未来 ⑬
「では、行きましょうか」
「あれ? エゼリアさんたちも行くの?」
そう言えば、今朝のエゼリアさんたちはお母様と同じような乗馬服を着ているんだった。
つまりこれは、活動的に動くという宣言のようなものだ。
「お復習いですよ。土術式なんて久しく自分では使っていませんでしたから」
「エレーナとノイエラが居ると私たちの出番が有りませんからね」
エゼリアさんたちが揃って苦笑する。
理解を表情に表したルナリアがポンと手を打った。
「あの2人は土術式が得意だものね!」
「・・・ああ。分かる気がする」
私も頷く。
さらに言えばイディアさんも居る。
エレーナさんとノイエラさんも土魔法だけが得意なわけじゃないし、エレーナさんなんてお母様並みに魔法全般が得意なんだけど、そういう上手くて仕事が早い人が傍に居ると任せて頼っちゃうものだからね。
その結果、「組織の仕事量は2割のデキる人に集中する」んだとか。
ネット掲示板の書き込みだし、情報ソースも怪しかったから、どこまで本当のことなのか分かんないけどね。
比率の精度は怪しいのものだけど、体感的に「一部のデキる人に仕事量が集中する」という結論自体は間違ってはいない気がする。
なお、目立つことを忌避していた前世の私は間違いなく8割側だった。
侍女を引き連れたエゼリアさんたちが先に立って厩舎へ向かう。
あ。そうだ。
歩きながら後ろを振り返って手招きする。
「・・・ミセラさんミセラさん」
「どうかされましたか?」
ピーシーズの後ろに付いていたミセラさんを呼び寄せると、私の隣まで追い付いてきて耳を寄せてくる。
「・・・アルナさんとウェンディさんって、強化しなくて良いの?」
「参加させるつもりでは有ったんですが、予定よりも早く任務に就けることになりましたからね。どうしたものかと」
ははぁ。ミセラさんとしても下準備の計画が狂ったのか。
戦争中の新技術投入と似た状況だな。
完成を待っている時間的な余裕が無いから実戦投入を急いで、実戦を戦いながら技術を完成させろってヤツだ。
「・・・優先事項の問題かぁ」
トップダウンで実戦投入のタイミングが早まるなんてよく有ることだけど、実務稼働と平行してアップデートを行うには、環境を整えてあげないと、本来のスペックを発揮できなくて中途半端に終わってしまう恐れも有る。
これはどうにかしないとな。
「フィオレ様。また何か企んでます?」
ミセラさんのジト目にクスリと笑う。
警戒されてるなあ。
円滑に物事が動くようにと、いつもミセラさんたちが裏でサポートしてくれていることは私もよく分かっている。
「・・・企んでないよ。ただ、エゼリアさんたちって、近い内に子供を生むことになるんだよね?」
「そりゃあ、それが前提の婚姻ですから」
当たり前の質問に、当たり前の答えが返ってくる。
「・・・だったら、アルナさんとウェンディさんには治癒魔法を習得して行って欲しいんだよ」
「ああ。確かに。産後の回復には治癒魔法術師が居てくれると安心ですね」
納得を見せるミセラさんに、もう一手、背中を押す。
「・・・強力な手札を持っていれば、アルナさんたちも動きやすくなるんじゃない?」
「それは・・・、一理ありますね」
思案顔になったミセラさんが、数瞬の逡巡の後、頷いた。
無理に大義名分をでっち上げて帳尻を合わせに掛かるよりも、必要性を見出せば大義名分は付いてくるものだろう。
誰よりも先んじて重宝される手札を持っていることで信頼と信用を得られれば、向こうの中枢にガッチリと食い込める。
余計な仕事も増えるだろうけど活動の自由が広がる。
間諜という立場にとって、活動の自由は本来の任務の助けになるはずじゃない?
私はその手札をアルナさんたちに与えてあげることが出来る。
だったら、やらない理由は無いよね。
ついでにエゼリアさんたちも治癒魔法を覚えてくれれば、アルナさんたちと互いに助け合って生存率を引き上げることが出来るはず。
「・・・今すぐには私も手が空かないけど、ナーガ川上流への遠征が終わった後には時間を作るから、それまでにアルナさんたちの体内保有魔力量を増やしておいてくれないかな」
第2次治癒魔法教室だ。
セリーナお婆様の目的にもミセラさんの目的にも私の目的にも合致する提案に、ミセラさんは深く頷いた。
「フィオレ様。ありがとうございます。奥方様に具申します」
「・・・お願い」
ニコリと笑って頭を下げたミセラさんが、歩く速度を落としてスススと後ろに下がっていく。
たぶん、すぐにでもセリーナお婆様の承諾を貰いに行くのだろうね。
病気の治療は、まだどうすれば治せるのか私もイメージ出来ていないけど、回復薬では間に合わない大きな怪我の治療と毒素の除去が出来るだけでも生存率は格段に引き上がる。
特に女性は産後の肥立ちが悪くて体を壊すところから病死に繋がることが多いらしいんだよね。
ルナリアのお母さんであるレオノーラ様がそのパターンだ。
産後の女性って体内の奥深い場所に大怪我を負っているようなものじゃない?
出産経験がないどころか概念的に綺麗な体のまま熊に食われた私には、実際がどうなのかは分かんないけどさ。
「産後の肥立ち」とは体内の大怪我を自然治癒に任せる状態なのだろう。
自然治癒とは、時間経過で言えば下り方面だ。
じゃあ、上り方面へ遡ればどうなるの?
そう言った意味で、治癒魔法に私が期待するところは大きい。
さあ。また仕事が増えちゃったし忙しくなるぞ。
効率的に治癒魔法を覚えるための小道具も作らないとな。
未来⑬です。
小道具!?
次回、風評被害!?




