未来 ⑲
「・・・普通、スライムってどうやって殺すの?」
「ええ? 知らないわよ」
異世界ネイティブのくせに、眉根を寄せたルナリアが首を傾げる。
「・・・何で知らないの?」
「だって、追い払っちゃえば、普通、害は無いもの」
「・・・むむむむむむ」
益獣だものね。
殺すという発想が無かったのも仕方ないか。
でも、魔石を怖れないこのサイズが何度も攻めてくる可能性を思えば、ここで殺しておかないと農地開拓なんて出来なくなる。
馬糞の回収を止めれば来なくなるのかも知れないけど、さらに成長して馬糞を食い尽くしたら、農地がターゲットになるのは火を見るよりも明らかだ。
「火術式で焼き殺す、とかは?」
「・・・それ行ってみよう」
地中を移動するスライムを上空から追尾しながら魔力の手を伸ばして捕まえ・・・。
捕まえ・・・。捕・・・。
捕まえられない!?
「・・・この! このこのこの! 逃げんな!!」
「どうしたの!?」
魔力の手が見えていないルナリアには状況が分からないからね。
「・・・避けられて捕まえられない!!」
「ええっ!?」
掴んだと確信しても、「指」の隙間からニュルッと抜けられるんだよ!
粘液でヌメヌメしたウナギの掴み捕りというか、生卵の白味にニョロンと入ってる白いヒモ状のアレがお箸で捕まえられないときみたいな感じ?
摩擦係数が低くてグリップしないんだろうか?
何か、こういうの有ったよね。
何だっけ・・・。凍った路面を滑るタイヤみたいな状態か。
だったら、スタッドレスタイヤみたいに抵抗を増やせばどうだろう?
あれって、細かい襞みたいな溝と突起の組み合わせで排水能力と抵抗を増やしてるんじゃなかったかな。
ガソリンスタンドに置いてあったチラシの説明書きをチラ見しただけだから、よく覚えてないや。
魔力の手の表面をキザギザごつごつ凸凹にして掴んでみる。
「・・・掴めた!! ・・・掴めたけど、抜けない!?」
何だこれ!?
上手く掴んだスライムを地上へ引っこ抜いてやろうとするのに、もの凄い抵抗が有るというか、ネオジム磁石が金属に貼り付いたみたいにスライムが地面に引っ付いて剥がれない!
「・・・あっ! 逃げる!」
私が手こずっている間に、スライムが「指」の隙間からニュニュニュっと抜け出ようとしている!
こ、これ、どどどどうすれば良いの!?
「・・・ハッ!!」
閃くように私の脳裏に思い浮かんだのは、イディアさんが土魔法で周りの土を吸収して土台を整形していた光景。
急いでポケットに手を伸ばして、モコモコ作業に使っていた2つの魔石を取り出す。
魔石を握った両手から新たな魔力の手を生み出して、眼下の地中へと突き刺した。
「・・・ええいっ!! これでどうだあああああああああっ!!」
自分の体なら多少はマシにイメージ出来る!
「手」の形にギュッと土を集めて固め、地面ごとスライムを持ち上げる!
「ええええっ!?」
ルナリアの驚嘆を背景に土ごとスライムを掴んだ魔力の手は、手の形に土を吸収して大地から立ち上がる!
魔力の手に実態をイメージした空間定義を与えれば、周囲の土を詰め込まれた魔力の手は実体を得るはず!
突き上げるように巨大スライムを掴んだその腕の大きさ、実に10メートル以上!
私がイメージしていた私の腕そのものの形状だから、私の右腕を模したものだ!
土を吸い込んで肥大化した「腕」は、モリモリと肥え太ってマッチョになっていく!
「・・・ヨォ―――シ!! 捕まえた!!」
と、喜んだものの、上空にまで持ち上げられたスライムは地面に繋がっていて未だ全景を露わにしていない。
2倍ほどの高さにまでズモモモモと腕を伸ばす。
それでもスライムの端っこは大地との絆を断たれてはいない。
「・・・デカっ!?」
どんだけデカいんだよ! まさに巨大スライムだ!
こんなのが地中に居たの!?
「抜け出しそうよ!!」
ルナリアが指す先を見れば、スタッドレスの襞から排水されるようにニュルルルっと漏れ出してきた巨大スライムが、うねる波のように巨体をくねらせて地面に逃げ込もうとしている!
「・・・甘いわあああああああああっ!!」
ズドン!! と地面から生えてきた左腕が、右腕から抜け出した巨大スライムを再び掴み上げる!
掴んだ左腕の先へと巨大スライムが逃げ出そうとして、移動させた右腕でさらに掴み直す!
「・・・あっ! この! この! この!!」
掴んでは巨大スライムが抜け出そうとし、再び腕が巨大スライムを掴み取る!
丸っきりウナギの掴み捕りだ!
「もっと高くまで上げられないの!?」
「・・・くぬぬぬぬ! 分かった!!」
無茶振りだと思うけど、キリが無いと考えたらしいルナリアのご要望にお応えして、イメージの余力を総動員する!
未来⑲です。
巨椀、現る!?
次回、あの人、参戦!?




