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16話 『消えた太陽』

遊蓮さんの心の内を聞いてから約1週間後。

一晩経つ頃にはいつもの遊蓮さんに戻っていて、本当にあの時の遊蓮さんと同一人物なのか疑った。

でも時々見せる物憂げそうな遊蓮さんの姿に、あの日の遊蓮さんと同一人物だと嫌でも突きつけられる。

あの日から、遊蓮さんとは少し気まずい。

でもそれは遊蓮さんが嫌う同情と同じ意味になるんじゃないかと思い、気まずい気持ちを抑えつけて、俺もいつも通りを心掛けた。


「晟くん。今日もよろしくね」


「うす! お願いします。それとネックレスの持ち主って来ましたか?」


「うーん……それが来ないんだよね。お客さんにも聞いてみたんだけどみんなそんなネックレスは持ってないと言っていてね」


「そうですか……」


1週間経つ頃には、他の清掃員たちとも打ち解け仕事も板についてきた。

時々買い出しにも行き、その度に大量の菓子やら何やらを貰い、せっせとみんなで消費するという毎日が続き、店長は2日ごとに給料をくれていてかなりお金が溜まってきた。

かと言って関西まで行くにはまだまだ足りないのだが。

ちなみに苦土さんは少しずつだが良くなってきているらしい。

紫黄さんは、苦土さんの身の回りのサポートをしていて、苦土さんが1人でも日常生活を送れるようになってから合流すると言っていた。

それまでは、まだこの店にお世話になることになる。

たった一つの懸念点はと言うと、特殊作戦部隊と名乗った奴らなのだが……。

居場所がバレていないのか泳がされてるだけなのか……。

まだ襲撃はされていない。

けれどいつされるか分からないため焔は警戒を緩めなかった。

かく言う俺と翡翠ちゃんはこのまで来たら襲われることは無いと思い、割とのんびりと過ごしている。


「そういえば、母さんたちになんも連絡してないな」


母さんには旅に出る有無を伝えてあるが、田中やクラスメイトのみんなには一切何も言っていない。

心配かけたくないのはそうなのだが、友だちをこんなことに巻き込みたくないのが本音だ。

特に田中、俺のこと心配してるよなぁ……。

一応LINEと電話番号は交換してあるのだが、もし何かあった時巻き込まないようにと着信拒否やらブロックやらしてしまったので、連絡を取ることは出来ない状態になっている。

ちょっとばかし後悔しているがとりあえず全てが解決したら謝ろう。


「とりあえず仕事が終わったら母さんぐらいには連絡入れるか」


「おお、晟くん。おはよう。今日もよく働いてるね」


「あ、店長。おはようございます」


「もう翡翠ちゃんとご飯食べたのかい?」


「はい! 今日も美味しかったっす」


「それなら良かった! それと少し聞きたいことがあるのだが……」


「聞きたいこと?」


「その……美麗と何かあったのかい?」


「!……気づいてたんすか」


「まぁね。最近美麗とぎごちない気がしてさ」


なんて言えば分からず頭を軽くかく。

ポツポツとなんとか言葉を探し、1週間前にあったことを話した。


「……なるほど。あの子がそんなことを」


「同情が嫌いなあの人に気まずい空気を出したら失礼なんじゃないかって思って出来る限り表に出さないようにしてたんすけど……」


「そうだったのか。気遣いありがとう。あの子は過去に色々あってね……。ああ見えて警戒心が高くて中々心を他人に開かないんだ」


「でも君は気に入ってるようだから、これからも仲良くしてあげてくれ」


「……はい」


この言葉、前にも遊蓮さんから聞いたことがあるような気がする。

この2人は似ているような気がする。

遊蓮さん曰く、店長は父親のような存在らしいから店長に遊蓮さんが似たのだろう。

けれど仲良くするにも正直どうしたらいいのか分からない。

今まで通りに過ごせばいいのだろうか。


「店長〜。まだ書類あるんで早く戻ってくださーい!」


「む、そういえばそうだったな。仕事の邪魔をしてすまない。俺はもう戻るよ」


「うす」


店長はそのまま仕事に戻り、俺も仕事に再び取り掛かる。

だけど次の瞬間、見に覚えがある悪寒が走った。

後ろに何か気配がある気がして、振り向くとそこには誰もいない。

けれど影がいつもよりも濃いような気がする。

気の所為と言われたらそうかもしれない……という具合なのだが。


「! な、なんだ……?」


気味が悪くなった俺は、その場から離れて別の場所の掃除をし始めた。

この時の違和感を無視しなければ、あんなことにならなかったのではと今ではそう思う。








──────────────────


仕事を終えると、店中が騒がしくなっていることに気がついた。

何かを探しているようで、隙間やら部屋やらをとにかく覗き込んでいて、とても焦っているようだった。

その中には遊蓮さんが混ざっていて、いつもは淡々としているのに、顔には冷や汗をかいていて顔から血の気が引いている。


「遊蓮さん! 一体どうしたんですか!?」


「あ、晟くん……!! 店長!店長見なかった!?」


「店長……? どうして」


「店長が見つからないんだよ!!!」


「は? 見つからないってどういう……」


「とにかく知らないならいい! 君も探すのを手伝って!!!」


そう言って遊蓮さんは走って他の場所を探しに向かう。

一瞬見えたその横顔は、見たことがないほど追い詰められてるような表情をしていた。

突然なことに唖然としていたが、そんなことしてる暇はないと俺も捜索に取り掛かる。

けれど店長はどこにも見当たらず、少しずつ俺にも焦りが募り始めた。


「そうだ……! 誰か外探しに行きましたか!?」


「何人か向かっているが……どこにもいないんだ!」


「くそっ! そうだよな……!」


外にいる可能性があることを見逃すはずもなく、店と外両方で探してもいないということでここまでの大騒ぎになっているのだろう。

こういうのは人手が多いければ多いほどいいため、翡翠ちゃんにも手伝ってもらおうと翡翠ちゃんとのいる部屋に向かった。


「翡翠ちゃん! って、焔お前もいたのかよ!」


「あ? いちゃ悪いのかよ。てか外すごいうるせぇけど何があったんだ」


「店長がいなくなったんだよ! お前も手伝え!」


「は? あいつが?」


「大変! 翡翠も探す!」


「頼む! こういうのは人手が物を言うんだ!」


「くそっ……。あいつがいねぇと誰が俺たちに金支払うんだよ。しゃーねぇ。探すぞ」


「お前金のために探すとかカスかよ!」


「あ"ぁ"!?」


「2人とも喧嘩してる場合じゃないよ!」


3人で店の外に繰り出して路地裏や店の中などを探し回る。

街の人にも聞き込みをしていたら、辺りは既に暗くなり、歌舞伎町は店長がいなくなったという話で騒ぎになっていた。

パトカーの音が響き、渡りシャレにならない大騒ぎへとなっている。


「げっ、パトカー……。なんも悪いことしてねぇのに身構えちまう……」


「実際俺たちは逃げた方がいいだろ。特殊作戦部隊とかいう名前的に政府側の人間のはずだからな」


「裏口から店に戻るか……。翡翠ちゃん。はぐれないように手を繋いどこう」


「うん……」


翡翠ちゃんはこの騒ぎとパトカーの音に不安そうにしていて、心配させないようにせめて顔を暗くしないように気を付ける。

焔は別にいつも通りのスカした顔をしているため、そもそもの心配が必要ない。

こっそりと裏口から戻ると、店の中には警察が沢山いて他の従業員たちと話しているようだった。

ちらりと見えた遊蓮さんは椅子に座りこみ、。酷く憔悴したようで他の風俗嬢から慰められている


「このままじゃ店の中に入れないな……」


「はぁ……。あのおっさんどこ行きやがった」


「うぅ〜うるさい〜」


「あ〜……、パトカーの音か。耳塞いでな」


それから数十分したあと、警察は店の中の捜査に移りエントランスには数人の警察が残った。

そのうちの1人が遊蓮さんに話しかけていたが、2人の顔は見ることが出来ない。

けれど、遊蓮さんの肩が揺れていることだけは分かった。

警察は話が出来ない状態だと判断したのか、一言断りを入れたあと遊蓮さんから離れる。


「……あれ、あの警官こっちに向かってきてないか?」


「は? 気のせいだろ」


「……」


「いやいやいや! 絶対向かってきてるって!!!」


「うるせぇ! バレるだろうが!」


「多分もう手遅れだと思うよ……」


「は?」「え?」





「はぁ……。やっぱり、あなたたちは何してるんですか?」


そう話しかけてきた警官は、酷く呆れたような顔をしていた。

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