迫る影 ⑨
「アスクレー様は、危険なお立場なのでしょうか?」
「フィオレは、5歳にして国王陛下から直々に“銘”を賜るほど優秀な魔法術師だ。また、君自身が体験したように優秀な治癒魔法術師でもある。ウォーレス家とピーシス家にとって、決して失えない重要人物であり、ウォーレス公爵家現当主ルナリアの最側近でもある」
噛みしめるようにお父様の言葉を聞き終えたエバンさんが、自分の理解が正答かを問う。
「フィオレ様の価値が高すぎて、アスクレー様が狙われる恐れが有るのですね」
「そういうことだ」
正答に至ったエバンさんに、お父様が頷き返した。
「この命はフィオレ様にいただいたもの。身命を賭してフィオレ様に―――、いいえ。フィオレ様の配偶者たるアスクレー様にお仕えさせていただきたく存じます」
背筋を伸ばして分厚い胸を張ったエバンさんが硬く固めた右拳を胸に当て、リテルダニア王国式の敬礼を取る。
「良かろう。君はエウリたちと共にピーシス伯爵家の騎士としてアスクレーの麾下に付け。とはいえ、アスクレーは今、領地を離れていてな。明日か明後日に帰還する予定だから、それまでは体を休めて回復に努めると良い」
「はっ! ありがとうございます!」
フッと男臭い笑みを浮かべたお父様に、エバンさんが覇気に満ちた返事を返す。
おおー。ヤル気だね。
エウリさんとエングさんも、こんな感じで取り込まれたのかな?
エウリさんたちのときは、ルナリアと私とノーアが寝ている間に3人の処遇が決まっていたから、任官の瞬間に立ち会うのはなかなか新鮮だ。
一つの問題が片付いたと判断したらしいお母様の目が、エバンさんから、その隣に立っている少女へと向く。
「それでだ。エイラと言ったか?」
「は、はい!」
ひっくり返った声でエイラさんがピシッと姿勢を正す。
なんか、新兵訓練所に入ったばかりの新兵さんみたいな緊張具合だね。
でもまあ、仕方ないかな。
お父様が発散している重厚な空気が揺るぎない大将の風格だとすれば、お母様は現役バリバリの猛将だからね。
王都の騎士様たちも慌てて道を譲るほどの迫力をお母様は身に纏っている。
お母様の深い緑色の目がカチコチに固まったエイラさんを射貫く。
「お前はフィオレに仕官したと聞いているが?」
「フィオレ様は我が父の命の恩人です! この肉の一片、血の一滴まで捧げてお仕えしたく存じます!」
「・・・だから、重いって!」
リテルダニア王国式の敬礼を取ってハキハキと答えるエイラさんに、ついツッコんでしまった。
いちいち表現が大袈裟で生々しいんだよ!
肉片がとか、血が怖いとか、そんなことぐらいで私はビビらないけど、ヤンデレ臭は勘弁して欲しい!
そっちの方が怖いからね!?
思わず口に出してしまった私にお母様の咎める目が向く。
「臣下の忠義を受け止めるのも主の務めだぞ」
「・・・ううっ。はい。ごめんなさい」
そうだね! 今のは私が悪い!
分かってるんだけど! 分かってはいるんだけど、重い!
エロ臭伝道師の洗脳劇に参加してなかったのに、もう仕上がっちゃってるじゃん!
キレてる! キレてるよ! ナイスバルク! みたいなキレッキレの仕上がり具合だよ!
エバンさんの治療を特等席で見ていたのがエイラさんだし、エロ臭伝道師が4人に増えそうな気がして仕方がない!
心理的に追い込まれている私を置き去りに、お母様は次の段階へと駒を進める。
「エターナ。お前の部下にエイラを付ける。エクラーダ民の中から有望な者を抽出して1個小隊を編制しろ」
「はっ!」
ヤル気マンマンのエターナさんがビシッと敬礼を取りながら命令受諾を返す。
ついさっきまでノリノリで難民を煽って洗脳しようとしていた人とは思えないぐらい、シャキッとしている。
これって私が言いだしたことなのに、私が言わないからお母様が言ってくれたんだな。
私、何やってんだ。
私って相変わらず動揺するとメンタルが弱い。
場数を踏めば動揺せずに済むんだろうけど、ボッチ歴が長かった社会不適合者の対人スキルは元々壊滅してたんだよ。
社会人になって多少マシになったと思ってたけど、これじゃダメだ。
私が凹んでいる間にも話は進んで行く。
エターナさんの返事に頷いたお母様の目が再びエイラさんへ向いた。
「エイラ。エターナはフィオレの側近の1人だ。エターナに学び、将来的には部隊を率いられるように励め」
「はっ! 有り難き幸せです!」
輝くような表情でエイラさんも再び敬礼する。
エターナさんにも増してエイラさんって思い込みが強そうだなあ。
この思い込みが強そうな感じって、思春期の乙女チックでも混入しているんだろうか?
迫る影⑨です。
思春期!?
次回、ガラスの天井!?




