第3話 幼なじみ、モンスターに遭遇する
俺が万能農具を試してニヤついていた、その日の夕方。
スマホがまた震えた。
【速報】山口県某所にてダンジョン出現確認。周辺住民は注意してください。
「某所って……ここだろ!?」
慌てて長靴を履き、万能農具を握って外に飛び出す。
通知の場所は、うちの田んぼから歩いて数分の裏山。
そしてそこには――
「きゃああああああ!!」
甲高い悲鳴。聞き覚えのある声だ。
慌てて駆けつけると、裏山の斜面にぽっかり空いた穴の前で、一人の女性が尻もちをついていた。
「レイカ!?」
幼なじみの古城レイカ。俺より二つ下で、昔から何かと世話を焼いてくれるしっかり者だ。
その目の前で、穴から現れたのは――獣人みたいな牙むき出しのモンスター。
よだれを垂らし、爪を振りかざす。
「ちょ、ちょっと待てお前ら! 人の幼なじみになにしてんだ!」
俺は万能農具を構えた。
「鍬!」
柄が変形し、頑丈な鍬になる。振りかぶって一撃。
ズドンッ!!!
土砂が飛び散るほどの衝撃とともに、モンスターは一瞬で粉々になった。
「え……?」
レイカがぽかんと俺を見る。
俺自身も驚いていた。威力がえげつない。
どうやら農業スキル+万能農具=最強兵器、という方程式が成立してしまったらしい。
「た、拓海……今の、なに……?」
「……農具で耕しただけだ」
「耕しすぎでしょ!!」
レイカのツッコミが響く中、穴からまた別の鳴き声が漏れてきた。
「グルルル……」
「ガアアアアア……」
まだまだ中にはモンスターがいる。
俺は一度、息を吐いた。
正直怖い。だが、放置すればレイカや村の人たちが危ない。
「……よし。決めた。俺が潜って片付けてくる」
「は!? 無茶だよ!」
「大丈夫だ。ちょっと農作業してくるだけだから」
いや、農作業の範囲をだいぶ逸脱してる気がするが、言い切った。
万能農具を握り直し、俺は裏山のダンジョンへ足を踏み入れる。
そのときはまだ知らなかった。
俺が攻略した最初の水没ダンジョンが、実は世界最難関クラスで、普通のダンジョンとは比べ物にならないと。
そして今から潜ろうとしている裏山のダンジョンは――村の命運をかけた、最初の本当の戦いになるということを。
「俺、農家なんですけど〜スコップはダンジョンを制す〜」という作品も連載しています。
よろしくです。
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