初めての出征 ④
蛇口を捻って魚が出てくる水道なんて嫌じゃない?
同じ水源の地下水を井戸水として飲んでるんだよ?
こんな例え話をしても伝わらないだろうから言わないけどね。
仕方ないなあ。
期待させて落とすのも可哀想だから少しだけ入れ知恵してあげるか。
畑に大穴を開けまくった責任を感じても居るし。
「・・・魚なら森の小川で獲れるから、飼って増やせるものかどうかは分からないけど試すことは出来るね」
「森で魚が獲れるんですか!?」
「獲りに行きます!」
情報を与えてあげれば分かりやすく元気を取り戻す。
おっと。安易に森へ入って犠牲者続出なんてダメだよ?
「・・・以前よりは安全になったけど、それでも魔獣は出るから、森に入るつもりなら簡単に魔獣にヤラレないように鍛えた方が良いよ?」
「鍛えるんですか?」
農家さんたちが不思議そうな顔をする。
おや? 農家さんたちには領民強化計画が伝わっていない?
これって、ワナ猟に携わる人が増えない理由の一端なのかも。
広報不足の気配は感じ取っては居たけど、甘く見すぎてたかな。
説明は猟師さんたちに丸投げするか。
「・・・猟師さんたちに訊いてみると良いよ。そろそろ帰って来る時間だから、食肉加工場へ納品したら猟師さんたちの仕事は終わりだし、話を聞くように私から言われたと言えば聞かせてくれるから」
「訊いてみます!」
農家さんたちが元気に答える。
上手く引っ掛けてね、と心の中で猟師さんたちの健闘を祈る。
これで狩猟にも携わる人の数が増えれば猟師さんたちも助かるだろうし。
職業安定所みたいなことをしている自覚は有るけど、回り回って領内の安定に繋がれば私たちにも恩恵が有る。
「・・・あ。ほら、帰ってきたよ」
農家さんたちと話をしているうちに、予想通り北門にエターナさんの姿を見付けた。
まだ6の鐘も鳴っていないから、結構早いお帰りだったね。
昨日に引き続き、キョロキョロと周囲を見回して目敏く私の姿を見付けたエターナさんが、一目散に私の下へと馬を駆けさせてくる。
ほんと、牧羊犬みたいだな。
馬の脚を止めてヒラリと鞍から下りたエターナさんが、私の前に立って颯爽と王国式の敬礼をした。
「フィオレ様! ただいま帰還いたしました!」
「・・・お帰り。今日はどうだった?」
今日もつるつるツヤツヤのお肌だね。
調子は良さそうだけど訊いておく。
「万事、恙なく。と言いたいところですが、気絶者がそれなりに出ました」
「・・・アスクレーくんもかな?」
ハキハキと答えたエターナさんが途中で苦笑を浮かべてトーンダウンした。
アスクレーくんが気絶するぐらいは想定内だから気にしなくて良いのに。
覚醒したオタクの超絶行動力をアスクレーくんが発揮するなら、乗り越えてくるはずだし。
ジアンさんも付いて居ることだし、正直、私はアスクレーくんのことは、あんまり心配していなかった。
「意外と言っては申し訳ないのですが、アスクレー様はかなり頑張っておられましたよ」
「・・・あれ? そうなんだ」
この言い方だと、最終的には撃沈したけど予想以上に奮戦した、って感じかな。
早速、目標を見据えたオタクのド根性を発揮したのか。
意外とヤルな。アスクレーくん。
頑張ったのなら、後でヨシヨシしてあげよう。
「どちらかといえば、私たちの方が問題ですね」
「・・・エターナさんたち?」
エターナさんはピンピンしてるように見えるけど、エイラさんのことだろうか。
「正確には、旧エクラーダ騎士です」
「・・・というと、エウリさんたちかな?」
こっちの方が意外だな。
現役の騎士様というものは己の筋肉を鍛え抜いて、鋼の肉体を維持するのが仕事のようなものだからね。
当然のことながら根性は有るし、気絶した騎士様の話はあんまり聞いたことがない。
前に聞いたのって、強化計画が始まった初期ぐらいだろうか。
「エイラでも堪えて乗り越えたというのに、ティブライア卿もストローム卿もフォルティン卿も気絶しました」
嘆かわしい、とでも言いたげに、エターナさんが首を振る。
そう言えば、エターナさんは一度も気絶していないんだよね。
脳筋は手厳しいからなあ。
評価基準が自分だから、自分に出来ることを相手にも求めがちだしね。
イジメ抜かれた筋肉が服を着て歩いているような人たちだから、根性論に走りがちだし、事実、筋肉と根性で何とかしてしまう人たちだ。
「・・・そんなに心配はしなくて良いんじゃないかな」
「当然です。守るべき主よりも先に気絶するなど有ってはならないことですし、明日は乗り越えていただかないと」
エウリさんたちが明日も今日と同じだけの血を飲まされることは、エターナさんの中では確定事項らしい。
エターナさんも面倒見の良い人だから、今はプンスコとご立腹でも明日にはエウリさんたちが乗り越えられるように手助けするのだろう。
初めての出征④です。
魚水!?(飲用
次回、協力者!?




