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27話 『他所の子』

「え……」


「あんたらの中に宝石獣がいるって最初から分かってたよ。それにその反応、そこの2人はそいつらが宝石獣って知ってるみたいだな」


なんてことないように言っているが、俺と蛍さんは唖然としてしまって何も言えない。

……なんで慎司くんはあの3人が宝石獣だと分かったんだ?

そうだ、前に焔が「会ったら"こいつ宝石獣だな"って感じる」って言ってたな。


「……まさか」


「はぁ……、お前ようやく気づいたのかよ。俺たちが警戒してた時点で気づけ」


「ああああ! やっぱり!?」


「え!? どういうことなんですか!?」


「……もしかして説明してなかったのか? ここまで驚かれるなんて思ってなかったんだけど」


「あ? 言ってなかったか?」


「言ってませんよ!」


そうして俺たちは蛍さんに宝石獣について言ってなかったことを説明する。

最初はあまりの情報量に頭をクラクラさせていたけれど、説明が終わる頃には釈然としてなさそうだったけど理解は出来たようだった。


「はぁ……とりあえずは分かりました。というかそんな大事なことは最初に言ってください!」


「まぁまぁ、そんなに怒ってたら血圧上がるっすよ」


「へぇ! あんたら宝石獣だったのか! 全然気づかなかったぜ! そりゃあしん坊が連れてくるわけだ!」


「……。はっ!?!?!?」


しまった……! 完全に忘れてた……! この場には店主がいたんだった!!!

言い訳するにもここまで言ったら言い訳なんて意味はなくジ・エンド。

どうしようと考えていたら店主がわっはっは! と大笑いし始める。


「安心しな! あんちゃん! 俺は前からしん坊が宝石獣だって知ってたし、宝石獣が政府に追われてることぐらい知ってら! 別に言いふらそうだなんて思っちゃいないさ」


「ん。だからそんなに世界の終わりみたいな顔しなくてもいいよ。宝石獣であることがバレる危険性は俺が1番よく知ってる」


「それなら別に……いいのか?」


「まぁいいんじゃないっすか? ボクちんたちも考え無しにここまで着いてきたわけじゃないっすし、怪しい人間だったらここまで来てないっす」


「最初はびっくりしたけど、慎司お兄ちゃんは翡翠たちに優しくしてくれたから大丈夫だ! ってなったの」


「そうだったんですか……。初めて慎司くんにあった時の警戒具合で気づくべきでしたね……」


「俺も気づいてなかったから大丈夫ですよ。にしても宝石獣って割とそこらにいるのか?俺の周り宝石獣ばっかなんだけど……」


俺今月だけで9人もの宝石獣と遭遇してるんだけど、宝石獣ってそんなに沢山いるようなもんなのか……?

今までの人生で宝石獣1人とも会ったことないのに、こんなに遭遇すると感覚がバグってくる。


「そんなわけねぇだろ。確率的には百万人に一人だ。こんなに頻繁に会う方がおかしい」


「ボクちんもこんな短期間でこんなに宝石獣に会ったのは初めてっすよ。もしかしてそういうフェロモンでも出てるんすか?」


「そういうフェロモンってなに……?」


「翡翠は色んな宝石獣と会えてたのしーよ?」


「多分そういう問題じゃないと思います」


そうやってワイワイ盛り上がっていると、。クスクスと笑っている声が聞こえてきた

その声の主に顔を向けると、慎司くんが俺たちを見て笑っていた。

笑うと言っても嘲笑とかではなく、本当につい笑ってしまっているような感じで、嫌な感じはしない。

けれど、笑っていても俺にはどこか寂しそうな顔にも見えて声をかけようとしたけれど、それよりも先に彼が口を開ける方が早かった。


「あんたたち、本当に仲がいいんだな」


「……」


「うわっ、すごい嫌そうな顔」


「そりゃそうだよ! 翡翠ちゃんや紫黄さん、蛍さんはいいけどこいつと仲がいいとかマジで無理! 鳥肌立つ!」


「はぁ!? んだとテメェ!!!!」


「あ"ぁ!? やんのか!?」


「またやってる〜。でも喧嘩するほど仲がいいっていうし、やっぱり2人とも仲がいいのかな?」


「そうっすね。傍目から見たら確かに仲良さげに見えるっす」


「本人たちが聞いたらすごい勢いで否定されそうですけどね。まぁ命を掛けて戦った間柄ですし警戒する方が馬鹿馬鹿しいって感じですし」


「あー! それ分かるッス! 背中預けて一緒に戦った仲で警戒するもクソもないっすよ」


「それにみんな優しいもん! 翡翠みんなのこと大好き!」


「! ……ふーん」


焔と取っ組み合いをしていた俺は、3人の話を聞いて複雑そうに顔を歪めて、それを心配そうに見詰めていた店主に気が付かなかった。


「……そういえばあんたらなんで旅行してるんだ? 荷物も旅行にしたら少なかったし、それ以前に宿確保してなかったりで」


「あー……その、色々ありまして……」


「てか俺たち元から旅行してねぇし」


焔のその発言に「はぁ?」と眉をひそめた慎司くんに事情を説明する。

まさかここまでの大冒険というか、大波乱な経験をしていると思っていなかったのか、信じられないような目をされたが、俺がそっと頷くとマジなのを察したのかドン引かれた。

まぁそんな反応になるか……。


「あんちゃん大変だったんだなぁ……! ほれ、餃子おまけだ!」


「いいな〜……翡翠も食べたい」


「お! そう言うと思って嬢ちゃんにもあるぞ!」


「やったー!」


そのままバクバクと餃子を食べ始める翡翠ちゃんに苦笑いしてしまう。

店主は俺たちに同情してくれてるようで、妙に親身だ。

それに宝石獣が政府に追われる立場ということも知っているようだし、何者なんだろうか。

宝石獣が追われる立場であることは警察官だった蛍さんも知らなかったことで、尚更一般人の店主が知ってるのだ?

もしかしたら慎司くんが教えたのかな。


「まぁ、あんたらが大変な目にあってたのは分かったよ。その……なんかお疲れ様」


「なんかすっごい哀れみの目で見られてる! 俺そんなにお労しかった!?」


「割と」


「うそぉ!?」


「客観的に見たらすごい可哀想な状況ですよあなた」


確かに……! 実は俺めっちゃ可哀想な人間だったのか……

いや自分で言うとすげぇウザイなやめよ。


「てかそろそろお店出ようぜ。いつまで居座るつもりだよ」


「それもそうですね。いつまでも居座ってたら店側も迷惑でしょうし」


「もう行っちまうのか? 俺はまだいてくれても構わねぇんだがな……」


「また来ます。今日はありがとうございました。ラーメンも美味しかったし」


「ほら、翡翠ちゃん。戻るっすよ〜」


「うえっ!? まだ食べたい!!!」


「はいかいしゅ〜」


「うぅ……」


紫黄さんにドナドナされた翡翠ちゃんは不満そうに唇を尖らせていて、まだ食べる気だったのか……と少し恐ろしくなる。

翡翠ちゃんの底なしの腹は知ってたつもりだったけれど、俺もまだまだだな……もっと翡翠ちゃんのこと知っていこ。

そのまま会計をするのだけど、あまりの安さに目をひんむいた。

やっすいのだ。5人で食べたにしては。


「流石にワンコイン……。びっくりするほど安い……」


「そうだろ? うちは誰でも食べれらる店を目指してんだ。高すぎたら誰も来てくれねぇだろ?」


「本当に素晴らしいですね。人も沢山来てるんですか?」


「来てねぇよ。如何せん場所が分かりにくすぎて一日に数十人来たらいい方だ」


「少な!? 赤字になんねぇのかよ!?」


「俺はこのラーメン屋の他に仕事してるしそこはモーマンタイだ!」


「いやそれ全然無問題じゃないと思うんすけど」


ガッハッハッと豪快に笑う店主に冷静にツッコむ紫黄さんに全力で同意する。

にしてもこの赤字のお店を補えるほどの収入の仕事なんて……何してるんだろうこの人。

てかそんな人が来ないレベルの場所の分かりにくい店、慎司くんはどこで知ったんだ。


「じゃあ、お邪魔しました。俺たちはもう行きますね」


「おう! また気軽に来てくれよ!」


会計を終え、暖簾を潜り再び道に出る。

腹も脹れたし、これからどうするかなぁ。


「まずは情報収集ですよ。そこら辺の人に特殊作戦部隊についての噂を集めましょう」


「サラッと俺の心読むのやめてくれませんか????」


「聞き込みなんてめんどくせぇな。もっとチャチャッと情報集まるような方法ねぇの?」


「あるわけないですよね? 地道に情報を集めるしかありませんよ」


「だっる」


「そんなこと言ってないでやるっすよ焔ちん。そういえば慎司ちんは特殊作戦部隊って名前聞いた事あるっすか?」


「や、俺が知ってる中じゃそんなの聞いたことも見たこともねぇよ」


「そうっすか〜。蛍ちんの言う通りこりゃ地道な作業になりそうっす」


「聞き込みってどうやったらいいの?」


「そうですね……」


「あー! あれ慎司じゃね!?」


蛍さんが翡翠ちゃんの疑問に答えようとするが、その前に俺たちの耳に子供の声が入ってくる。

自然とそちらに目を向けると俺たち……と言うよりも慎司くんを指をさしているランドセルを背負った男の子が複数人いた。

慎司って言ってるし、友達なのかな?と慎司くんに目を向けるが慎司くんは俯いていてズボンをギュッと握りしめていた。

どういう表情をしているのか分からないけれど、大量の脂汗をかいていることだけは見える

尋常でない慎司くんの様子に俺は最悪な想像が頭に浮かぶ。


「お前学校サボってるくせして何やってんだよ!」


「そーだそーだ! せんせーにチクってやる!」


「"他所の子"のくせにちょーし乗ってんじゃねぇぞ! 泣き虫ウジ虫やろー!」


「"他所の子"……?」


俺の最悪の想像はドンピシャで当たっていて、やはり慎司くんは"いじめ"を受けているようだった。

ふるふると震えていじめっ子たちの言葉を聞いていた慎司くんだったが、他所の子"という単語を聞いた瞬間、泣きそうに顔が歪んだところを下に垂れる髪越しに見えて一気に頭に血が上る感覚がする。

額に青筋が走り、「このっ……!」と1歩足を踏み外すと弱々しく服の裾を掴まれた。

目を向けると泣きそうになりながらも、必死に俺を止める慎司くんの姿が目に入る。


「やめてくれ……! いいんだよ……全部、ホントのことだから……!」


「慎司くん……」


「……おいクソガキども。俺たちはテメェらの低俗な遊びに付き合ってる暇はねぇんだよ。分かったらとっととうちに帰ってママのお乳でも吸ってろ」


「な、なんだよ……! 俺らなんも悪いことしてねぇし!」


「なぁ……、もう行こうぜ」


「ふ、ふん! お前ら母ちゃんに言いつけてる!」


そうしていじめっ子たちは焔によって追い払われた

けれど、服の裾越しに伝わってくる慎司くんの震えに俺は何も言えなかった。













慎司くんの年齢を中学生から小学生に繰り下げました

なんか書いてるうちにこれを中学生がやってるって低俗すぎるな……ってなったので

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