第30話 泥と真理と農具の炎
石造りの通路を進んでいく。壁は冷たく湿っていて、ところどころ水滴が垂れている。……いや、これは水じゃなくて泥か? どうにも嫌な予感しかしない。
「出てきたわよ、拓海!」
ルピナが指差す先、ゴロゴロと地響きを立てながら現れたのは――でっかい泥の塊に手足を生やしたヤツ。
「ゴーレム……! なるほど、だから宝箱で泥なんて出たのか」
俺は手にした竜骨鍬を握り直した。どうやら今回の相手は泥でできた《マッドゴーレム》らしい。
頭の中に、どこかで聞いたことのある知識がよみがえる。
「確か……ゴーレムって身体に“emeth”って文字が刻まれてるんだよな。で、その“e”を消せば“meth”になって、死を意味して……バタンキュー!」
「へぇ〜、やけに詳しいのね」
「ふっふっふ。こう見えて俺は知識の泉だからな!」
胸を張って得意げに語る。これで楽勝だろう。
さっそく泥の表面を探してみるが――ない。どこにも文字なんか刻まれていない。
「おかしいな……刻印が……ない?」
「ねぇ拓海、近づいてきてるんだけど?」
ルピナの声を背に、俺は必死に泥まみれの表面を見回す。
「……あれ? もう一体出てきた?」
振り返ると、二体目のマッドゴーレムが通路を塞ぐように立っていた。どっちにもそれらしい文字は見当たらない。
「なんでだ……? emethはどこに……」
焦って泥を観察していると、ふと目につく模様があった。ゴーレムの胸に刻まれている、共通の三文字。
「……あれ? これ、“אמת”じゃないか?」
「なにそれ?」
「ヘブライ文字だよ! emethの原語! ってことは、この中のどれかを消せばいいんだけど……え、えっと……どれだ? どれが“e”だ?」
俺は額に汗を浮かべ、必死にスマホで検索したい衝動を抑えながら文字を凝視する。だが、どれを消すべきかさっぱりわからない。
「えーいっ! もういい!」
「ちょっと拓海!? 考えるの放棄するの早くない!?」
「わからんもんはわからん! だったら力で粉砕すればいいだけだ!」
俺は竜骨鍬を振り下ろした。
――ゴォッ! 赤い炎が巻き起こり、マッドゴーレムの身体を焼き払う。
「ドゴォォォン!」と音を立て、泥が飛び散って床一面を汚していく。
「うわっ、泥だらけ!」
「うるさい! こうなったら一体ずつ全部燃やしていく!」
炎の鍬を何度も振るい、ゴーレムたちを片っ端から焼き尽くす。
結局、刻印だの文字だの、謎解き要素は全部無視。
シンプルに力で押し切るいつもの戦法だ。
「はぁ……なんかもっと頭脳戦っぽいのを想像してたんだけど……」
ルピナが肩を落とす。
「いいんだよ! 農業において大事なのは知識と力、そして鍬だ!」
「最後の比率が高すぎるのよ!」
泥まみれになりながらも、通路を抜けた先には大きな扉。
「さて……ボスはどんな泥んこ大将が出てくるか」
「泥んこ大将ってなによ」
そんな掛け合いをしながら、俺たちは次のボス戦へと向かうのであった。
「俺、農家なんですけど〜スコップはダンジョンを制す〜」という作品も連載しています。
よろしくです。
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