第4話 幼なじみ、木刀で参戦を主張する
裏山のダンジョンの前。
俺が「潜ってくる」と宣言すると、レイカが立ち上がって言った。
「……私も行く!」
「はあ!? いやいや、レイカは逃げろよ! 危ないって!」
「拓海こそ、ダンジョンで農作業とか意味わかんないし!」
「これは農業だ! 農業は世界を救うんだ!」
「そんなスローガン初めて聞いたわ!!」
俺とレイカの言い争いは、一見漫才のようだった。だが彼女は本気の目をしていた。
「いい? 私は剣道三段よ。油断してなければ大丈夫。木刀さえあれば大丈夫!」
レイカは車に駆け戻り、トランクから竹刀袋を引っ張り出してきた。
中身は……木刀。
「な、なんで警察官が木刀常備してんだよ!」
「心の拠り所よ!」
「それより拳銃持て拳銃!」
「交番勤務は木刀で十分なの!」
いや、十分じゃねえだろ。
俺は額を押さえつつ、彼女の目の真剣さに押される。
「拓海。これは私の職務でもある。治安維持のために放置はできない」
「……ぐっ」
正論。しかも幼なじみ補正で強い。
だが、このまま木刀で突撃させたら、即モンスターのエサだ。
「……しゃーねえ」
俺はスマホを取り出し、ショップを開いた。
「武器」のタブをスクロールしながら、レイカを横目で見る。
「え、ちょっと何やってんの?」
「武器買ってやる。お前が木刀で殴り合って死んだら寝覚め悪い」
「へ? 買うって……通販?」
「異星人の通販だ。即日配送、てか即時召喚」
「即時召喚通販!? なにそれ怖い!」
レイカが引いている間に、俺は【初心者用武器】カテゴリから「精霊刀」をタップ。
価格は一万ポイント。農具に比べりゃ安い。
スマホが光ると、レイカの手元に一本の白銀の刀が現れた。
木刀が、キラッキラの刀に差し替わっている。
「……え、ちょっ、これ、本物? 重っ! すご……!」
「それでいい。どうせなら木刀より本物の方がマシだろ」
レイカは目を輝かせ、試しに振ってみる。
風が切り裂かれ、木の葉がスパッと落ちた。
「すごい……! 私、これなら戦える!」
「……マジかよ」
剣道バカ補正でテンション爆上がりのレイカ。
このままじゃ絶対一人で突っ込む。
結局、俺が止めるより一緒に潜ったほうが安全だという結論に至った。
「はぁ……しゃーねぇ。レイカ、一緒に来い」
「うん!」
満面の笑みでうなずくレイカに、俺は頭を抱えた。
裏山のダンジョン攻略――農民と警察官(剣道バカ)の奇妙なコンビで挑むことになってしまった。
「俺、農家なんですけど〜スコップはダンジョンを制す〜」という作品も連載しています。
よろしくです。
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