序章 閉幕『新たな旅立ちと新たな仲間』
「え、逮捕しないってどういうことですか!?」
「ん? そのままの意味だよ。そりゃ警察官としては逮捕しなくちゃいけないけど街中の人たちや店の人たちから"逮捕しないでくれ"や"事情があるのかも"やらで遊蓮嬢の逮捕を拒否されたからね」
「普通に職務怠慢だろ。そんなことしてあんたの立場は大丈夫なのか?」
「バレたら確実に首は無くなるな。まぁバレなきゃ犯罪じゃないし、暴れてた宝石獣は逃げたってことにしたらいいだろう。はっはっは!」
「それを警官が言っていいんスか……?」
「この人はこういう人ですよ……」
「それに、彼女を捕まえたら政府に好きなように使われるだけだ。流石にそれは気分が良くない」
「!」
やっぱりこの人……政府の宝石獣に対する仕打ちを知ってるのか?
月渡さんは政府の宝石獣の対応を知らなそうだったけど、春滝さんはどうやら宝石獣がどういう存在なのか、政府の宝石獣に対する扱いに詳しいような気がする。
立場が上の人間は政府の闇の部分に触れる機会があるのだろうか……。
「さぁ、そろそろ他所から野次馬がやってくる。バレないうちに店に戻るんだ。月渡も店に戻っておけ」
「え、俺もですか?」
「当然だろ。そこまで消耗した部下に働かせようとするほど私は鬼畜じゃないぞ」
「はぁ……。分かりました……」
「じゃあとっとと戻るぞ。腹減った」
「お前さぁ。あんなことあったのにまず言うことがそれかよ」
「翡翠もお腹空いた〜!」
「以下同文っス〜」
「ははは! じゃあ店に戻ったらご飯でも用意しよう!」
「え、これもしかしてうちも食べる流れ?」
そう言って俺たちは春滝さんの言う通りに店に戻り、みんなでご飯を食べた。
最初は店に戻るのに、とても気まずそうにしていた遊蓮さんだが、店のみんなに怒られながらも優しく迎えられ、いつもの調子に戻りつつあった。
少し気がかりなのが月渡さんの口数が少なかったこと。
時々何かを考え込むようで話しかけても反応が少し鈍くて、疲れが溜まったのかと思いその日は直ぐに解散した。
そして次の日、遊蓮さんは街に降りて何があったのか、なにをしたのかを包み隠さず話し、店長と一緒に謝罪をしたそうだ。
許されることだとは思っていなかったらしく、店を出ていく覚悟をしてたみたいだけど街のみんなは許してくれてとても驚いていた。
街の人たちは許したと言っても苦しい目にあったのは事実だから二度とこんなことをしないように、と釘を刺されたらしい。
遊蓮さんは二度とそんなことはしないと誓い、この街に居続けることが出来ると喜んでいた。
一時はどうやることかと思ったけど、平和的に終わって本当によかった。
「……それはそれとして、俺たちもうここにいられないよな?」
「そっスねぇ。話を聞き付けていつあいつらが来るか分からないからボクちんらはここのみんなの為にもとっとと歌舞伎町を出た方が吉ッスね」
「元からお前が戻ってきたら出るつもりだったんだしいいだろ。まぁここは黙って働いてりゃ飯出てくるから楽だったのに……」
「もう出てくの〜?」
「そうだね。特に荷物も無いし、今すぐ出ていこう」
そうして俺たちは部屋に戻って出ていくために荷物を纏め始める。
纏めるって言ってもそんなに荷物無いしそんな時間かかんなかったけど……。
3人分の荷物でリュック一個分くらいの荷物程度で、そこまでかさばることは無かったから助かった。
そのまま店長にお世話になったことと、出ていくことを知らせるために店長の執務室に向かう。
「店長、いますか〜?」
「うん? 晟くんか。それに他のみんなも……。どうしたんだい? それにその荷物……」
「俺たちもうここ出てくわ。いつ追っ手が来るかわかんねーし」
「お世話になりましたー!」
「ボクちんはお世話になってないッスけど一応三人が世話になったんでありがとうございましたっス」
「そうか……。分かった。ただ出ていくのはもうちょっと待ってくれないかい?みんなに知らせたいからね」
「別にいいが……。なるべく早くしろ。いつ襲撃されるか分かんねぇんし」
「分かった出来るだけ急ごう」
そうして俺たちはエントランスで店長たちを待つ。
その間に襲撃されるんじゃないかと気が気じゃなかったが、そんなことはなく至って平穏な時間が流れていた。
そうしているうちにみんなを引き連れた店長たちが戻ってきて若干驚く。
少なくても遊蓮さんは来るとは思ってたが、こんな大勢来るとは思ってかなかったため少し引いてしまう。
「みんな、もう行くってホントなの?」
「はい。俺たちは追われる身だし、この騒ぎを聞き付けていつ奴らが来るか分からないのでみんなに迷惑かけるわけには行かないので……」
「……そっか、分かった。うちを止めてくれてありがとね」
「うっす!」
「晟くん。行くんだね」
「すみません。急に出てくなんて」
「いいさ、いいさ。若いんだから旅をしなさい」
「焔くんがいなくなるなんで困るよー! ただでさえうちの男連中は非力なのに!」
「そうだそうだ! 俺たちは非力なんだぞ!」
「開き直るんじゃねぇよ。てか俺はすぐ出てくって言ってただろうが」
「それはそうだけど〜!!!」
「2人とも人気だね〜」
「そっスね〜」
店のみんなから別れを惜しまれると少し気恥しいがそれ以上に嬉しい。
俺もみんなと別れるのは悲しいけど、一生会えないわけじゃから全てが終わったあとまた来ればいい。
そうしてみんなとの別れの挨拶をしたあと店長が話しかけてきた。
「晟くん。焔くん。今までのバイト代」
「あ、ありがとうございます……。……? 店長このバイト代ちょっと……いやめっちゃ多くないですか!?」
「それは君たちの選別分さ!」
「いやいやいや! こんな大金申し訳なくて貰えませんよ!」
「うーん……。じゃあそれは美麗を止めてくれたお礼とでもしてくれ!」
「それでも……!」
「いーじゃん貰っちゃえば?」
「でも……」
「晟くん、貰ってくれ。それは俺たちみんなの気持ちだ」
「そうだぞ! 若いもんが遠慮なんてしてんじゃねぇ!」
「私たちの命の恩人なんだもの。貰ってちょうだい」
「……分かりました! このお金はありがたく受け取らせてもらいます! 今までありがとうございました!」
「ああ! こちらこそありがとう! いつでも来てくれよ!」
「ありがとー!」「またいつでも来いよ〜!」「達者でな〜!」
俺は遠慮なく渡された給料を受け取り、礼を言い世話になった店を後にする。
今貰った給料で暫くは暮らせるが、それでも寝泊まりするには金が足りなくなる。
だから紫黄さんが俺たちのチームに加わってくれたのは非常にありがたい。
「さ、早く移動しましょうか。紫黄さんお願い……」
「ちょっと待ってください」
「うえっ!? 月渡さん!? どうしてここに!? 春滝さんに合流したんじゃ……。それになんで私服?」
「次の場所に行くんでしょう? なら俺も連れていってください」
「……どういうことだ。お前は俺たちについてくる義理も意味もないだろ」
「てか仕事はどうしたんッスか?」
「辞めました」
「やめたァ!?」
突然の宣言に驚いたのもつかの間、それ以上の衝撃がぶち込まれつい叫んでしまう。
なんでこんなことになってるのか、俺の足りない頭では分からずに目がグルグルと回る。
そんな俺の様子を見て可笑しそうにくすくすと笑う月渡さんに腹が立つ。
笑う前にどういう訳か説明しろ!
「……俺は宝石獣について何も知らなかった。政府は何かを隠してる。俺はそれを知りたい。だから君たちについて行く」
「そう言われても……。俺たちは今政府に追われてるんですよ?それに、警察をやめてまでついてくるような旅じゃ……」
「それでも着いて行きます。それに……」
「それに?」
「君に着いて行ったら自分が変われる気がする。それに楽しそうだしね」
「楽しそうが本音でしょそれ」
「バレた?」
「で、どーすんだ晟」
「決定権俺にあんの!?」
「翡翠は別にこのお兄さんがついてきてもいーよ!」
「元警官が仲間とか胸熱展開でいいじゃないッスか。それにイケメン……。うん、断る理由がないッスね」
「判定甘くね!? あーもう! 分かりましたよ! どうぞ好きに着いてきてください! 月渡さん!」
「ありがとうございます。それと俺のことは蛍でいいですよ。俺も"晟くん"と呼びますから」
「……うす! これからよろしくお願いします蛍さん!」
「はい。晟くん」
こうして俺たちの旅に新たな仲間が加わり、少し賑やかになった。
これからどうなるのかは分からないけれど、心強い仲間が出来て、知らないところに行くというのはドキドキする。
まぁ、政府から追われてるとか言う、。どこの漫画の世界ですか?って状況なのだが……
それでもなぜだか不安は無い。
不思議に思ったが、俺の周りにいる仲間たちの表情を見てそりゃそうかと1人で納得する。
こんな自信満々な仲間たちがいて、俺だけ不安がってちゃ浮くからな。
「それじゃあ、次の場所に行きますか!」
これにて序章は終わりになります
本当は今朝に投稿した話がこの一番最初の所にくっついてる予定だったんですけど急遽この形に……
これからは無理な時は無理に投稿しないようにします
てなわけで次からは1章に突入!
序章でも結構波瀾万丈だったけどこれからどうなるのか……