未来 ㉕
フルメンバーのエゼリアさんたち側近だけでなく、役に立たなかったドネルクさんまで引き連れている。
まさか、証拠隠滅の前にお説教のための現物を押さえに来た!?
どことなく酸っぱい顔で”獰猛くん”を見上げたお母様が、処置無しとばかりに首を振る。
「焼き固められた土なんてものは農地には戻せんし、使うことのない荒れ地ででも壊すしかなかろうよ」
「・・・ああ~。そっかぁ」
言われてみれば、その通りだね。
良かった。叫弾するためにお説教案件の物的証拠を押さえようとしているのでは無さそうだ。
焼成された土は岩石や砕石みたいなもので、“死んでる”どころか堆肥を施しても健康的な土に戻るとは思えない。
私の疑念を地平線の向こうまで蹴り飛ばしてしまうように、お母様はシッシと手首を振る。
「取りあえず、その邪魔になる馬鹿デカいゴーレムを城壁の外へ出してこい。見物に人が集まっては後始末も出来ん」
「・・・後始末?」
“獰猛くん”勘当!?
「ウチでは飼えないから捨ててきなさい」みたいな言い方をされると、証拠隠滅するつもりだったのに壊すのが惜しくなってくるなあ、などと考えつつも、畑の方へ向けられたお母様の視線に釣られて私も目を向けると、視界の外からガシッと顎を鷲掴みにされた。
「・・・もがっ!?」
「飲め。火傷で顔が真っ赤になってるだろうが」
硬いものを口に突っ込まれたと思えば、鼻の奥まで突き抜けてくる強烈に青臭くて苦エグい液体が喉の奥を伝い落ちる。
「・・・うぐっ! か、回復薬・・・!?」
こ、この人間が飲んでいいものだとは考えられない記憶に刻み込まれた味は、アレに間違いない!
顔に感じていた火照りがスゥッと引いていく。
口の中へとリバースしてきそうな液体を何とか嚥下して胃へと送り返せば、片眉を上げただけでお母様は次の犠牲者へと目を移す。
「ルナリア。お前もだ」
「ううっ。はぁ~い・・・」
ご丁寧に小瓶の栓まで抜いて差し出された回復薬を、絶望的な表情を浮かべたルナリアが受け取る。
よくよく見てみれば、遠赤外線の直撃を受けていなかったルナリアの顔も、日焼けしすぎたように赤くなっていた。
意を決したルナリアが小瓶を煽れば、ルナリアの肌に貼り付いていた火照りの色がスゥッと引く。
「うああ・・・。不味い」
可愛い顔を顰めて、ルナリアが緑色に染まった舌を出す。
なるほど。私もあんな風に肌の色が冷めたんだな、と回復薬の効果のほどを再確認した。
「まったく。城壁内への巨大な魔獣の出現という特異な状況や緊急性は分からんではないが、穴だらけにしおって」
「・・・あうぅ」
溜息雑じりに言ったお母様の目がジロリと私に向けられた。
言われてみれば、埋め戻した城壁跡の辺りだけでなく、農家さんたちが大切に耕してきた畑までメチャクチャに荒らして巨大な手形をいくつも付けてしまっている。
これでは畑を荒らしたのが私なのか巨大スライムなのか分かったものじゃない。
冷静で居られなかった自分の愚かさを突き付けられたようで肩を落とす。
「まあ良い。とにかく、お前たちが無事で良かった」
「「・・・・・・・・・・」」
ルナリアと2人、ダブルでぐりぐりされる。
あれ? 褒めて貰ってる?
てっきり叱られると思ってたのに、なにゆえ?
私が抱いた疑問は答えの方からやってきた。
「フィオレ様!」
「ルナリア様もご無事ですか!?」
ぞろぞろと駆け寄ってきたのは、事件の最初期から全てを目撃していた農家さんたちだった。
口々に掛けられる心配の言葉にルナリアが反り返る。
「ええ! わたしたちは無事よ!」
「・・・ごめんなさい。畑をメチャクチャにしちゃった」
私が冷静さを失ったせいで起こした最悪の結果に頭を下げる。
被害を被った農家さんたちの前でふんぞり返っちゃダメでしょ、と思わなくもないけど、まあ、ルナリアは私の背中に乗っかっていただけだしね。
この場で起こったことは私の責任だ。
被害を自覚してしまっただけに、私にはルナリアのように胸を張って農家さんたちと顔を合わせることが出来なかった。
ところが農家さんたちは明るい顔で揃って首を振る。
「何を仰いますか! スライムにヤラレた時点で育てた土は死んでいましたよ!」
「そうですよ! あんなに巨大なスライムが出たら、いくら土を耕しても作物は作れなくなります!」
農家さんたちの言葉にギョッとした。
ええっ!?
私が穴ぼこだらけにする前から土がダメになってた!?
あのスライムめ!
苗どころか土壌ごと食い尽くしてたの!?
そう言えば、たった1グラムの土壌の中に数億匹の微生物が棲息してる、なんて学術研究結果が有るんだっけ?
有機物を大量に含んだ土壌なんてものは全宇宙を探しても極めて希だとか、そんな記事も読んだ記憶が有るな。
有機物とは、そのものズバリ、生命の痕跡だったはずだ。
未来㉕です。
意外な生態!?
次回、クリーチャー!?




