25話 『目標』
「ここ、俺ん家」
「ここって……」
俺たちが連れてこられた場所は、思っていたより何倍もちゃんとしている旅館で、古き良き日本家屋って感じで外観も綺麗だし、外泊客もかなり多かった。
門らしきところに"月長旅館"と書かれていて何とも言えない威厳が漂っている。
……宿泊費安いって言ってたけどそれ本当か?
宿泊費安い(当社比)だったりしない???
「ただいま」
「あら、おかえりなさい。慎司さん。……そちらの人たちは?」
「この人たち、泊まる宿がないって言ってたから連れてきた。部屋空いてる?」
「まぁ! それは大変! 今から確認してくるわ。そこに座って待っててくださる?」
「あ、ハイ」
どうやらこの男の子は慎司という名前らしく、この子がこの旅館の子であるのは事実らしい。
恐らく女将さんであろう、この子のお母さんは母と呼ぶには少し若い気がしたが、もしかしたら実年齢はもうちょっと上なのかもしれないな。
女将さんはロビーに向かい、チェックイン記録を確認しているようで、しばらくしたら俺たちがいるエントランスに戻ってくる。
「すみません……。お部屋は空いていたのですが大部屋しか空いてなく、宿泊なされるなら皆様全員で同じ部屋……ということになってしまいますがよろしいですか?」
「えっと……、俺は別にいいけど。みんなはどう?」
「あ? なんでもいいから早くしろ」
「翡翠もいーよ! みんなでお泊まりなんて楽しそう!」
「ボクちんもなんでもいいッスよ。間違いが起きそうになったら全力金的かますんで」
「恐ろしいことサラッと言いますね……。まぁ女性陣がいいって言うなら俺も異論はありませんよ。贅沢も言ってられませんし」
「分かりました。ではチェックインをお願い致します」
「チェックインは俺がやっとくので、あなたたちはここで待っててくださいね」
「ありがとうございます!」
そうして蛍さんは女将さんと一緒にチェックインをしに受付に向かっていく。
俺たちはここで待っていろ、と言われたので素直にエントランスにあったソファに座る。
にしても本当に立派な旅館だな。
古さは感じるものの、旅館内は清潔感溢れていてどこかが老朽化してるとも感じない。
そりゃこんなに人か集まるわけだ。
「まだかな〜」
「チェックインが終わるまでまだもうちょっとかかるだろうし、もうちょっと待てる?」
「うん! 翡翠待てるよ!」
「本当翡翠ちゃんはいい子だな〜〜〜!!! 飴ちゃんあげちゃう!」
「やったー!」
「……毎回思うんすけど晟ちんは翡翠ちんに甘々っすね」
「え? 当たり前では?」
飴を貰い嬉しそうにする翡翠ちゃんのまろい頭を撫で回しながら、俺は紫黄さんに振り返った。
そりゃこんなに素直で可愛い子がいたら甘やかすのは当然だろう。
本当に翡翠ちゃんは焔の妹なのかと思うくらいには翡翠ちゃんはいい子だ。
現在興味無さそうに、欠伸をしてくつろいでいるホムを呆れながら眺めていると、慎司くんが不思議そうに俺に話しかけくる。
「あんたたち一体どう言う関係なんだ? 話聞いてる限りじゃ家族って訳でもなさそーだし」
「あー……。まぁ色々あるんだよ。そういえば慎司くん……だっけ? 見た感じ多分学生だよな?学校はどうしたんだ?」
「……別に。それにそれを言うならあんたも成人してねぇだろ。学校についてとやかく言われる筋合いはないし」
「それはそう!」
学校という単語を言った瞬間、体が強ばったような気がして少し反省する。
初対面なのにプライベートに切り込んだ発言をした俺が完全に悪かった。
これからは気をつけよう……。
「みんな、チェックインが終わりました。鍵を貰いましたし、早速部屋に行きましょうか」
「ようやくかよ。時間かかりすぎだ」
「無茶言わないでくださいよ! それにこれでも急いでチェックインを終わらせてきたんですし!」
「あー……焔の言うことは気にしなくていいですよ。早く部屋行きましょ」
「相変わらず図太いッスね〜焔ちんは」
「早く部屋行こーよ〜」
「あんたら本当にどういう集まりなんだよ」
互いに言いたいことを言いまくり、グダグダなので本気で意味がわからなさそうな顔をされてしまった。
実際、俺たちもどういう集まりなのか決まってないし、どういう集まりと言われても正直困ってしまう。
一応目的は同じ……なのかな?とにかくそんなあやふや状態なのだ。
「はぁ……。とりあえず部屋まで案内してやるから着いてこいよ。195号室ならエレベーター乗ればすぐ着く」
「お、マジで? 助かる!」
「こっちだ。早く行くぞ」
「焔ちんよりあの子の方がしっかりしてるッスね。恥ずかしくないんすか?」
「そうですよ。あなたはもうちょっと他人と分かり合うという努力をしたらどうですか?」
「テメェら殺されてぇのか?」
「うるっせぇな!!! すべこべ言わずにとっとと着いてこい!!!!」
「あーあ。焔ちんのせいで慎司ちんに怒られちゃったッス」
「ほんとですよ。反省してください」
「テメェら殺されてぇのか?」
「どっちもどっちだと思うな」
ははは……と苦笑いしながら、後ろから聞こえてくる喧騒をとにかく耳に入れないように努力していたらいつの間にやら部屋に着いていた。
エレベーター内でもうるさかったけれど、その度に慎司くんが喝を入れてくれたため、本当にこの子はしっかりしてるなぁ……と思っていた。
マジで翡翠ちゃん以外は慎司くんを見習ってほしい。
「ほらここ。俺は下に戻るけどなんかあったら部屋に電話あるから何か困ったらその電話かけろ。受付に繋がってるから」
「分かった。何から何まで本当にありがとうな」
「別に……。感謝されることはしてねぇし」
そう言って照れくさそうにした慎司くんは下に戻って行った。
感謝されることはしてない、と言うが宿が無くて困ってた俺たちをここまで案内してくれてことは感謝されて当然のことだ。
何か言う前に戻ってしまったし、また会ったら改めて感謝を伝えておこう。
そうして俺たちは案内された部屋に足を踏み入れた。
「おー! めっちゃ綺麗!」
「期待はしてたんですけど……これは想像以上でしたね」
「わ〜!!! ひろーい!!!」
「わぁお。布団までもう敷かれてるッスよ」
「ふーん。まぁいいんじゃねぇの」
「お前それどこ目線で言ってんの???」
部屋は想像以上に綺麗で部屋も広かった。
同部屋と言っても、襖で仕切り代わりになっていてこれなら男と女で分けられるし問題はほとんどないだろう。
本当にこんなところに泊まってもいいんだろうか……。
今まで何度か旅館に行ったことはあるが、ここまで立派なところは初めてだ。
「さてと……。部屋についたことですので俺から1ついいですか?」
「? なんですか?」
「とりあえず一旦荷物を置いて集まってください」
少し不思議に思ったものの、言われた通り一旦荷物を下ろして蛍さんのところに集まる。
他のみんなも何を話すのか、見当もついていないようで不思議そうにしていた。
焔に至っては面倒くさそうな顔を隠しもしていない。
……これはいつも通りか。
「集まりましたけど……。何を話すんですか?」
「何もなにも、あなたたちはなんで逃げなきゃ行けない立場になったんですか? 普通に生きてさえいたら追われる羽目になることはないでしょう」
「あー……なんて言ったらいいんだろ。とりあえずこうなった経緯を説明したらいいんですか?」
「はい。お願いします」
「えーと」
俺は言われた通りに何があってこうなったのかを説明した。
正直何かを説明するってのはあまり得意じゃないから、支離滅裂になってないか少し不安になる。
とりあえず暴走状態になった宝石獣に襲われ、それを焔に助けられ同居したこと。
そのあと、暴走化した宝石獣が現れ、それを焔と翡翠ちゃんと協力して鎮圧したこと。
そして"特殊作戦部隊"と名乗る連中に襲われ、周りの人間を巻き込まないために逃走生活に明け暮れていること。
全てを話したら蛍さんは何かを考え込むような動作をした。
「改めて聞くと随分波乱万丈な生活してたっすね、チミたち」
「別に好きでこんなことになってるわけじゃないですよ……」
「ほんとにだ」
「波乱万丈ってなぁに?」
「ん〜、それはね……」
「盛り上がってるところ申し訳ないのですが、俺が5年間警察に務めいて"特殊作戦部隊"だなんて単語、1度も聞いたことはありません」
……え、と呆気に取られていると「まぁ俺は別に自衛隊とかに務めてないからあれですけどね。もしかしたら春滝さんなら何か知ってるかもしれませんが」と続ける。
「それに、その特殊作戦部隊と呼ばれた人間には超小型レールガンというものが持たされていたんですよね?」
「そうっすね。その超小型レールガンってやつのせいで仲間の片腕持ってかれたんすけどね」
「……ありえない」
「?ありえないってどういうことだ」
「普通、個人に政府の最新兵器を渡すことなんてありません。政府の最新兵器は個人にではなく必ず1グループ以上の所に渡されます」
「渡されても使用する場合は必ず上官の許可がないと使えず、無断使用は厳しい罰則が与えられます」
「晟くんは分かってると思いますが政府の最新兵器はその破壊力は凄まじい。だかこそ、個人に渡され個人が使用するということはあってはいけないことなんです」
「……軽はずみで使ったら、今度は片腕だけじゃ済みませんよ」
「それほどまでに最新兵器は慎重に扱わないといけないんです」と言われ俺は全身に鳥肌が立った。
恐ろしくなるのと同時に、疑問が湧く。
特殊作戦部隊は、どういう存在なんだ……?
「それに、晟くんの命が狙われていたというのが気がかりです。それに君は暴走状態になった宝石獣に狙われるという体質もある。本当に何も知らないんですか?」
「知るわけないっすよ……。俺だってそれが分からないから困惑してるのに……」
「……まぁそうですよね」
「余計に特殊作戦部隊とかいうヤツら、きなくせぇな。あいつら何が目的なんだ?」
「さぁ? さっぱり分からないっすね。あの口ぶり的にどういう手段かは分からないすけど宝石獣を凶暴化させてるっぽいし」
「じゃあ美麗お姉ちゃんもその人たちのせいで暴走しちゃってたの?」
「どうだろ……。翠玉さんの時も遊蓮さんの時もあいつら出てこなかったからな……」
みんなで頭を悩ませていると蛍さんがこう言い出した
「ならば、俺たちの目標は特殊作戦部隊の目的……及び特殊作戦部隊の全容を知ることを目標にしますか?」
「それって……」
「俺たちには関西に行くという目的はありますが、具体的な目標がありませんでした。頑固とした目標が無い集団はいつか綻びが生まれる」
どうしますか、と聞かれ少し言葉が詰まったけれど俺たちの答えは決まってる。
「……俺たちはこのまま何も知らないままなんて嫌です。だから」
「その目標に乗ります」