開眼 ⑮
面倒だけど、やるしか無いし、それには人手が要る。
真面目な話、ウォーレス領は今まで以上の防諜体制を構築する必要が有って、そこへ宰相さんが忍者を自称する人員を送ってくれたのだから、これを使わない手は無い。
何としても取り込んでウォーレス領の手札にしたい。
「見極めた上で、宰相と仲が悪いフリをしなきゃいけないのよね?」
「・・・“融和派”が豊かになってくれば、仲が悪いフリをする必要は無くなっていくと思うけどね」
「そっかぁ」
王様と宰相さんが演じてきた茶番の裏側を知ってしまった以上、私たちも演者の一人になるしか無いし、私の家族はそれを受け入れる度量もやり遂げる能力も持っている人たちだ。
何せ、“王国の盾”を自称して、誰よりも王家に寄り添ってきた人たちだからね。
なんだかんだ言っても、器用なルナリアも何とか順応するだろう。
今までよりも、戦い方の幅が少しだけ広がるだけだ。
私が決意を新たにしていると、私を見てフッと笑ったお母様がパンと一つ手を打った。
「フィオレ」
「・・・はい」
「ルナリア。お前もだ。お前たちはサッサと朝メシを食ってこい。もう余り時間が無いぞ」
「分かったわ!」
睡眠十分なルナリアが元気に答える。
もうそんな時間か。
いや。一人だけしっかりと睡眠を取ったルナリアに思うところが有るわけじゃないよ?
元気なことは良いことだ。
深夜の侵入事件が綺麗に片付いて、積み上がった宿題の一つが片付いたのだから、私としても、ちょっと眠いだけで喜ばしいことだ。
ルナリアに対して思うことなんて、明日の朝は思いっきりくすぐってやるから覚えてろよってぐらいだ。
「ノーア、お留守番?」
私が密かに両の手のひらをワキワキさせていると、絶賛、撫で繰り回され中のノーアがお母様を見上げる。
お母様が眉尻を下げて訊き返す。
「私と一緒は嫌か?」
「嫌じゃない」
首を傾げて問われれば、ノーアはフルフルと首を振る。
「そうか。じゃあ、一緒に朝メシにするか」
「にゃ」
お婆様包囲網からお母様がノーアを奪取して抱き上げると、肩を竦めてお婆様たちも腰を上げる。
「私たちも朝食にしましょうか」
「そうね」
お父様とお爺様たちも腰を上げると、ノーアを左腕一本で抱いたお母様がサーシャさんへと振り返る。
「お前も来い。メシだ」
「いえ! 私は―――」
胸の前でイヤイヤイヤと手を振るサーシャさんに、お母様がニヤリと口角を上げた。
「そう言うな。フィオレが報告を忘れたせいで、一晩、牢屋へ放り込まれたんだ。ただの罪滅ぼしに過ぎん」
「・・・うっ。そうだった。ごめんなさい」
まだちゃんと謝っていなかったから、素直に頭を下げる。
慌てたのはサーシャさんだ。
私は真面目に謝っているけど、お母さんは絶対にサーシャさんの反応で遊んでいると思う。
「いえいえいえ! 頭をお上げください! 私はぜんぜん気にしていませんから!」
「・・・そう? ヨシ。じゃあ行こう」
「えええっ!?」
お許しが出たので、サーシャさんの手をガシッと掴む。
ほうほう。娘さんらしい細っこい手じゃのう。
うえへへへへ。この手が裁縫上手な手かいのう?
さすさすと柔っこい手の感触を確かめる。
その内、手槍で豆が出来るかも知れないから、今の内にスベスベ無垢な手肌を味わっておかないとね。
だって、みんな剣ダコで硬い手だから、手の柔らかい人って稀少なんだよ。
ディディエさんたちでさえ手が硬くなりつつあるからね。
そして、私がサーシャさんの手を堪能しているならば、ルナリアが黙って見ているわけがない。
「良いから、行くわよ!」
「ええええええ―――ッ!?」
逃がさない、とばかりに私とは反対側の手をガシッと取ったルナリアが、サーシャさんを全力で引っ張って扉へ向かい、サーシャさんに引き摺られて私も廊下へ向かう。
ルナリアを先頭に数珠つなぎになった私たちが急接近すると、突撃してきたルナリアがぶつかる前にレヴィアさんとマーシュさんが扉をサッと開いてくれて、私たちはチキンレースの危機を脱する。
「・・・ありがと!」
観音開きの扉を通り過ぎざまにお礼を言い残すと、レヴィアさんたちは笑いながら首を振っていた。
階段を下りてズンズンと廊下を進んだルナリアが、突き破る勢いで扉をバーンと押し開く。
「ここが食堂よ!」
「は、はいぃ~!」
ハアハアと息が荒くなっているサーシャさんに較べて、ルナリアも私も大して呼吸が乱れていない。
おおっ。こんな形で基礎訓練の成果を実感することになろうとは!
騒がしいルナリアのお陰で、控え部屋の扉が開いてエターナさんがパタパタと駆け寄ってくる。
口元にパン屑が付いているところを見ると、先に朝食を摂っていたのかな?
開眼⑮です。
反省とは!?
次回、大豆!?




