初めての出征 ㉝
地面を奔る炎も有れば、宙を滑っていく火の玉も有る!
私がイメージしたのは地方都市の生命線、プロパンガスだ!
空気よりも重たい可燃性ガスは地面を這い風に拡散しにくい!
しかも無味無臭だから鼻の良い野生動物でも気付くまい!
大量のプロパンガスに見立てた魔力を敵側に広げて着火すれば、瞬時に燃え広がる!
プロパンガスが燃焼―――、酸化反応で生成するものは二酸化炭素と水だ!
そして、ここは森の奥!
地球温暖化? SDGs? 植物は二酸化炭素を吸収して酸素を生み出すんだよ!
しかも植物に水まであげられる親切設計!
さらに言うなら焼けた落ち葉は草木灰になって肥料の三大栄養素の1つカリウムが供給される一石三鳥!
事実かどうかなんてものは知らん!
本当に「魔法はイメージ」だというのなら、私がカリウムだと思えばカリウムになるはず!
ボワッと広がった炎の束は地面も立ち木も下草も飲み込んで影絵のような影にする!
明暗が反転し、まるで溶鉱炉でも覗き込んだかのような熱気が押し寄せる!
ザザザザザザっと雨音のように迫ってきていた魔獣たちの足音がピタリと止まった!
大地がうねったように錯覚するほど地表を覆い尽くして這い寄ってきていた巨大蜘蛛の群れは、木々の間から湧き出す前に突如として灼熱の海に飲まれて炎上する!
地上に在るものの全てを舐める炎が上昇気流を生み出し、撚り合わさっていくつもの炎の竜巻―――、火災旋風を形成している!
「・・・うひっ!」
予想以上に大きな炎の勢いにビックリした!
お爺様たちから聞いた「“紅蓮”でガルダを呼び寄せてしまった」との教訓が有るせいか、お母様たちは“紅蓮”を使っていない。
私も“蒼焔”を使っていないし、バルトロイさんも火炎放射器みたいな直線状の炎を投射しているけど爆発を伴う魔法は使っていない。
大きな魔法を使った人が一人も居ない状況は偶然ではなく、誰もがナーガ川の向こう側に居るガルダに察知されるのを警戒してのことだ。
それでも、100人近くもの火魔法が合わさればこの火力!
体内保有魔力量を増やしまくった私たちは、ただでさえ魔法術師が多いと言われるピーシス領に、新たな魔法術師を生み出すことに成功していると実感する。
その実例の一人が喜々として“火奔“を放っているネイアさんだ。
体内保有魔力量の少なさで魔法術師の道を諦めていたネイアさんは、一般的な魔法術師よりも多くまで体内保有魔力量を増やして一端の魔法術師となっている。
それは魔力の体外放出が苦手だったアイシアちゃんも同じで、脳筋仕様の性質で魔法を苦手としていた子も多かったんだよ。
アイシアちゃんと同様に苦手を克服した子たちがどんどん増えている。
それはウォーレス領として、あるいは王国として、とても喜ばしいことだ。
「・・・うっ」
鼻を掠めた煙に髪が焦げたときに似たタンパク質が焼ける臭いが混じっている。
この臭いは多くの生命を奪った証明だ。
狩猟で自分の命を繋いできた私は、お肉を得る以外の目的で命を奪う行為が好きではないんだけどね。
虫を食べることを生理的な嫌悪感で諦めたぐらいだから、デッカい蜘蛛を食べるのもちょっと無理だ。
カニと同じように8本の脚を持つなら、焼き蟹みたいに美味しそうな匂いをさせてくれれば良いのにね。
「・・・大勢は決したかな?」
何に反応して突然集まってきたのかは分からないけど、炎の海に阻まれたラクネは攻め寄せて来られなくなっている。
大丈夫だとは思いつつも全方位に向けて大きく広げた魔力の手を遠くまで伸ばす。
地中に広げているアクティブソナーの反応にも神経を尖らせる。
後方の広範囲から押し寄せてきていたラクネの追加は無さそうだね。
なら、炎の向こうで立ち往生している焼き残しを片付ければこの戦闘は終わりだ。
被害を受けることなく無事に戦闘を終えられそうだと安堵の息を吐いた瞬間、新たな反応が魔力の手に触れた。
「―――、・・・まさか!!」
バッと後ろを振り返る!
この方向はナーガ川!
かなりの高速で接近してくる反応は川の遙か向こう側だ!
この速度・・・、鳥!?
「・・・敵襲!! 恐らくガルダだよ!!」
「何ッ!?」
私が発した警告に、真っ先に反応したのはお母様の声だった!
私もまさかと驚いたけど、お母様の声にも驚きが表れている!
大きな術式を使っていないのに何で!?
「敵影視認! ガルダです!」
「ガルダ接近!!」
目の良いイディアさんとナンナちゃんの警告が私の索敵結果を裏付ける!
推論や考察は後だ!
今しなきゃいけないのは、挟撃への対応!
指揮官として、魔法術師として、みんなを守るために全力を尽くすことだ!
迷ってる暇なんてない!
初めての出征㉝です。
新たな敵I!
次回、スクランブル発進!?




