閑話 混乱と困惑とちょっとアホな人類
――その頃、世界は大騒ぎだった。
ある日突然、世界各地に「迷宮」……いや、ファンタジー好きが言うところの「ダンジョン」が突如として出現したのである。
東京、ニューヨーク、パリ、モスクワ、砂漠の真ん中、果ては南極の氷床にまで。おかげでニュース番組はどこも大騒ぎ。スタジオに呼ばれた専門家たちは口々に言う。
「これは異世界からの侵略でしょう」
「いやいや、地殻変動の新しい現象です」
「地球がRPGに目覚めた可能性もありますね」
それを横目に、テレ〇だけは夕方アニメを通常放送。しかも妙に視聴率が上がっていた。
「ダンジョンなんて不安になるより、ロボットが合体する方が健全だよな」
「お母さん、次回予告が気になるからニュースよりアニメ優先で!」
――その頑なな姿勢はむしろ安心感を与えていた。
しかし人々を本当に混乱させたのは、ダンジョンから「モンスター」が出てくることだった。
ゴブリン、スケルトン、巨大な狼など、ゲームや神話に出てくる連中が現実に街中を闊歩し、人を襲い、車をひっくり返す。
だが――出現からおよそ一時間で煙のように消滅してしまう。
「な、なんだ? 期間限定イベントか?」
「レイドボスかな?」
「バグでリスポーン失敗してるんじゃね?」
人類はとりあえず「奴らは一時間で消える」ことを学習した。
だが、だからといって安心はできない。なぜなら、そのたびに大きな被害が出るのだ。
そんな中、国連は臨時の安全保障理事会を招集。世界中の偉い人たちが慌ててオンライン会議に参加した。
議題はもちろん「ダンジョン対策」だ。
「異星人からの警告文とされるものが各国で確認されています」
「ダンジョンを“攻略せよ”と?」
「ええ、攻略しない限りモンスターの出現は止まらないそうです」
会議は紛糾した。
「攻略は国際協力で行うべきだ!」
「いや、まずは自国の安全が第一だ!」
「我が国の兵器は最強である! 攻略も容易であろう!」
「格闘家を集めればモンスターなんぞ一蹴できる!」
……結論は――各国バラバラに勝手に対応する、であった。
アメリカは軍主導。最先端兵器を惜しみなく投入し、「実弾 vs ファンタジー」の壮大な実験を開始。
中国は国家予算をかけ、武術家やスポーツ選手を総動員。まるで現代版・武闘大会。
ヨーロッパの一部の国は、「勇者募集中!」と大々的に報奨金をかけ、勇敢なチャレンジャーを募った。世界はもはや現実のゲームイベント会場と化していた。
さて、我らが日本。
一応は自衛隊が中心となってダンジョンに挑んでいた。近代兵器で敵を迎え撃つ方針である。
だが、日本人の性質なのか、「ちょっと中を覗いてみたい」という好奇心旺盛な一般人も続出。
「配信したらバズるんじゃね?」
「攻略動画で広告収入ワンチャン」
「異世界転生とかしないかな」
軽いノリで挑んで返り討ちにされかけた者も多く、ニュースでたびたび取り上げられる。
《ダンジョンに侵入したユーチューバー、帰還できず》
《モンスターを発見して喜ぶ大学生グループ、泣きながら逃走》
当然ながら「無謀な挑戦は控えるように」と政府が呼びかけるが、かえってチャレンジ精神を刺激する結果になった。
世界は混乱と興奮の渦に包まれていた。
だが――誰も知らない。とある田舎町の一角で、すでに一つのダンジョンが完全攻略されていることを。
「俺、農家なんですけど〜スコップはダンジョンを制す〜」という作品も連載しています。
よろしくです。
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