生態系の覇者 ⑫
「気持ちは分からなくもないな」
「・・・そうなのですか?」
意外なことにバルトロイさんが私の思いに同意をくれて、ドネルクさんもバルトロイさんに同意する。
「戦場では、意識したから悪いものを引き寄せたんじゃないか、としか思えないことも起こるものだ」
「フレイアの近くに居ると余計にな。私もそういった経験は有る。だが、ことが起こる前に話してくれて正解だ」
サラッとお母様を巻き込みつつ、バルトロイさんもドネルクさんに同意を返す。
「どう考える?」
「今の時点では良くないものなのか無視して良いものなのかも判断が付かん。フレイアの意見も聞きたい」
お母様にはエレーナさんとノイエラさんが報告していると思うんだけどな。
お母様とは朝から何度も顔を合わせてるけど、何も言わなかったということは重要視していなかったのだろうし、私が大袈裟に反応してしまっているだけなんじゃないかと考えてしまう。
「これは、簡易の砦でも築くべきか?」
「砦とまでは行かずとも、拠点の設置は検討すべきだな」
「・・・ええ・・・?」
ずいぶんと大袈裟な話になってきてるんだけど、止めるべき?
いやあ。でも、お二人の方が私なんかよりも人生経験豊富だしなあ。
お二人が必要だと言うなら、そうなのかも。
私の危険察知能力が優れているなら、熊ごときに食われることもなかったわけだし。
バルトロイさんなんて前世の私と同じぐらいの歳なわけじゃん。
スペアのない残機1機の人生ゲームで全機撃墜された私と、1機も撃墜されていないバルトロイさんや、もっと長く生存しているドネルクさんのどちらが危機管理能力が高いかなんて、較べるまでも無い。
そこへスッキリした表情のお母様たちが連れショ―――、ゲフンゲフン。集団お花摘みツアーから戻って来た。
ドネルクさんとバルトロイさんが私を取り囲んでいるようにも見える状況に、お母様が怪訝そうに柳眉を寄せる。
「どうした? 何か有ったか?」
「おう。フレイア。嬢ちゃんが地下の空洞が気になると言ってな」
内容としては間違っていないんだけど、そこまで言ってないじゃん! と抗議したところで意味も無いし黙って聞いていると、ドネルクさんのザックリと端折った説明にお母様は首を傾げる。
「地下? 昨日のアレのことか」
「それが何だか分かるか?」
ちゃんとエレーナさんたちから報告を受けていたらしいお母様は、ドネルクさんの問いに肩を竦める。
「魔力溜まりのようなものかと考えていたが、正体は分からん」
“魔力溜まり”? って何だろう。
アレかな? 魔獣は魔力から生まれるとか、魔の森は自然の魔力が濃いとかって、あの辺の話かも。
お母様の答えにドネルクさんが困ったように眉尻を下げて、ドネルクさんに代わって不満そうなバルトロイさんが参戦する。
「昨日の時点で知っていたなら教えてくれても良かったんじゃないか?」
「お前が固執して、正体を調べると言い出したら先へ進めなくなるだろうが」
「私とて時と場合ぐらい弁えるぞ」
お母様の指摘にバルトロイさんの勢いが削がれる。
勢いが削がれているってことは、魔法のこととなると自制心が怪しくなる自覚が有ったのかな?
その時点でバルトロイさんの信用度がガクッと暴落してるんだけど、バルトロイさんは気付いて居るんだろうか?
ああ言えばこう言うお母様が抗弁を始めて、そこで止まるわけがない。
「どの口が言う。アカデミーの命令で向かわされた魔獣被害の調査でも日程が倍に伸びたのは一度や二度ではなかったし、お前が魔法術士団に籍を移してからも有っただろうが」
「む。そうだったか?」
「ほら。これだ」
さらに指摘されて口籠もったバルトロイさんに対して、お母様はヤレヤレと首を振った。
さすがと言えば、さすがなのがドネルクさんで、子供の口喧嘩のようなお母様たちの遣り取りにも動じず話の本筋を見失っては居なかった。
「それで? お前は放置しても問題無いと考えているのか?」
「問題無いも何も、何なのかが分からんものに、迂闊に触れるわけにも行くまいよ。昨日、今朝と探ってはみたが、変化が有るようには感じられなかったし、観察に留めて置くしか有るまい」
「道理では有るな」
お母様は対応保留で経過観察のつもりだったと。
ドネルクさんもお母様の言い分に納得を示している。
お母様の考えも尤もだよね。
“触らぬ神に祟り無し”で、変に刺激しない方が良いのかも知れない。
ドネルクさんを黙らせたお母様の目が私へと向く。
「フィオレ。“気になる”というのは?」
「・・・胸がざわつく感じ」
「ふむ・・・」
私の答えに、私の中に住み着いている精霊(仮)の存在を知るお母様が思案顔になった。
もしかして、地下の空洞と精霊を関連付けてる?
精霊も謎の存在ではあるけど、地下の空間と何が関係するんだろう?
お母様の思案顔の意味を知らないドネルクさんが、先ほどの案をお母様にぶつけに掛かる。
「バルトロイと俺は監視用の拠点を置くべきだと考えているが、お前はどう考える?」
「渡河地点の監視も有る。建てるなら砦として機能するものにすべきだろう」
さらに突っ込んだドネルクさんに対するお母様の答えもさらに突っ込んだものだった。
ドネルクさんが驚いた顔をする。
「何だ? ずいぶんと積極的になったな」
「フィオレは魔力に対する感覚が鋭敏だからな。有事に備えるのはウォーレスの務めだ」
ついさっき経過観察と言った口で全く違うことを言いだしたお母様に、バルトロイさんが疑念の色を滲ませた目を向ける。
「有事だと? フィオレ嬢と有事がどう繋がる?」
「あくまで可能性の一つとしてだが、“迷宮”だとは考えられんか?」
「「「迷宮!?」」」
お母様のブッ飛んだ推測に、私とドネルクさんとバルトロイさんの声が重なった。
生態系の覇者⑫です。
未発見の迷宮!?(疑惑
次回、第二次領有計画!?




