未来 ⑯
乙女だねえ。
昨夜、叔母様と呼ばれて、すごい顔でショックを受けていた人と同じ人とは思えない反応だ。
そこで、ふと視界の端で動いているものに気付く。
「・・・あ。イディアさん?」
3~400メートルは離れていると思うけど、たぶん見間違いじゃないはずだ。
随分と離れた場所の畑でイディアさんが大きく手を振っていて、レヴィアさんたちらしきメイド服姿もイディアさんの傍に有る。
そして、イディアさんたちの周りには、しゃがみ込んでいる農家さんたちの姿も点々と有る。
「本当ね。・・・なんか、呼んでない?」
「・・・そうかも。何か有ったのかな」
誰を呼んでいるのか正確には分からないけど、農家さんたちと一緒に居るってことは、私たちを呼んでいる可能性が高いよね。
農業関連ならディディエさんたちを呼んでいる可能性も高いかな。
昨日、担当者に任命したばかりだし連れていこう。
ディディエさんたちに声を掛けようと振り返ったところへ、遠くから甲高い笛の音が聞こえた。
「「「「「―――ッ!!」」」」」
ピッピ―――ッ、ピッピ―――ッ! と響いた音に、アンリカさんたちとピーシーズが一斉にイディアさんたちの方向へ顔を向けた。
今の今まで巫山戯ていた痕跡が一瞬で消えて、ピシッと引き締まった戦士の顔になっている。
「警戒信号!?」
私には何の符丁か分からなかったけど、これが“警戒”を知らせる合図か。
反射的に魔力の手を全力で発動する。
何らかの緊急事態が発生したのなら、早急に状況を把握するのは私の務めだ。
判断は素早く的確に。
状況が分からないことには判断も指示も出来やしない。
幸いなことに、ここは戦場じゃない。
だったら、自分で確かめに行った方が早い。
「・・・ちょっと行ってくる!」
「私も行くわ!」
「・・・おおっと!」
魔力の「足」で離陸しようとした私の背中にルナリアがドーンと飛び乗ってきた。
驚いたけど何度もやったことだから慣れたものだ。
一瞬でルナリアのお尻を固定して、スクランブル発進でテイクオフする。
20メートルほどまで高度を上げて「足」を動かす。
「ちょっ! フィオレ様!? ルナリア様!?」
「馬を回して!!」
アンリカさんたちとピーシーズが慌てる声が後ろで聞こえるけど、気にせず突き進む。
いくらも進まない内に、眼下を流れて行く畑の様子がおかしいことに気付いた。
「・・・あれ? 苗が無い?」
「フィオレ!! アレ!!」
焦りを含んだルナリアの声に畑から目を上げると、視界の端にルナリアの腕が映り込む。
ルナリアが指しているのは9時の方向、斜め下。
少し離れた地上の畑で何かに陽の光が反射した。
目を凝らしてみれば、畑の表面に何かが広がっている。
水のように透き通っているけど水とは違う、見覚えの有る光沢。
うぞぞぞぞ、と地表を舐めるように蠢く姿は、慰霊碑前で目にしたアレと同じだ。
「・・・えっ!? スライム!?」
「なんで畑に!? って、アレ大きくない!?」
ルナリアが言う通り、めっちゃデカい。
畑の真ん中に出来た水溜まりみたいにベタッと貼り付いていて、歪な楕円形だけど長辺の直径で10メートル以上。
いや。もっと大きい。
何であんなものが!?
あの畑は元々城壁の外に有ったもので、当然ながらスライム避けの魔石が埋められているはず。
それなのにスライムが居るってことは―――。
「・・・スライム避けが効いてない?」
「これ、どういうこと!?」
「・・・まだ分かんない!」
ルナリアが悲鳴のような叫び声を上げるけど、一旦、お預けだ。
誰かに衝突するのを避けられるように、地上の人影から少し離れた場所へと高度を下げてフワリとタッチダウンする。
「・・・イディアさん!」
「フィオレ様! スライムの食害です!」
無事に地上へ帰還してルナリアをパージしたところへ、目元を鋭くしたイディアさんたちが駆け寄ってくる。
駆け寄ってくるのは血相を変えた農家さんたちもだ。
みんな無事そうだね。
少なくとも人的被害が出て居なさそうなことに胸を撫で下ろす。
「この辺りの畑は全滅です!」
「このままでは城壁内の他の農地も軒並みヤラれ兼ねません!」
口々に報告を上げるレヴィアさんとマーシュさんの表情も厳しい。
3人は異変を察知して偵察に来たっぽいね。
「・・・スライムなら、あっちで見たよ!」
「すごく大きかったわ!」
私が目撃地点の方向を指すと、「こーんなに!」と、ルナリアは両腕を大きく広げてスライムの大きさを伝えようとする。
私たちの目撃情報に、イディアさんが深刻そうに眉根を寄せる。
「スライム避けが効かないほど大きな個体ですか・・・」
「・・・やっぱり大きさが関係するんだ?」
イディアさんも私と同じことを考えたみたいだね。
スライムは自分よりも強い魔獣を怖れるから、っていうのがスライム畑のロジックだったはず。
未来⑯です。
巨大スライム襲来!?
次回、謎!?




