第1話 農民、ダンジョンを水没させる
新作です!
またしても農家無双ものです。
よろしくお願いします。
六月。梅雨。田んぼに水を引きすぎた。
だから俺は、山口県の小さな農村にある貯水池の水をちょっと抜こうとしただけだ。
「……あれ? なんか地面が光ってるんですけど?」
排水路の下、田んぼ脇の雑木林に、紫色の光が渦を巻いている。
見慣れたはずの地面が陥没し、でっかい穴が出現。
その奥から「グォォォォォ!」なんていう怪獣映画みたいな声が響いた。
いやいやいや、待て。
なんで農作業中にダンジョンが湧くんだよ。
俺は慌てて水門を閉めようとした。だが――
「ズバーーーッ!」
時すでに遅し。
貯水池から流れ出た水は、滝のようにダンジョンへと注ぎ込み始めていた。
しかも結構深い。地面の奥に広がっているのは、どう見てもゲームでよく見る地下迷宮。
モンスターの咆哮も聞こえる。
次の瞬間。
「ゴボボボボボボボボォォォォッ!」
モンスターの鳴き声が、盛大な水没音にかき消された。
あれ? これ、もしかして……溺れた?
十分も経たないうちに、穴から光がスッと消えた。
静寂。残ったのは水がゴポゴポ言ってる音だけ。
そのとき――ポケットのスマホがブルっと震えた。
「え? 通知……? このタイミングで?」
画面を見た俺は、思わず声を上げた。
【システム通知】
・世界初のダンジョン攻略者となりました!
・世界初のソロダンジョン攻略者となりました!
・世界初の完全討伐者となりました!
称号効果により全ステータスが上昇しました!
おめでとうございます!
「……………………は?」
なんだこれ。ゲーム? いやいや俺はスマホで農薬散布アプリくらいしか使わねえぞ。
さらに通知は止まらない。
【システム】あなたの端末は異星文明ネットワークにリンクしました。
今後、ステータスやスキルをスマホ画面で確認可能です。
地球侵略サバイバルゲームへようこそ!
「地球侵略って軽いノリで言うなや!!」
スマホの画面には「ステータス」「スキル」「称号」といったタブが並んでいる。
恐る恐る「ステータス」をタップすると――
高山拓海 Lv.1(称号補正により全能力+300%)
HP:農民のくせに異常
MP:水道局レベル
筋力:農協職員を片手で持ち上げられるくらい
敏捷:野良犬より速い
特技:水管理、土壌改良、草刈り、収穫
「いやどういう数値化だよ!? “農協職員を片手で”って単位おかしいだろ!」
思わずスマホに突っ込みを入れる俺。
でも、どうやらこれは夢じゃないらしい。
確かにダンジョンは水没して消えた。通知もリアルタイムで届く。
つまり俺は――
「……水抜いただけで、地球最強になっちまったのか?」
農民にそんな役職はない。
だが、俺のスマホはもう、異星人のシステムに支配されてしまっていた。
「俺、農家なんですけど〜スコップはダンジョンを制す〜」という作品も連載しています。
よろしくです。
https://ncode.syosetu.com/n0109kx/