表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/31

28話 『呪われた子』

「……で、"あれ"はどういうことなんだ?」


「……」


「……とりあえず場所を移動しましょうか。少し俺たちは目立ちすぎてしまったので」


蛍さんの言う通り、どうやら俺たちは目立ってしまったようで、チラチラと見られているしコソコソと何かを言われているようだった。

近くに見えた公園に移動しようということになり、未だに俯いて黙り込む慎司くんの手を引く。

慎司くんはされがままに俺たちに着いてきていて、どうにもやるせない。

数分歩いているうちに公園に着き、慎司くんを公園のベンチに座らせる。

やはり俯いて脚の上でキツく握り拳を作る慎司くんに何も言えず、蛍さんと紫黄さんに目を向けた。

2人もどう声をかけたらいいのか迷っているようで「どうしようもない」と首を振られる。

うーん……と頭を悩ませていると翡翠ちゃんが慎司くんに話しかけていた。


「あ、翡翠ちゃん……」


「だいじょーぶ? どこか痛いなら翡翠が治したげる」


「……平気。それにこれは、他人に治してもらえるものじゃないから」


「慎司くん……」


「単刀直入に聞くっすけどあれが世に聞く"いじめ"ってやつっすよね? それに他所の子ってどういう……」


「待ってください。直接彼に聞くのはあまりにも……」


「いいよ別に。どうせ、いつか知られることだから」


そうして少し話すことを迷ってる風に見えたが、意を決したようにポツポツと何があったのか話し始める。


「……俺、母さんと父さんと血が繋がってないんだ。俺の本当の両親は事故にあって死んだって」


「母さんは昔から子供ができない体質らしくて俺を引き取ってくれたんだって聞いた。それで、近所の人たちや母さんたちをよく思われない人たちに他所の子って言われて笑われた」


「子供ってさ、案外周りを見てるんだよ。親が言ってた"他所の子"って単語を覚えて俺のことをそう言っていじめるようになって、いつから学校に行けなくなってた」


「母さんたちは何があったのか聞きたそうにしてたけど、血も繋がってない俺を本当の子供みたいに大切にしてくれて、迷惑かけたくなくて……」


「何も言えず、ここまで状況悪化した……ってわけか」


「……」


焔がそう言うと気まずそうに俺たちから視線を逸らし、どういう経緯でこうなったのか何となく分かった。

子供とは無知で残酷だ。

何が悪いことなのか、良いことなのかを理解する途中の段階で、その手本になるべき親や周りと大人がしっかりと指導しなきゃいけない。

そんな親が他人を見下してしまったら子供はそれを手本としてしまう。

これは子供間だけの問題じゃない。大人の問題でもある。


「随分と胸糞の悪い話ですね。いい大人が何をしているんだか」


「他人を見下さないと生きていけない人種っているっすからねぇ。本当に根深い問題っすよ」


「だからってあのクソガキ共を好きにさせる訳にはいかねぇだろ。なんでやり返さねぇんだ」


「あのなぁ……そんなこと出来るわけないだろ!他人を見下す親は自分の子供が傷つけられたら一方的に相手を責めるだけだし」


「それはそれで偏見だと思うよ晟お兄ちゃん」


正直いじめは本当に難しい問題だ。

俺たちが介入しても火に油を注ぐだけの可能性もあれば、なんとなる可能性もある。

ただ学校側がいじめを黙認していた場合は例え親兄弟が動いたところで殆ど意味はないだろう。

冷たいことを言うが、これは本人たちが何とかしなくちゃいけない。

俺は片膝を着いてベンチに座る慎司くんと目を合わせる。


「……慎司くんは、どうしたいの?」


「どうしたいか? ……わかんない」


「慎司くんにとって辛いことを言うかもしれないけど、これは君自身がどうにかしなきゃいけない問題なんだ」


「俺、自身で……」


「正直俺は、このまま学校から逃げてもいいと思ってる。でもそれじゃいけないこと、本当は自分がよくわかってるんだろ?」


「……」


「このまま学校に行かないのか、それともいじめをどうにかするのかを最終的に決めるのは君だ。どうするかを中途半端に先延ばしにして、終わる話じゃない」


「そう、だよな。俺は……どうしたいんだろう……」


「……別に今急いで結論を出す必要はないと思いますよ。ゆっくり考える時間も、君には必要です」


「とりあえず一旦旅館に戻らないっすか?この状態の慎司くんを連れ歩く気にはなれないっすよ」


「そうですね。一旦旅館にまで戻りますか。慎司くん、立てる?」


「まぁ……」


「じゃあ人もいないし、ボクちんの能力使うっすよ。いいっすか?」


「好きにしろ」


「焔ちんのお許しが出ということで!じゃあ、しゅっぱーつ!」


そうして俺たちは紫黄さんの能力で旅館まで戻り、こっそりと周りの人にバレないよう部屋に戻した。

慎司くんはやっぱり参っていたようで、部屋のベットに着くなり気絶するように眠ってしまった。

その幼い寝顔に、少し目元が腫れた姿が痛々しくて、そっと頭を撫でる。

起こさないように静かに部屋を出て、エントランスに戻った。


「あら? あなたたちは……」


「あ! 慎司お兄ちゃんのお母さん!」


「確か、先程うちの慎司と出かけていませんでしたか?」


「……あー、実はさっきここに戻ってきて慎司くんを部屋に送ったあとなんですよ」


「あら! 本当ですか ?すみません、気づけなくて……」


「まぁまぁ。この旅館人多いし、気づかなくてもしょうがないっすよ」


「じゃあ、俺たちはもう行きますね」


「あっ……! 待ってください!」


そのフォローに安心したのか女将さんは肩の力を抜いてほっと息をつく。

その姿に、さっきあったことは言わない方がいいよな、と思い早く旅館から俺たちは出ていこうとする。

そんな俺たちを女将さんは引き止めてきて、つい足を止めてしまう。


「? なんですか?」


「その……慎司さんのことなんですが……」


「慎司くんがどうしたんすか?」


「あの子、少し人見知りで他人と仲良くするのが苦手なんです。だから初対面であなたたちと楽しそうに会話してる姿を見て、嬉しかったんです」


「!」


「だから、その、わがままかもしれませんが……うちの息子と仲良くしてあげてくれませんか?」


「! ……よろこんで、こっちこそお願いしたいぐらいです」


「慎司くんは見ず知らずの俺たちにこの旅館を紹介してくれたり、美味しいお店に連れてってくれましたしね。何より街に詳しいのが俺的には結構有難いです」


「そうっすねぇ。誰かさんと違っていい子だし、ボクちんとしてはこのまま良好な関係を築いていきたいっすね」


「まぁ、どうしてもって言うなら考えてやらねぇこともない」


「翡翠、慎司お兄ちゃん優しくて大好きだよ?」


「そうですか……。ありがとうございます」


「……うちの子を、よろしくお願いします」


そう言って深く頭を下げた女将さんの姿に、慎司くんの本当の子供のように大事にしてくれているという言葉が、本当なんだと思った。

こんな姿を見たら、他所の子だと言ってバカにする人間の気持ちがよく分からなくなる。

例え血が繋がっていなくてもそこに確かな愛と信頼があるのなら、それはもう家族以外の何物でもない。

俺たちはそのまま女将さんに断りを入れ、情報収集に本腰を入れた。


「慎司くんのお母さん、すごい優しい人だったね!」


「そうだね〜。俺も母さんに会いたくなってきた」


「ホームシックですか?」


「そうかも。今度母さんに連絡するか」


「した方がいいっすよ〜。多分めっちゃ心配されてると思うし」


「ははっ。もしかしたら焔と翡翠ちゃんとも話したがるかもな」


「うげっ、おばさんの電話話長ぇから勘弁してくれ」


そんな会話をしていると人通りが良い場所に出たため、ここで情報収集をすることに決めた。

ただここは観光地というよりも、住宅街に近い感じで井戸端会議しているおばさんたちが目に付く。

まだ昼間なのに小学生が下校してたが、もしかしたら短縮授業かなんかだったのかもしれない。

そんなことはまぁどうでもいいので早速情報収集でもしよう。


「ここは二手に分かれて行動しましょう。俺は晟くんと。紫黄さんは焔くんと翡翠ちゃんをよろしくお願いします」


「了解っすよ。2人の面倒はボクちんが見るっす」


「頼みます。焔は十中八九余計なこと言うと思うんでフォローをしてもらえると……」


「ははは! 分かってるっすよ! 焔ちんと何年の付き合いだと思ってるんすか?焔ちんの失言のフォローなんておちゃのこさいさいっす!」


「ああ! 頼もしい!」


「テメェら殺されてぇのか?」


「そういうところだと思うよお兄ちゃん」


そのままウダウダ言ってる焔をズルズルと笑顔で引き摺っていく紫黄さんが本気ですごいと感じた。

そのまま翡翠ちゃんを連れて紫黄さんは聞き込みに向かう。

俺たちも聞き込みに行こうということになり、先程からこちらを見てコソコソと何かを話しているおば様方に声をかける。


「あの〜」


「……なんですか?」


「ちょっとお聞きしたいことが……」


「なに? こっちも忙しいのよ。聞きたいことがあるなら早くしてちょうだい」


ピキリと額に青筋が立つ感覚がする。

笑顔のままピシリと固まる俺を鬱陶しく思ったのか、ババアたちは心底めんどくさい顔をしていて本気でムカつく。

クソが……! さっきまで駄べってたくせに何が忙しいだぁ……?

忙しいのはこっちだっつの!!!!!


「晟くん、落ち着いてください」


「! でも蛍さん!」


「ここは任せてください。こう見えて聞き込みのプロですよ?」


そう言って俺にウインクしてから勇んでババアたちに話しかけに行く蛍さんが、俺には勇者のように見えた。

そうして蛍さんは営業スマイルを振りかざし……。


「すみません。連れが失礼なことを……。実は僕たち疎遠になってしまった友人がここにいると聞いて会いに来たんです。ですがその友人がどこにいるのか分からなくて……。だからここに住んでいる人たちの話が聞きたいんです」


「あ、あら……! そうだったのね! そうとは知らずごめんなさいねぇ」


「私たちが知ってることなら何でも教えてあげるわ!その友人さんはどんな人なの?」


「本当ですか! ありがとうございます!」


そう言ってババアたちの態度は俺とは一転して親身に質問に答えてくれていた。

……なんだ、この差は。

ついていけなくて俺は完全に蛍さんの後ろでただ固まっていた。

キラキラと蛍さんが愛想笑いしているということにも気づかず、ババア共は頬を赤らめていてその格差に胸が痛い。

いや別にババアたちに頬染められたい訳じゃないが、ここまで対応の差が出ると流石に胸が痛む。


「ごめんなさい……。あなたたちが言ってる人は見たことないわ。それに特殊作戦部隊なんて物も」


「そう、ですか……」


「そのあなたたちの友人さんは自衛隊か何かなの?」


「はい。だから何かある前にせめて一目だけでも姿を見たくて……」


「そうなの……。早く見つかるといいわね、そのお友達……」


「ありがとうございます。わざわざお忙しい中時間を取らせてしまい申し訳ありません。では僕たちはここで……」


「あ、待ってちょうだい!」


そうして一時は苦労するんじゃないかと思った聞き込みも直ぐに終わり、元刑事の凄さを再確認すると、ババア共から引き止められる。

内心「なんだよ、忙しいんじゃなかったのか?」と悪態をついていたら信じられないことを言われた。


「あの慎司って子、関わらない方がいいわよ。あなたたちさっきあの子と一緒にいたでしょ?」


「……は?」


「あの子普通とは違うの。呪われた子なのよ」


「それに、あの旅館の女将さんとその旦那さんとは血が繋がっていないんでしょう? あんな呪われた子を引き取るなんて物好きな夫婦で気味が悪い」


「関わったら不幸になるだけよ。そうなる前に縁を切りなさい」


「……っ! このっ!!!」


「晟くん」


散々な言い草に完全に頭に血が昇った俺は、目の前にいるババア共を本気で殴ろうと思った。

あの子がどんなに優しい子なのか、あの子の親がどれだけあの子を愛しているのか知らねぇくせに、好き勝手言ってんじゃねぇ……!!!

だけど蛍さんが俺の体の前に腕を出して俺を止めて来る。

理由が分からず、それを理不尽に感じた俺は蛍さんを睨みつけるが……。

蛍さんの首にはくっきりと青筋が浮かんでいて、蛍さんも本気で怒っているということに気がついた。

それに気が付くと途端に暴れたくなるほどの激情が収まり、静かに腕を下ろした。


「……ご忠告ありがとうございます。では僕たちはもう行きます」


「え、ええ……」


「行きましょう、晟くん。……あんな奴ら、関わるだけ無駄です」


そう小声で言った言葉は、怒りに染まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ