未来 ⑩
言われてみれば、王都邸のメイドさんの中にアルナさんと顔立ちの似た人が居た気がするね。
ミリア叔母様と協力して王妃様を補佐する予定のエゼリアさんに付けられた侍女さんは、王都邸に実のお姉さんが勤務していると。
それって、ロス家が全面的にバックアップすると言わんばかりだよね。
元々、カレリーヌ様はドネルクさんの補佐をさせるためにエゼリアさんたちを求めたんだったはず。
ドネルクさんが冒険者ギルドの管理責任者になるんだから、色々と能力値の高いエゼリアさんも間違いなく冒険者ギルドに関わることになるのだろう。
王城の外にウォーレス家の王都邸が有って、ドネルクさんルートとは別にエゼリアさんも王城にアクセスする独自のルートを維持するわけだ。
王宮で暗躍しているミリア叔母様が2人に増える、みたいな感じか。
しかも、王妃様の親友であるお母様の側近だったエゼリアさんたちは王妃様とベッタリの関係。
テレサともエゼリアさんたちは仲が良いし。
間違いなく王城内のパワーバランスは”保守派”に―――、というか、王家に傾くよね。
そこで気付く。
ここまではカレリーヌ様が思い描いたビジョンだろう。
でも、セリーナお婆様が打った「侍女」という一手によって、もっと深い部分では様相が変わってくるんじゃ。
セリーナお婆様は「上手く使え」とエゼリアさんたちに言った。
カレリーヌ様が媒介する嫁入りでウォーレス領から引き剥がされたはずのエゼリアさんたちは、プライバシーを担う侍女という水面下のパイプでウォーレス家との繋がりを保ち続ける。
セリーナお婆様は、エゼリアさんたちという”妹”をお母様から取り上げるつもりが無いんだ。
南部国境に貼り付いていて表舞台に出て来ていないはずのウォーレス家が伸ばした根は、目に見えない地中から着実に王都の中枢を絡め取っていく。
表と裏の両面で南部から伸ばされた根は、お母様を中心にした奥様独自ネットワークで東部の中枢や北部の中枢とも強固に繋がっている。
それって、王国の中枢は王都に見えて、実態はウォーレス領が王国の中枢ってことなんじゃ?
背筋にブルッと来た。
こ、怖え・・・。
人事ひとつで、叔母様であり師匠でもあるカレリーヌ様の、さらに一枚上手を行くの?
こっちを見ていなかったはずなのに、セリーナお婆様が私にチラッと目を向けて口角を引き上げた。
今の、”学べ”って意味だよね?
これが社交を武器にした女の戦い方。
表舞台から退いて長年の時を経ても影響力を失わない”女帝”の一撃。
これから東部の中枢になるはずのアンリカさんはアンリカさんで、侍女になったメイドさんの顔をまじまじと見て首を傾げている。
「ティレン家、ね。ウェンディ。貴女、ゾランさんのところの子よね?」
「はい。長女にございます」
ほほぅ。こっちもお父さんと面識有りか。
アンリカさんの確認にゾランさんちのウェンディさんが緊張気味に頷く。
「大きくなったわね。昔、会ったこと有るの、覚えてる?」
「はいっ。覚えていてくださいましたか」
ニッと笑ったアンリカさんに、ウェンディさんがパァッと表情を輝かせる。
おっと。こっちはお父さんだけじゃなく本人とも面識が有ったんだね。
「そりゃあ覚えてるわよ。昔、アリアナに泣かされてたものね」
「あうぅ・・・」
ウェンディさんが恥ずかしそうに小さくなる。
どう見ても、アリアナさんよりもウェンディさんの方が年上だよね?
お姉さんのウェンディさんは、自分よりも小さな、子供の頃のアリアナさんに泣かされていたと。
何となく想像できちゃった。
アリアナさんって子供の頃からぜんぜん変わってないんだな。
「ごめんねー? あの子、生まれたときから頭の中まで筋肉だから」
「いいえ! アリアナさんも王女殿下の護衛騎士だなんて凄いです!」
アッハッハと朗らかに笑うアンリカさんに、ウェンディさんは首を振る。
「それはフィオレ様のお陰で―――」
むっ。アリアナさんは実力でカレリーヌ様に認めて貰ったんだよ。
いくらアンリカさんでも、それ以上は言わせないからね。
とはいえ、慶事なのに波風を立てたくはないから、否定するのではなく話の焦点をズラしてしまえ。
「・・・そこ! もう、“様”は無しで!」
「ええ?」
突然、私が割って入ったことで、目を丸くしたアンリカさんが私を返り見て首を傾げた。
「・・・エゼリア叔母様にアンリカ叔母様、だよね?」
「「うっ!」」
私の再確認に2人が揃って仰け反った。
爵位も上位な叔母様たちが姪を“様”付けで呼ぶなんて、おかしいじゃん。
そんなこと言うまでもないだろうし、ハインズお爺様とセリーナお婆様の養女になった時点で分かっていたはずなのに、2人は私に対する“様”付けを止めなかった。
その理由は何なのか?
一応、私はお母様の養女だから、という理由は有ったのだろう。
でも、そんなものは屁理屈に過ぎないと私は看破している。
お母様は春生まれで2人は夏生まれと秋生まれらしくて、お母様と同い年なんだよね。
ということは、2人とも28歳なんだけど、結婚しないと決めていてルナリアを我が子のように可愛がっていたお母様と違って、2人は結婚願望を捨てていない未婚女性だったわけだ。
一般的に考えて、エゼリアさんもアンリカさんも“オバサン”と呼ばれることを怖れていたのだろう。
女のプライドというか、捨てきれない乙女心ってヤツだよね?
サッサとオバサンになれれば、なんて考えていた過去の私からすればショックを受ける必要なんて無いんだけど、一般的な感性では、そうも行かないことを私も知っている。
センシティブでクリティカルな辺りを直撃する指摘に、素直で根が真面目なルナリアも状況を理解した。
「そうよね! お父様の義妹なんだから叔母様よね!」
「「叔母様かぁ・・・」」
ルナリアにまで言われてしまって、現実を突き付けられた2人が絶望的な表情になる。
ふぉっふぉっふぉ。諸行無常じゃよ。
時は移ろい留まることがない。
若さなどと言うものは夢幻のごとくなりけるに?
”色”、是、即ち、“空”ナリィ!
年齢などというものに縛られることなど無いんじゃよ?
些事じゃよ。些事。
28歳でも30歳でも40歳でもエゼリアさんはエゼリアさんだし、アンリカさんはアンリカさんだからね。
在るがままに在ってくれれば、それで良いんだよ。
ナムナム。
ルナリアも私も、普段から「言葉遣いはちゃんとなさい」と口酸っぱく言われているし、正義は私たちに有る。
お婆様たちから叱られることに較べれば、乙女心なんてものも些事だからね。慈悲は無い。
結婚願望を捨ててルナリアたちの“叔母様”呼びを早々に受け入れていたお母様が、ヒラヒラと手首を振ってトドメを刺しに行った。
「慣れろ。事実だろうが」
「「はーい・・・」」
テンションを低くしたエゼリアさんたちが揃って肩を落とした。
兵どもが夢の跡。
事実・現実とは残酷なものなんだよ。
ていうか、2人とも玉の輿で人生勝ち組なんだから、そんなことで落ち込んでいたら罰が当たるよ?
「おう。皆、揃っておるな」
お風呂上がりのお爺様たちが食堂へ入ってきたことで乙女心は有耶無耶になった。
夢破れしエゼリア叔母様たちも一緒の賑やかな晩餐を過ごした私は、食事を終えてベッドに入ると一瞬で意識を失った。
未来⑩です。
フィオレ和尚!?
次回、問題発覚!?




