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29話 『聞き込みの末』

「収穫なし、かぁ……」


「そうですね……。ですが何も知らないならそれで良かったんですが……」


「全員口を揃えて"慎司という子に関わらない方がいい"……。ほんと、頭にくるぜ」


どいつもこいつも、みんな慎司くんに対し酷い言様で、学校だけじゃなく街全体で、酷い扱いをを受けているようだった。

しかも街の連中は、慎司くんだけではなく、慎司くんの両親まで「気味が悪い」「悪趣味」だの、好きかって言っていて、学校で虐められてることをどうして言わなかったのか、その理由が何となく察せられる。

慎司くんは「迷惑をかけたくない」と言っていたが、街の人たちから両親がよく思われていないことを知っていて、それ以上の負担をかけたくなかったんだろう。


「どうして、こんなに慎司くんたちは街の人たちから疎まれているのでしょうか?両親と血が繋がっていないというだけでここまで……?」


「そこまでは俺たちには分からないですね……。本人に聞くにも抵抗があるって言うか……」


「ですよねぇ……。とりあえずここでウダウダ考えていても仕方ありませんし、焔くんたちと合流しましょうか」


「うす。あっちは何か情報掴んだかなぁ」


これ以上何かを考えていても仕方ないと感じた俺たちは、焔たちと合流しようということになり、俺は焔スマホに連絡を入れた。


「お、かかった。おい焔。そっちなんかアイツらの情報掴んだか?」


『いいや。全員つまらねぇ事しか言わねぇ』


「つまらないこと?」


『慎司とかいうガキがどうのこうのだとよ。興味ねぇから即話切り上げてきた』


「そっちもか……。実はこっちもそんな所だ。特に何も無かったし、これ以上ここにいても無駄だ。合流しよう」


『ん』


そうして俺たちは、この住宅街での情報収集を切り上げることを決め、合流の準備を始める。

だけど、街全体が慎司くんたち一家を疎んでいる中、何故あの店主は慎司くんとあんなに親しそうだったのだろうか。

そんなことを考えていたら、いつの間にか、みんなと合流し、これからどうするか、相談することとなった。


「にしても、ここの住人たち態度が悪いって所じゃないっすね。みんな慎司くんが呪われてるとか、そんな話しかしないっす」


「こっちもですよ。おかげでいつ晟くんが、手を出すか分からなくてヒヤヒヤしました」


「うぐっ!」


「あー! それ分かるっす! こっちもいつ焔ちんが我慢出来ずに、武力で訴えに行くのかって思ったっスもん。若い子って血気盛んっすよね〜」


「アイツらが舐めたこと言ってるのが悪いんだろ。むしろ俺は、翡翠が暴走しないかの方が不安だったぜ」


「もうちょっとあの人たちと話してたら危なかったかも」


自分がどれだけ、蛍さんに迷惑をかけたのか、じかくがあるため、何を言い返せず胸を抑える。

てかやっぱり焔も暴れそうだったんだな……。

やはりみんな、各々街の人たちの物言いに思うところがあるらしく、怒り心頭……という具合だった。

これじゃあ慎司くんを連れて歩くことが難しくなってしまうな。

この街の現状を知ってしまった今、どうにもあの子を連れて街に出る気にはなれない。

かと言って俺たちはこの街に詳しいわけじゃないし、人がたくさんいる場所を教えてくれる慎司くんに頼りたい……という気持ちもある。

でも、それは女将さんにでも聞けばいいし、と考えていると甲高い声が聞こえてきた。


「ちょっと! あなたたち!」


「? なんだろ、とりあえず邪魔になると悪いし、移動しませんか?」


「はーい! お話の邪魔するのはいけないもんね!」


「おっ、いい子っすね。翡翠ちゃんは。じゃ、ボクちんたちはとっとと移動を……」


「何言ってるの!? 用があるのはそこのあなたたちよ!!!」


「えっ、俺ら? あの人知ってるか? 焔」


「あ? 知らねぇよ。テメェの知り合いか?」


「いえ。ここに来たのは初めてですし、知り合いはいないはずなんですが……」


どうやらみんな、この女の人とは面識がないらしく、余計に困惑する。

この人は見た限りすごく怒っているようで、ここに来てから、誰かを怒らせるようなことをしていないため、本当になんの用なんだろうか。

そうやって頭を悩ませていると、目の前の女性はもう我慢ならない、という風に顔を真っ赤にしながら、俺たちに怒鳴り始める。


「あなたたちでしょ!? うちの子を怖がらせたのは! あの子ったら泣きながら私に"怖いお兄さんたちに意地悪された"って!」


指を刺されながら、そう言われて一瞬なんのことを言われてるのかと思ったけれど、数秒後「……あー」と頭をかいた。

よく見てみると、母親の後ろに慎司くんを虐めていた子供が「あっかんべー」と舌を出しているのが見える。

どうやらあの子が焔に追い返されたことを根に持ち、親にチクったらしい。

参ったなぁ。と俺はそう思った。

こうなったらこの人は、俺たちが何を言おうと信じないだろうし、きっと今も俺たちが全部悪いと思っているはずだ。

それに、この人の怒鳴り声で俺たちはかなり目立ってしまっていて、なんだなんだと野次馬が増えて行く感覚がする。

どうしようかと頭を悩ませていると、屈指の問題児、焔が俺たちの前に躍り出た。


「何言ってんだババァ。そのガキが恥知らずにも、一丁前に他人を虐めてたから俺が注意してやったんだよ。他人に文句言う暇があったら、そのクソガキの躾でもやってろよ」


「な、な、な……! なんですって!? それに、何よその口の利き方!!! あなたたち何様のつもり!?」


「あ"ぁ? それはこっちのセリフだクソババア。ヒステリックに喚き散らす前にちょっとは頭使え」


「キィィィィ!!!!」


「おい、焔。流石にそこまでにしてやれよ……」


「ちっ!」


いつもなら余計なことしやがって! と、起こっているところだが、正直今回はそこまで怒っていない。

むしろナイスとまで思っている。

どうやらそれは俺以外も同様のようで、蛍さんは額に手を当てて溜息をついていたものの、焔の言い分自体には同意しているようで、俺と目が合ったら「仕方ない」と言うように肩を竦められた。

紫黄さんは表に思いっきり、「良くやった!」と出していて、全面的に焔の言い分に同意しているようで、それはそれはいい笑顔である。

一方翡翠ちゃんはというと……。これでもまだ言い足りなかったらしく、俺が焔を止めると、如何にも不機嫌ですよオーラを醸し出していて苦笑いしてしまう。

もしかしたら、俺たちの中で一番過激なのは翡翠ちゃんなのかもしれないな。


「も、もういいよ母ちゃん! 帰ろうよぉ……!」


「ダメよたっちゃん!!! この礼儀も知らない子供たちに礼儀というものを教えないと!」


「この人の方が礼儀ってのないよね?」


「ぶふっ……! だ、ダメだよ翡翠ちゃん……! この世には事実陳列罪ってものがあるんだ……!」


「まぁそれ、実際の法にそんなものないんですけどね」


「あなたたち!!! どれだけ人のことを小馬鹿にしたら気が済むの!?」


「うげっ、本格的にブチギレて来たっすよ、あのおばさま」


「めんどくせぇな……。殴るか?」


「いや流石にそれは……」


親のこんな姿を見たくないと思ったのか、いじめっ子は母親に「帰ろう」と泣いて縋っていた。

ここまで来ると、少し可哀想に思えてくる。

まぁ先に慎司くんを虐めていたから、同情の余地はないんだが……。

マジで収集がつかなくなってきてしまっていて、このままじゃ埒があかないと考えていたら、サイレンの音が聞こえてきた。


「げっ! 警察呼ばれた!?」


「そりゃそうっすよ。こんなに派手に口論してたら警察の一つや二つ呼ばれない方がおかしいっす」


「それもそうですね。逃げますか」


「元警官がそれを言っちゃうんだ……」


「"元"ですしね。行きますよ、焔くん」


「ふん。行くぞ翡翠」


「はーい!」


「ちょ、ちょっと!!! 待ちなさい!」


後ろから俺たちを呼び止めてくる声が聞こえたが、俺たちは振り返ることは無かった。

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