開眼 ⑳
「今は難民の収容に領軍の人手を取られておる。暫く人員は出せんぞ」
「・・・大きな術式を使わなければ魔獣が集まらないので有れば、人員が新人さんたちでも変わらないと思うのですが」
私が首を傾げると、マルキオお爺様は首を振る。
「その通りでは有るが問題は心胆だ。戦場に慣れて居らぬ者は些細なことで恐慌に陥る」
ああ。それは有るよね。
私が王都での襲撃事件でやらかしたのが、それだ。
でも、王都のときの私とジアンさんに鍛えられた新人さんたちでは、多少は違うんじゃないかな。
「・・・昨日確かめて、新人さんたちも、そこまで柔では無さそうだと思ったんですよね。ジアンさんがしっかりと鍛えてくれて、ジアンさんの教えが身に付いていると感じました。後は、仲間と団結して困難を乗り越えた実感と自信が有れば、もう一段階上へ成長してくれるのではないかと」
脳裏に思い浮かぶのは、不平を零すこともなく黙々と仲間を背負って歩いていた新人さんたちの姿だ。
数多の獲物を獲ってきた私は野生動物の危険を骨身に沁みて知っているけど、過度に怖れることは無かった。
お母様もよく「慣れだ」と言っていたし、その通りだと私も同意する。
安全を確保できる機会が有るならその機会を活かせば良いけど、リスクが無い機会なんて滅多に無いだろう。
どんな機会が考えられるか、パッと思い付かないぐらいだし。
それはリスクを取ってでも乗り越えるべき場面が人生には有るということだ。
むしろ、リスクを取らないと、簡単には慣れることが出来ないんじゃないかな。
でも、日本で生きていた頃の私のように1人でリスクを乗り越えるわけじゃない。
あの新人さんたちなら、きっとみんなで協力して乗り越えるだろうと信じられる。
「ふむ・・・。もう一段階上か」
「ジアンよ。どう考える?」
数秒間、考える様子を見せたお爺様たちの視線を、同じように考える様子を見せていたジアンさんが受け止める。
「敵を舐めて掛かる愚か者は論外ですが、困難が団結を学ばせるとするフィオレ様のお考えは間違っていないかと。自信は結果に過ぎませんが、また増長しても困りますから定期的に鼻をへし折ってやれば問題ないでしょう」
おおぅ・・・。自信を持っても、「調子に乗んな」とへし折られるのか。
綺麗な笑みで言い放つジアンさんの強者オーラがすごいことになってるよ。
「力量としては、どの程度に仕上がっている?」
「雑兵同士の1対1では、それなりに。集団戦は相互の連携がまだまだですね」
マルキオお爺様の確認にジアンさんが即答する。
お母様と同じく天才肌の気配を漂わせているジアンさんに「それなり」と評価して貰えるって、結構強いってことなんじゃ?
「集団戦を覚えさせるには悪く無さそうだな。指示通りに動けるので有れば、だが」
「そこは念入りに叩き直しておきましたので」
ハインズお爺様が付けた注釈にジアンさんがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
あー。やっぱりなあ。
統制の面では見違えるようになってたからね。さすがだわ。
ジアンさんが見せた自信にマルキオお爺様の判断が覆りそうな気配を見せる。
「事前に魔獣の接近が探知できていれば、問題無さそうか?」
「私たちも同行する。エゼリアとアンリカが対魔獣戦に馴染んでおきたいと言っていてな。ガルダとの戦闘は、あちらに行っても経験が役に立つだろう」
お母様の参戦表明にハインズお爺様が頷く。
「あの2人に必要な経験では有るな」
「・・・ガルダとの戦闘経験?」
「あちら」って嫁入り先のことだよね?
ガルダはナーガ川以南の森が棲息域で北岸に渡って来るのも珍しかったはずだけど、何で嫁入り先で役に立つんだろう?
飛ぶから、ってこと?
ワイバーンって北部の森に居る魔獣で、東部にまで下りてくるとは教わった覚えがない。
私が意味を理解していないと気付いたお母様が補足情報をくれる。
「リヒテルダート領はワイバーンだが、クローゼリス領にはグリフィンが南下してくることが有る」
「・・・はー。クローゼリス領もなのか」
グリフィン―――、“獅子鷲”と呼ばれる魔獣は地球の伝承に出てくる魔物そっくりな姿らしくて、大きな鷲が四つ足動物になったような生物だったはず。
ちなみに、ワイバーンは長く発達した前脚の手首から腰まで脇の下に皮膜が張った体の構造らしいよ。
コウモリの親玉と爬虫類の相の子みたいな感じなんだろうけど、”四つ足動物”では有るんじゃないかな。
トビトカゲから進化したのがワイバーンと考えられなくもないし。
地球に居なかった生物なのは、グリフィンの方だ。
どういう体の構造なのか、四つ足にプラスして鳥類のような翼を持っているということは”六つ足”の生物ということにならないだろうか?
解剖して骨格と筋肉の付き方を確かめてみたい謎のファンタジー生物なんだけど、グリフィンが特殊なのかと言えば、もう一種、”六つ足”生物が存在する。
四つ足にプラスして翼を持つという”龍種”だよ。
進化の過程がどうなっているのか考察してみたいし、興味深いよね。
味見のついでに、ぜひとも骨格を確かめさせて欲しい。
それらの魔獣の名前に日本語を当てたのもまた、500年前の勇者さんなのだとか授業で教えて貰ったな。
黒龍山脈のドラゴンに会いに行く道中で遭遇した魔獣の名前や生態を、たくさん書き残してくれているそうだし、その記録の原本が王都の冒険者ギルドに有るんだっけ。
エゼリアさんの旦那さんになるドネルクさんが冒険者ギルドの責任者に就任する予定なんだから、身内サービスで見せて貰えるように約束を取り付けておかないと。
私の理解が及んだことで、お母様が頷く。
「渡河地点の防衛強化計画では、お前たちとフィオレが“探知”して、騎士候補が討つのだな?」
「そうなるだろう。あの術式は武器の携行が許されない場面でも活きるからな。私の訓練にも丁度良い」
ハインズお爺様の確認に、お母様が答えて、マルキオお爺様が唸る。
開眼⑳です。
謎生物!?
次回、経験者!?




