第34話 不死の王との決着
「やはり……炎王殿を探すには、手駒が欲しい」
ネクロスの声は冷徹だった。
拓海の胸を貫いた爪が、ずるりと引き抜かれる。血が広がり、彼の身体が石床に崩れ落ちた。
「農夫よ。我が魔力を分け与え、配下にしてやろう。意志のない操り人形に過ぎんが、力は約束する」
マントを翻し、ネクロスの掌に黒々とした魔力の雫が生まれる。それは邪悪な光を放ちながら、拓海へと降りかかろうとしていた。
「だめっ!」
ルピナが悲鳴を上げ、拓海の背負っていたカバンへ飛び込む。小さな手で必死にまさぐり、煌めく瓶を引き抜いた。
「これしかない……!」
そう叫び、黄金の液体を拓海へと投げかける。
黒雫とエリクサーが同時に拓海の身体に染み込んだ。
相反する二つの力がせめぎ合い、肉体の奥で爆ぜる。
「……っは!」
拓海の目が、力強く見開かれた。
その手に握られた竜骨の万能農具が再び燃え上がる。
「おおおおおおっ!!!」
炎が広間を呑み込み、ネクロスを直撃する。
「む……? この炎……さきほどと違う、力が……!」
驚愕の声を残し、黒き王の身体は灰となって崩れ落ちた。
炎が消えたとき、広間に残ったのは灰の山と、崩れ落ちる万能農具の残骸だけだった。
「……勝った、のか?」
拓海は膝をつき、血に濡れた手で灰を見つめる。
だが、半信半疑のままスマホを取り出し、鑑定をかけた。
《ドッペルゲンガーの死体》
その文字を見て、拓海とルピナは凍りついた。
「やっぱり……終わってない」
拓海が身構えた瞬間、灰の中から黒煙が立ち昇る。
「身構えずともよい。我は幻影に過ぎぬ」
ゆらりと現れたのは、ネクロスの影だった。
「本体は別の地にある。……だが驚いたぞ。まさかエリクサーで我が支配を振り払うとは」
その声には怒りも悔しさもなく、ただ底知れぬ余裕があった。
「とはいえ、我を一度とはいえ滅ぼした。褒美をやろう」
幻影が手をかざすと、灰となったドッペルゲンガーと砕け散った竜骨の破片が浮かび上がり、融合していく。
光が収まったとき、そこにあったのは――異形の鍬。
刃に黒と紅が入り混じる、不気味な紋様を宿した新たな農具だった。
「呪いなどかけておらん。信じられぬなら捨てよ。使うも使わぬも、貴殿の自由だ」
そう言い残し、幻影は霧散して消えていった。
――静寂。
拓海は深く息を吐き、膝をついたまま新たな鍬を見下ろした。
ルピナは不安げに彼の肩へ降り立ち、そっと声をかける。
「……終わったの?」
「あぁ、きっとな」
拓海は力なく笑った。
「これからどうする?」とルピナ。
拓海はしばし考え、そして笑みを浮かべる。
「どうするもこうするも、帰って畑だろ。野菜作って、米作って……食べてくれるやつが喜んでくれりゃ、それでいいさ」
その言葉にルピナはふっと笑みを漏らし、肩にちょこんと座った。
「まったく……最後まで農民だね」
「農民だからな」
二人は顔を見合わせ、ほっとしたように笑った。
こうして、地の底での戦いは終わった。
残るのは、陽の下での穏やかな日常だけだ――。
「俺、農家なんですけど〜スコップはダンジョンを制す〜」という作品も連載しています。
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