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11話 『決意』

「苦土さん!!!」


「ぐっ……! 大丈夫だ晟くん」


「どこが大丈夫なんだよ!!」


「待つっスよ晟ちん。苦土ちんは重症なんスっから動かすのは危険っス」


「あっ……すみません……」


俺たちが転移した先は、見覚えのない廃墟でそれに驚くよりも先に、無くなった左腕を押えて脂汗をかいてる苦土さんの元へ駆け寄った。

大丈夫だと言い張る苦土さんに、そんなはずない! と俺はつい詰め寄ってしまう。

それを見兼ねた紫黄さんに止められて、ようやく我に返る。

俺は立ったまま顔だけを下に向け、ただただ項垂れた。

取り返しのつかないことをしてしまったと。

けれど俺はあることを思いつく。


「そうだ……。翡翠ちゃん、苦土さんの腕を治してくれない?」


「え……それ、は……」


「無理だ」


「は……? 無理って、なんでだよ……焔……」


「翡翠の力は失った部位を修復することは出来ねぇんだよ。千切れた腕がその場に残ってさえいたら細胞組織を繋ぎ合わせるだけだからまだ何とかなったかもしれねぇが、その腕が消し飛んだんだ。もう治せねぇ」


「……お前が思ってるほど、宝石獣の力は万能なんかじゃねぇんだよ」


こちらを見てそう言い放つ焔。

額に皺が寄るほど眉を顰めている焔に、俺は何かを言う気にもなれず、唖然とすることしか出来なかった。

もうどうすることも出来ないという事実が、痛い程突き刺さる。


「……あのね? 晟お兄ちゃん。翡翠の力は怪我は治せても病気や欠損を治すことは出来ないの……。ごめんなさい」


「やっ……! 翡翠ちゃんは悪くないんだ……。翡翠ちゃん"は"……」


「……傷口を塞ぐぐらいは出来るだろ。このまま放置するよりはマシなはずだ」


「うん。苦土さん。ちょっといい?」


「ありがとう。すまないね翡翠ちゃん」


「ううん。気にしないで。翡翠はこれぐらいしか出来ないから……」


翡翠ちゃんの能力により傷口が塞がれ、痛みもマシになったのか、苦土さんの顔が穏やかになりつつある。

翡翠ちゃんはこれぐらいしか出来ないと言っているが、その力はとてつもなく凄いものだ。

俺なんかと違う。

俺は、何も出来なかった。

その上、俺のせいで苦土さんは左腕を失った。

グルグルと胸の中で罪悪感と自分自身への嫌悪感が回り続ける。

もうどうしたらいいのか、分からない……。


「とにかく、これからどうするんスか。とりあえず苦土ちんを病院に連れていくのは決定事項ッスけど」


「俺たちはこれから日本中を練り歩く。どの道もうあそこにはいられねぇよ」


「は? どういうことだよ。もうあそこにはいられねぇって……」


「そのままの意味だ。俺たちはもう帰らない。お前も着いてきてもらうぞ」


「ふ、ざけんなよ!!! 勝手に決めやがって!」


「お前こそふざけてんじゃねぇよ。ガキみてぇに駄々こねやがって。いい加減大人になれ」


焔の言い分に俺は頭に血が登り、焔の胸倉を掴みあげる。

けれど俺よりも背が高く筋肉量がある焔をどうこうできるはずもなく、ただ胸元を掴んでるだけに過ぎない。

突然始まった言い争いに、翡翠ちゃんはビクリと体を強ばらせ近くにいた紫黄さんの裾をギュッと掴んでいた。

苦土さんと紫黄さんは静観していて口出しをしようとしてこない。

でもそれはありがたい。

おかげで言いたいことを言えるから。


「毎回お前は1人で全部決めやがって……! 大体、俺がこんな状況に巻き込まれたのはお前のせいだろ!? なのにもう戻れねぇとか……! ふざけんのも大概にしろ!!!」


「責任転換してんじゃねぇよ。お前が俺たちに関わると決めたのはお前の判断だろ。お前には俺たちと関わらないという選択肢があった。だけどお前は"宝石獣について知りたい"と言ったのはお前自身だ」


「黙れよ……! こんなことになると分かってたらこんなことに関わらなかった!!! いつの間にか巻き込まれて……! その上もう戻らねぇ!? 俺はあの町に帰るぞ! 俺を心配してくれる人たちがいるんだよ!!!」


「……いい加減にしろ!! まだ分からねぇのか!!! お前はあいつらに命を狙われてたんだぞ! 俺達があの町に住んでることはとっくにバレてる! お前がもし戻ってどうなるか想像してみろ!!!」

「……ッ!」


「分かんだろ……? 俺たちはもう、戻るって言う選択肢はハナからねぇんだよ。俺たちはあいつらに目をつけられた。俺たちを始末するためにあいつらは必ず周りの人間たちを巻き込む」


「お前はお前の大切な人たちを危険に晒すつもりか!?」


「……うっ。うぅ……っ!」


焔に胸倉を掴み返され、怒涛の如くまくし立てられる。

本当は焔の方が正しいということぐらい、とっくに分かってた。

でもそれを認めたくなくて、今のこの状況は他の誰でもない俺の責任だということは、とっくに理解してた。

焔の言う通り、今の俺はただの子供の駄々と一緒で、大人になれという言葉は全くもってその通りだ。

大切な人を危険に晒したいのかと言われ、俺は脱力して焔の胸元から手を離し、膝から崩れ落ちる。

視界がぼんやりと歪み、目から溢れた涙を拭う余裕もなく、握りしめた拳に次々と水滴が落ちてきた。

そんな俺を見下ろす焔の顔は分からないが、悲しそうな空気を纏ってることだけは伝わってくる。


「うぅぅ……! うぁあ……!」


「今のうちに好きなだけ泣けばいいッスよ。少なくても今は、チミを責める人間はここには誰もいない」


「うぐっ……! うああああああああ!!!!」


「晟お兄ちゃん……」


コツコツと俺の傍に来た紫黄さんは、俺の頭を抱え込むように抱きしめてくれた。

まるで母親のような温かみに抑えてた箍が外れ、子供のように泣き叫ぶ。

そんな俺の頭を抱きしめながら撫でてくれる紫黄さんにしがみつきながら、声がかれるほど泣き続けた。

それから俺が落ち着いたのは5分後のの事だった。


「晟ちん。落ち着いたッスか?」


「うすっ……。その、すみませんでした」


「いーのいーの! 子供なんだから我慢せず泣けばいいッスよ!」


「いや俺もう子供じゃ……」


「我々からしたら晟くんは子供だよ。すまないね、まさかここまで追い詰めてしまっていたとは……」


「え!? い、いや苦土さんはなんも悪くないっすよ! 俺が勝手に色々言ってただけだから……」


「晟お兄ちゃん……。その、ごめんなさい。翡翠、晟お兄ちゃんがそんなに悩んでたの、知らなくて……」


翡翠ちゃんは俺の裾を控えめに引っ張り、その目には薄らと涙が浮かんでいた。

そんな姿に申し訳なさしか湧いてこない。

俺はしゃがみこんで翡翠ちゃんの肩を掴み、真っ直ぐにその目を見詰める。


「翡翠ちゃん……。ううん、翡翠ちゃんは何も悪くない。いつも俺を心配してくれてありがとう」


「晟お兄ちゃん……。翡翠、これから晟お兄ちゃんを泣かせないように頑張るから!」


「うーん……。幼女から守る宣言させてしまう俺ってもしかしなくてもめっちゃ情けない……?」


ふんす! 握り拳を作りそう宣言する翡翠ちゃん。

本来ならそれは俺が言わなきゃいけない台詞で、幼女にここまで言わせてしまう先程までの俺はどれだけ惨めなことか……。

けれど実際、翡翠ちゃんの存在には毎回すごく助けられている。

これからは翡翠ちゃんに心配されないように気をつけよう、と新たに決心する。


「なぁ、焔。せめて、母さんに連絡ぐらいはさせてくれねぇか」


「……好きにしろ」


「ああ。ありがとう。それと……さっきはごめんな」


「……ふん」


思い切り顔を逸らされてしまっていたが、逸らす前に見えた顔は俺を心配している表情だった。

その姿にどこまでも素直じゃないな、と思うのと同時に、少し嬉しかった。

俺は母さんに電話をするためにみんなから少し離れた場所で電話をかける。

プルルルルと携帯が2、3度揺れた後にガチャっと音が鳴った。


『アキちゃん……?』


「あ、母さん?ちょっと話したいことが……」


『今どこにいるの!? 早く帰ってきなさい!』


「えっと……」


『学校から電話がかかってきて、晟が熊を連れて帰ってこないって聞いて……! 私がどれだけ心配したと思ってるの!』


『それに、学校の近くの住宅街が酷い酷い有様で血痕が残ってたって聞いて血の気が引いたのよ……?』


『どこを探しても晟がいなくて……! もしかしたらって最悪の想像をして、どうにかなりそうだったのよ!?』


「……」


『晟! 早く帰って……』


「ごめん母さん。俺はやらなきゃいけないことが出来たんだ」


『晟……?』


「だからごめん。しばらく帰れそうにない。心配、たくさんかけてごめん、多分、これからも心配をかけることになると思う」


『晟、何言って……』


「それでも、絶対いつかは母さんの元に帰るよ。だから安心してよ。俺は絶対に死なないから」


「それに、俺には頼りになる仲間がついてるから」


『晟……』


「じゃあもう切るわ。もう行かなくちゃ」


『晟』


「え、何?母さん」


『……行ってらっしゃい』


「! ……っ。……行ってきます」


電話越しから聞こえた「行ってらっしゃい」の言葉に枯れたはずの涙が再び浮かび、一瞬言葉に詰まる。

でも直ぐに涙を拭い、真っ直ぐ前を向きながら俺はいつも返している言葉を返した。

俺は絶対母さんの元へ戻る。

そのためには俺たちが巻き込まれた悪意を断ち切る必要がある。

だから俺は前に進む。

例え何があったとしても。

そう新たに決意した俺は、みんなが待っている場所に足を進め、これからどうするか話し合いを始めた。


「じゃあ、ボクちんは一先ず苦土ちんを病院まで送り届けるっス。一応、しばらくは苦土ちんのそばにいるつもりッスからみんなとはいられなくなるッスけど」


「や、大丈夫です。紫黄さんは苦土さんと一緒にいてあげてください」


「了解ッス。とりあえず苦土ちんの様子がある程度良くなったら晟ちんたちと合流するッスよ。ボクちんの力は必ず必要になると思うっスからね」


「ああ。助かる。一先ず俺たちはしばらく西に向かう。西に古い知り合いがいるしな」


「みんな、気をつけてくれ。本当は俺もついて行きたいんだが、流石にこの状態じゃみんなの足を引っ張ることになってしまう」


「いやいや、苦土さんは休んでください。その状態で無理されると俺たちの心臓が持たないんで……」


「無理は厳禁なんだよ〜!」


「ああ。分かった2人とも。心配をかけてすまないね」


ある程度の方針が決まったところで、俺たちは一旦二手に別れた。

苦土さんを病院に連れていくために、苦土さんと紫黄さん、西にいるという焔の知り合いに会いに行くために焔、翡翠ちゃん、俺のチームだ。

これから俺たちのチームに紫黄さんが合流する予定になる。

それまでは、この3人でどうにかやっていかなきゃいけない。

だけどさっきまでの不安はどこに行ったのかと不思議になるほど、今の俺は落ち着いていた。

その理由は俺にも分からない。

けれど、これでいいんだと心の奥底でそう思った。


「じゃあボクちんたちはもう行くッス。3人とも、気をつけるッスよ」


「3人ともどうか無事で」


「ああ、苦土さんも」


その言葉を最後に紫色の光に包まれた2人は、光が消えるのと同時にこの場から姿を消した。


「で、俺たちは今からどこに行くんだ?」


「とにかく今日の寝床を確保しに行く」


「歌舞伎町に行くぞ」

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