて農機具屋行こうぜ!」
妙な熱気が広がっていく。
拓海はというと、汗をぬぐいながらポツリ。
「……やっぱり、また悪目立ちしてるじゃねぇか」
こうして、拓海は一部で 『伝説の農夫』 として名を知られることになり、なぜか冒険者の間で鍬人気が高まるという奇妙な現象を巻き起こすのだった。




