未来 ㉖
死骸も排泄物も分泌物も生きている微生物さえも無駄になるものは無くて、別の生命を育む土壌となるもの。
その微生物も有機物もスライムは食い尽くすのか。規模感はミクロの世界になるけど、スライムってとんでもないクリーチャーなのかも。
農家さんたちの声が思考の淵に沈みそうになる私の意識を引き戻す。
「フィオレ様は城壁内の他の農地を守ってくださったんですよ!」
「幸いにも今は農閑期です! どこまで出来るかは分かりませんが、なぁに、土作りからもう一度始めますよ!」
「・・・みんな・・・」
ちょっとだけウルッと来た。
ダメになった畑に肩を落とすよりも、農家さんたちは未来に目を向けている。
そっか。だめにしちゃった未来も有ったけど、私の手で守れた未来も有ったのか。
だったら、私が下を向いてちゃダメだな。
私も負けないように背筋を伸ばす。
私たちのやり取りを見守っていたお母様が農家さんたちに目を向ける。
「お前たち。フィオレが城壁外を大規模に開墾しようとしていることは聞いたのだな?」
「はい! お伺いしました!」
農家さんの返事に頷きながら、お母様が私の頭をぐりぐりする。
「フィオレは新たな作物の導入も計画していてな」
「新たな作物ですか」
農家さんたちの目が興味に光り、私をぐりぐりしながらお母様がニヤリと口角を引き上げる。
「カネになりそうな作物が有るらしいぞ。お前たちも忙しくなるから覚悟しておけ」
「ほほぅ。カネに?」
ウォーレス領において他の追随を許さない絶大な信頼と実績を誇るお母様の宣言だ。
農家さんたちも期待しないわけが無い。
「ありがとうございます!」
「儂らも全力で働かせていただきます!」
明るい声で沸く農家さんたちの姿にお母様も目を細める。
上手いなあ。
完全にヤル気になった農家さんたちのことだ、きっと全力で開墾に精を出してくれるのだろう。
さっと場をまとめ上げたお母様が私の背中をポンと押す。
「ほら。お前はアレを町の外へ放り出してこい」
「・・・はーい」
返事を返して、改めて“獰猛くん”を見上げる。
何百トン有るか分からないアレを城壁の外まで出すのかあ・・・。
どうやって出そうかな。
「どうするの?」
「・・・うーん。歩かせるしかないんだろうなあ」
ルナリアの問いにはそう答えたけど、もうちょっと楽に制御できないかな?
正直、敵が居なくなって気が抜けちゃってる部分が有るから、さっきまでの制御をもう一度やれと言われても気が進まない。
視点の問題も有って、ほとんど移動せずに戦わせていたから中途半端な高さの第三者視点でも何とかなっていたけど、地上から見上げて制御するのは難易度が高くなると体感的に確信している。
第三者視点で動かすのなら、ゲームのプレイ動画みたいに高い位置の方が把握しやすいと思うんだよね。
安定的に私の体を固定して上空へ持ち上げるのに、必要な「足」は最低4本。
もっと安定させるなら6本は欲しい。
“獰猛くん”の内側へ潜り込ませて手足を動かすのにも、手足の数と同じ4本は欲しいな。
これで10本の魔力の手を全て使ってしまうことになるし、フル稼働させるとなると個々の制御が甘くなるから、出来れば外側から支えて転倒を防ぐのに何本か「手」が欲しいんだけどなあ。
あれ? 体感で触手の数を数えてみたら、2本余ってる?
もう一度確認してみても12本有る。
「・・・増えてる」
「何が?」
「・・・魔力の手」
ルナリアに答えながら首を捻る。
いつ増えたんだろう?
「また増えたの?」
私の答えを耳にしたルナリアが眉根を寄せた。
嫌そうな顔をしないでくれるかな。
私も増やそうと思って増やしたわけじゃないんだし。
「・・・あっ、アレか! 意識していなかったけど、体内保有魔力から魔石の魔力に切り替えたときに、何も考えずに魔石経由で”手”を出した気がする」
「そんなので増えるの?」
怪訝な表情でルナリアが首を傾げる。
「・・・さあ? せっかく増えたんだし、増えて困るものでも無いんだから、有効活用すれば良いじゃん」
「ま。フィオレがそれで良いなら、良いんじゃない?」
むむっ。やっぱりルナリアはたくさん生やすことに否定的みたいだね。便利なのに。
まあ良いや。そんなことよりも、今は“獰猛くん”だ。
魔力の手が増えたからといって私の魔力制御能力が引き上がるわけじゃないし。
むしろ難易度は上がってるよね?
ここは、いかに少ない本数の「手」で与えられたミッションを達成するかを考えるべきじゃないかな。
未来㉖です。
守れた未来!
次回、フェードイン!?




