初めての出征 ㉔
「あー・・・。まあ、そうだったな」
「「えっ!?」」
目を剥いたルナリアと私の声が重なる。
私もルナリアと変わらない表情をしている自信が有る!
お母様が言い負かされた!?
私たちは今、とんでもない瞬間を目撃したんじゃないだろうか!?
事実、お爺様たちやお婆様たちも驚いた顔をしていて、エゼリアさんたちは遠い目をしている!
思えばバルトロイさんに対するお母様の当たりが妙にキツいように感じてたんだよね。
常々、「面倒くさい」とか悪態を吐いているわりに信頼を置いてるようだし、関係性が良く分からなかったんだけど、その理由に気付いてしまった。
お母様は、たぶんバルトロイさんが苦―――。
「何だ? フィオレ」
「・・・な、何でもございません!」
ジロリと目を向けられて即答すると、お母様は澄まし顔で頷いた。
「ヨシ」
危ない危ない。余計なことを口走らないように両手で自分の口を塞いでおく。
私と同様にお利口さんなルナリアも自分の口を塞いでいる。
世の中には「雄弁は銀、沈黙は金」という言葉が有る。
言ってはならないことを口に出してしまうと、キュッと絞められてしまう可能性が高い。
お母様と私たちのやり取りを眺めていたお父様が、やれやれと首を振ってから表情を改めた。
「バルトロイ殿。今回の遠征はウォーレス家においても数十年ぶりの挑戦となる。もちろん、イケると踏んでの判断だがそれなりの危険は有る。それでも構わないのだろうか?」
「お心遣い痛み入る。しかしながら、優秀な魔法術師による術式の実戦使用を目にできる機会は極めて希なのだ。それも、次代を担う“白焔”の後継者ともなれば、多少の危険を冒すだけの価値は有る。そして、それは王国の未来に貢献することになるだろう」
お父様の真摯な目にバルトロイさんも真摯に答えた。
コレ、ロックオンした私を逃がす気はないって宣言だよね?
王国の未来は魔法への興味のついでなんだ?
以前、バルトロイさんのことを、「王都へ帰らなくなる」とお母様が言っていたのを思い出す。
お母様によるバルトロイさんの人物評は間違っていなかったと確認した。
そこで弾き出されていたアスクレーくんが再突入してきた。
「フィオレの術式って、そんなに珍しいんですか?」
「術式が珍しいのも有るが、魔力制御が素晴らしいのだ。いや。発想力も素晴らしいな。全くもって、何をどう発想すれば、あんな巨人が出来上がるのやら」
聞いて居る私が恥ずかしくなるようなバルトロイさんの絶賛に、アスクレーくんが考える様子を見せた。
「発想力ですか?」
「アスクレーくん。君はファーレンガルド家の子息だったな」
「はい」
バルトロイさんに真っ直ぐ視線を向けられて、アスクレーくんが背筋を伸ばす。
「お父上やお母上のように政治や社交に生きるのでなければ覚えておくと良い。魔法術式とは発想力と魔力制御能力で決まるものだ。魔力制御は反復して訓練することで鍛えることが出来るが、発想力というものは天性の才能がものを言う。あるいは豊富な知識、いや、見識と言った方が良いか」
まるで学校の先生のような口振りで、バルトロイさんはつらつらと語る。
そう言えば、バルトロイさんはお母様と同じように若くしてアカデミーに招聘された天才児だったね。
アスクレーくんはアスクレーくんで真剣に聞き入っている。
お母様とシェリアお婆様以外から、こんな風に論理を聞く機会はないから私も興味深く聞く。
「見識ですか?」
「そうとも。色々なものを見て、成り立ちや構造を知ることでも術式の幅を広げることは可能だ。“見る”ということも非常に重要になるのが魔法術式というものだ」
バルトロイさんの説明に、ちょっとドキッとした。
それって、私は色々なものを見たことが有って、組成や理屈を知っていると言い換えることも出来るよね。
現代日本での前世を言い当てられたようで心に緊張が走る。
アスクレーくんは、と言えば噛みしめるようにバルトロイさんの教えを聞いている。
「知識ではなく見識・・・」
「君も魔法術師を目指すのなら、たくさんのものを見て、たくさんのことを知ると良い。そうすることで魔法術師は成長する」
「たくさんのものを見て、知る」
反芻しているアスクレーくんも勉強が大好きで頭の良い子だから、気を付けて接しないとな。
どこかで私の中身を見破られそうで怖い。
「一朝一夕で出来ることではないが、多くの知識と経験を積めば出来ないことではない。若い内は心も柔軟なのだから、見識を広げることだ」
「そうします」
バルトロイさんの言葉にアスクレーくんが深く頷き、アスクレーくんの反応にバルトロイさんも目を細めて満足そうに頷いた。
初めての出征㉔です。
身バレのフラグ!?
次回、進捗!?




