初めての出征 ㉛
「フィオレ様! 私も参ります!」
「エターナさんたちはノーアとルナリアを守って! 私はアイシアちゃんたちを連れていくから大丈夫!」
私の指示にエターナさんが足を止めたのを確認して、再び前へと向き直る。
「ラクネが1分ちょっとで来るわよ! 数はたくさん!」
「ど、どうすれば!?」
「遠慮無く燃やすのよ! 大した敵じゃないから落ち着きなさい!」
本当にルナリアの声って通るんだね。
恐慌状態の一歩手前のような声を上げる新人さんたちをルナリアが一喝しているのが背中越しに聞こえてくる。
「フィオレ様!?」
「アイシアちゃん! オーリアちゃん! 付いて来て! 左斜め後るからラクネの大群が来るよ!」
「「は、はいっ!!」」
アイシアちゃんたちと新人さんたちが慌てて私に続くけど、アイシアちゃんの小隊にはお母様たちが監督役として付いていた。
そのお母様たちはといえば、いつも通り堂々としたものだ。
お母様たちの前を駆け抜けた背中の向こうから、のんびりとした―――、というか、楽しんでいる余裕さえ感じさせる声が聞こえてくる。
「ラクネか。私たちも焼きに行くとしよう」
「「「「「はっ!!」」」」」
目の良いイディアさんが索敵してお母様たちが焼きまくる感じかな?
お母様たちには自由に遣って貰えば良いとして、前方にアスクレーくんの小隊が見えてくる。
最初に前衛部隊を務めたネイアさんたちの小隊は今は殿に下がっていて、アスクレーくんの小隊が前方へ繰り上がった位置になっている。
「フィオレ!」
「・・・お兄様! ジアンさん!」
私の姿を見付けたアスクレーくんがパァッと表情を明るくして、アスクレーくんの隣にはジアンさんとエウリさんたちの姿が有る。
「敵襲って何が来たの!?」
「・・・前方には触角ヘビの大物で、後方からラクネの大軍が来ます! ジアンさん、小隊を前進させてルナリアとお兄様を守って!」
アスクレーくんは、こんなときにも魔獣に対する興味が勝っていて、魔獣に対する恐怖は頭に無いみたい。
パニックを起こされるよりは、ぜんぜん良いからね。
総大将のルナリアが居る位置が本陣だ。
どのみち本陣を守るのだから、アスクレーくんと纏めてしまえば防衛要員は少なくて済む。
アスクレーくんに答えつつジアンさんに指示を出せば、それぞれに答えが返ってきた。
「はっ」
「えっ? 嫌だよ」
了承したジアンさんと拒否したアスクレーくんだ。
「「はぁっ!?」」
私のポジションは総大将の参謀、兼、レーダー観測員、兼、戦闘要員だから、参謀が入っている分、命令系統としてはお飾りの小隊長よりも上位者だ。
指示と言い表せばソフトだけど、要は「上位者の命令」なんだよ。
まさかアスクレーくんが拒否するとはジアンさんも考えて居なかったようで、驚いた私とジアンさんの声が綺麗にハモっていた。
いやいやいや! なに言っちゃってんの!?
戦闘状況中だよ!? 実戦なんだよ!?
「ラクネを近くで観察できるのに、下がったら見られなくなるだろう?」
「・・・お兄様・・・。今はそんな場合では」
目を輝かせて宣うアスクレーくんの姿に、ジアンさんがグリグリと自分のこめかみをマッサージしている。
私はといえば、脱力して膝から崩れ落ちそうになっていた。
舐めてた! 空気が読めないオタクの生態を舐めてたよ!
普通、興味よりも自分の命を優先するでしょ!?
地の底にまで沈み込みそうなほど深い溜息を落としたジアンさんが、持ち前の鋼の精神力で自身を立て直して顔を上げる。
「フィオレ様。ルナリア様の護衛にはネイアたちの小隊を当てれば良いでしょう」
「・・・お兄様の小隊で迎撃に当たるってこと?」
「どこかで下手に暴走されても困ります。むしろ、制御できる環境で自由にさせた方が暴走を抑えられるのでは?」
あー。なるほど? ガス抜きしておけ、と。
フラフラと勝手に魔獣観察へ出掛けられるぐらいなら、最前線で戦いながら満足するだけ魔獣を見させておけってことね。
いやまあ、私もアスクレーくんが戦力になるとは考えて居なかったけどさあ。
完全にお子様扱いというか結構な言われ方をしてると思うけど、ワクワクした表情でラクネの襲来を待っているアスクレーくんが気にした様子はない。
というか、魔獣に熱中していて私たちの話を聞いていない。
ジアンさんもラクネを大して強くない魔獣と見ている感じかな?
こんなことならアイシアちゃんたちの小隊をルナリアの傍に遺してきた方が効率的だったな。
でも、私だって、初めて対峙する魔獣に不安が無いわけじゃない。
不安なときに傍に居て欲しいのが誰かなんて決まってる。
これは私の小さな我が儘。
アイシアちゃんたちの小隊にはお母様たちがいる。
初めての出征㉛です。
アスクレーくん・・・。
次回、接敵!?




