初めての出征 ③
「王都に近いどこかで湖を作られたと聞いてるんですが、違いましたか?」
「・・・湖? ポドックさんのところのアレかな・・・?」
小さな草野球場ほどの大きさだったとは思うけど、湖なんてサイズじゃないよ?
あんなの「池」が精々じゃないかな。
藪蛇を警戒して口に出さなければスルー出来るんじゃないかと黙っていたら、農家さんたちの口から情報源が明らかにされた。
「そうです! ポドック領です!」
「行商人から噂を聞いていたんです!」
「・・・ああ、うん。それで? 穴ぼこのまま残すの?」
なるほどなあ。言い触らして広めてるのは行商人か。
販売職や営業職なんてものはお喋りが仕事だし、止めようがないんだろうな。
出来ることなら言い触らすのを止めさせたいけど、人の口に戸は立てられないと言うからね。
諦めの心境で先を促せば、農家さんたちから新たな情報がもたらされた。
「はい。少し様子を見ていたんですが、水量が思ったよりも多くて溢れ出そうなんですよ」
「・・・そうなの!? 大変じゃない!」
今度は町が水浸しになるの!?
早く地下水を止めないと!
いや。でも、昔、建設工事現場の職人さんが湧きだした地下水を止めるのは大変だと言ってた気がする!
湧水の止め方なんて私も知らないよ!?
「いえいえ。むしろ、溢れ出るほどの水量なら灌漑に使えるんじゃないかと」
「・・・灌漑って、農業用水だっけ?」
はぁ・・・。思ってもみないことを言い出したぞ?
私の問いに農家さんたちが揃って頷く。
「その通りです。ご存じの通り、王国は雨が少ない気候ですから乾燥に強い作物しか作れなかったんですが、水路を作って水を流せば広い範囲の農地を潤せます」
「・・・ははぁ。灌漑用水池かぁ」
その考えはなかったな。
小麦だって種を撒いてそのまま放置ってわけじゃないからね。
水稲に較べれば遙かに少ないはずだけど、水をあげなきゃ植物は育たない。
そういえば、畑の畝って、水はけを良くするためのものなんだっけ。
今までって、どうやって水をやってたんだろう?
魔法? いやいや。自前の体内保有魔力で広い畑に水を撒いて回るって、かなりの消耗が有るんじゃない?
そんなに体内保有魔力量が多いなら、領軍の魔法術師としてやっていけるはずだ。
畑と水の関係かぁ。
理屈は分かってると思うんだけど、狩猟民族に農業の知識は無いからなあ。
植物にとって水分は必要な物だけど、根っこからも呼吸するから、水が多すぎると根腐れを起こして植物は枯れるとどこかで読んだ気がする。
「それに、その・・・」
「・・・ん?」
何? その言いにくそうな様子は。
早く言えと視線に意志を籠めると、農家さんたちが顔を見合わせる。
数人の顔を見比べていると、「お前が言え」と無言で押し付け合っているように見える。
諦めたように息を吐いた年長者らしい農家のオジサンが私に向き直る。
「先ほどのフィオレ湖では魚が獲れて、よく儲かっていると聞きまして」
「・・・川魚? 儲かってるんだ」
地下で水脈がどこと繋がってるのか分からないけど、地下水と一緒に出てきた魚のことだよね?
王都への魚の出荷が成功したっぽい話は聞いた気がするなあ。
よく覚えていないってことは、他所様が儲けた金儲けの話だから私は聞き流したんだろう。
でも、農家さんたちは羨ましく思っていたってことかな?
「・・・灌漑用水に使うのと同時に魚を飼いたいってことで良いのかな?」
「お許しいただけるので有れば、ですが」
農家さんたちの真剣な目差しに考えさせられる。
巨大スライムに農地をヤラレたしなあ。
可能性が有るなら手を広げて研究してみたいという気持ちは理解できてしまう。
お肉を獲るために試行錯誤を重ねていた前世の私と同じ心境なのだろう。
でも、釘は刺しておかないとな。
物事っていうものは、始めるよりも維持することの方が大変ってものの方が多い。
そして、その試みが失敗したときに最終的な責任を負うのは領地を所有している領主だからね。
「・・・どのぐらいの範囲に水を流すのかにもよるけど、水っていうものは高いところから低いところへ流れるんだよ。例えば、100メテルの距離で10センチメテル低くても、理屈上は低い方へ流れる。少しでもゴミが溜まれば水は流れなくなるし、管理できる?」
ちょっとイジワルな言い方になったけど、持続性は大事な要件だからね。
台風で増水しているときに用水路を見に行ってお亡くなりになるご老体の外出理由の多くが、コレなんだよ。
「やって見せます!」
「少しでも収穫量が上がるなら、どんな努力も厭いません!」
ヤル気は十分、と。
水利権や漁業権が発生しそうだけど、封建主義的には権利も何も無いか。
権利というなら領主の権限の方が絶大だから、後付けの権利はどうとでも出来るだろう。
ルナリアの統治に悪影響が出ないなら、産業の発展による恩恵の方が大きいだろうし。
まあ、拙そうなら埋め立てちゃえば良いや。
「・・・そっか。具申はしてみるよ。ただ、ポドック領の場合は、たまたま地下水と一緒に魚が迷い込んできただけで、普通、地下水から魚は出て来ないからね?」
「そうですか・・・」
当たり前の指摘にも農家さんたちが肩を落とす。
初めての出征③です。
農家のバイタリティ!?
次回、ハローワーク!?




