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1話 『不吉な忠告』

「はぁ〜!!! ようやく昼休み!!! 俺の時間が始まる!!!」


「うるさいよ。晟」


「お前のそのシンプルな罵倒やめて!? 俺の柔い柔いかわちいハートが傷ついちゃうよ!?」


「うるさい」


「はい」


田中は物腰が柔らかいからか、良く人のことを注意出来ないと思われがちだが、んなこたぁない。

普通にドスドスとぶっ刺してくる。

そのシンプルかつ手短な罵倒は、結構な殺傷能力がある。


「私も一緒に食べていい?」


「えっ、別にいいけど」


「清水さんも来たんだ」


「うん。じゃ、お許しも出たことなのでお邪魔しまーす」


田中にドスドスと言葉の刃でつつかれた俺は、しょもしょもと、母さんが用意してくれた弁当を広げていた。

田中もいつものように、俺の机に弁当を並べ始める。

そんな中、普段は別の女友達と弁当を食べてるはずの瑠璃が、めずらしく俺たちと弁当を並べる。


「珍しいじゃねぇか。お前が俺たちと食べるなんて」


「いつもの友達はどうしたの?」


「ん〜。今日は2人と食べる気分だったの」


「なんだそりゃ……」


「え〜? でも2人も私みたいな美少女と一緒にご飯食べれて嬉しでしょ?」


「自分で言うなよそれを!」


「自己肯定感高いね〜」


瑠璃は、結構こういう自信満々なことを言う。

普通の人間ならなんだコイツとなるものの、瑠璃は誰もが認める顔の良さを持っているからか、どうもツッコミずらい。

瑠璃を横目に俺は弁当の蓋を開ける。


「ずっと思ってたんだけど、金剛くんのお弁当って毎回すごく美味しそうだよね」


「分かる。彩りとかも綺麗だし、いい匂いもするし」


「そうか?」



まぁ母さんの弁当は、いつも凝ってるなとは思う。

別に毎回こんなに力を入れなくてもいい、と言ってるんだが、どうも母さんは弁当には力を入れたいらしく、聞き入られたことは1度もない。


「……いいお母さんだね。ちゃんと大事にしなくちゃダメだよ」


「? なんだよ急に」


「べっつに〜? 美味しそうなお弁当毎日作ってもらってる割にお母さんへの感謝の念が足りないような気がしただけ」


「なんだと!? こう見えて俺は毎日母さんにごちそうさまって言ってるぞ!」


「ほんとかなぁ〜?」


「お前なぁ!」


「まぁまぁ」


マジで何しに来たんだこいつ!

ただ煽るだけか!?


「ごめんごめん! ちょっとからかっただけ。金剛くんがちゃんとお母さんに感謝してるのは見て分かるよ」


「……素直に謝られるとバツが悪い」


「ははは! さ、馬鹿なことしてないでお弁当食べよ?お昼休み終わっちゃう」


「誰のせいだ!?」


そんなこんなで、3人で時々世間話をしながら弁当を食っていると、あっという間に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。


「じゃあ僕は次の授業の準備があるから。また後で」


「お〜。また帰りな〜」


「うん。清水さんも今日はありがとうね」


「私?うん。私の方こそ今日はありがと」


「……じゃあ。私ももう席に戻るね」


「おう」


「……金剛くん」


立ち上がった瑠璃は席に戻るかと思ったが、唐突に立ち止まり俺の名前を呼ぶ。

どこかその後ろ姿はいつもの瑠璃の気の抜けた雰囲気とは違い、無意識のうちに唾を飲む。


「……今日の帰りは、気をつけてね」


「帰り……? ちょ、おい! 瑠璃! そりゃ一体どういうことだ!?」


不穏な忠告にゾクリと背筋を走る悪寒。

なんなんだと、俺が呼び止めようとした途端、チャイムがまた鳴ってしまいそれは叶わなかった。

瑠璃は基本的に他人が知らない、分からないことを話すような人間じゃない。

例え相手が自分の話について理解していなかったら、ちゃんと説明してくれる。

だからこそ、瑠璃の様子に俺は違和感を感じた

問い詰めようと足を1歩進めた瞬間、授業を始めるぞ〜と入ってきた教師は何も悪くないが、俺はつい舌打ちをしてしまう。

……瑠璃の顔は、終ぞ見えなかった。



──────────────


「瑠璃? もう帰っちゃったよ?」


「そ、うか……。ならいい呼び止めて悪かった」


「いーよいーよ」


瑠璃に昼休みのことを聞こうとしたが、瑠璃はまるで俺の事を避けるようにトイレに行ったり、誰かと話してたりであれ以降話が出来なかった。

ならば放課後……! と思うと瑠璃の姿が見えなく、どこに行ったのかと瑠璃の友達に聞いたら、もう帰ったとのこと。

クソっ!と思ったがもう遅いし、田中と帰るかと思い鞄を持つ。


「あっ、晟。悪いけど今日は一緒に帰れないや」


「なんでだよ」


「それがさぁ。さっき先生にプリント職員室まで持ってきて欲しいって言われちゃって。ごめん!」


「はぁ……。それは仕方ねぇし気にすんな。先帰ってるわ」


「ありがとう。それじゃあまた明日!」


「お〜。また明日」


そう言って田中は、山積みのプリントを持って教室を後にした。

俺も帰るかと教室から出る。

その瞬間、ゾクリと昼休みにも感じたあの悪寒を感じた。

咄嗟に自分の体を抱きしめるような体勢になる。


「な、なんなんだよ……!」


俺は恐ろしくなって、逃げるように学校から走り去った。

……焦っていたせいで、まるで俺の影が意志を持ったように蠢いていたことに気づけなかった。

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