第二次ブートキャンプ ③ アンサンブルキャスト面
フィオレは何が気に入らないのか?
「神教会による技術の秘匿」だと答えは示されている。
エルザはゴクリと息を呑んだ。
何という子だろうか・・・。
事業を主導しているフィオレは―――。
「神教会の権益を削ぐのが目的ですか」
「そこで重要になるのが採掘場だ」
エルザの推測に対する答えは、肯定。
我が意を得たりといった風にフレイアはニヤリと笑う。
絶句しかけたエルザは気を引き締め直す。
結婚を機にシェリアの側近としての任を辞し領地の中枢から離れて長いエルザにとっては、気の遠くなるような衝撃を受けたが、神教会という“人を惑わせる怪物”は、王国にとって、ずっと“潜在的な敵”だったのだ。
かつてのフレイアに似た少女は、敵を敵と見定めて行動しようとしているに過ぎない。
神教会に致命的な打撃を与えかねない一撃の肝となる重要な要素が採掘場に有る?
事業を主導しているフィオレが足繁く通う採掘場に有るものといえば、現在の領地の豊かな財政の根幹である岩塩鉱床と、もう一つ。
「もしや、魔獣ですか?」
「そういうことだ。フィオレは採掘場こそがウォーレス領の圧倒的優位性を担保すると言っている。それは私も同じ意見だな」
己の推察が的を射たものだったことに、まだ衰えていないようだと安堵を覚えつつも、エルザはフレイアの言う「圧倒的優位性」の意味を考える。
魔獣は“魔の森”に棲むものなのだから、魔獣の血を得るという意味で“魔の森”に面した他領も優位性は同等なはずだ。
ウォーレス領が他領よりも突出して優位な状況を作り出すことが可能なのだろうか?
「何か採掘場に秘密が?」
「詳しくは、自分の目で見てフィオレから説明を聞いてみれば分かる。話を聞くだけでは信じ難いと言った方が良いか。まだ情報の確定ができているわけでは無いが、フィオレの自信を裏付けているものが採掘場だと覚えておけばいい」
「それほど重要な拠点なのですね」
答えているようで答えになっていないが、このフレイアが「信じ難い」とまで言うのだ。
覚悟しておいた方が良さそうだ。
思い込みや先入観を持たずに見定めるには、フレイアの言う通り、エルザ自身の目で現地を見てフィオレから詳細を聞くのが適切だろう。
今は、採掘場が国家規模の要衝であることを理解しておけば良い。
見て取れる表情からエルザが理解に及んだと判断したフレイアは、話を次の段階へと進める。
「その上でだ。フィオレは新たに設置する治癒魔法術師養成施設に騎士養成施設を兼ねて建設するつもりなんだが、治癒魔法術師養成施設の統括責任者にお前を据えたいと考えているようだ」
「それでフィオレ様は孤児院を養成施設の一部に?」
負担を減らしてエルザを取り込むためだろうか?
数日前に話したときには、孤児たちの将来に道が開けて援助が手厚くなるのなら、と喜んだが、ここまでの事情を聞く限り、フィオレには、もっと深いところまで考えての企みが有るのではないかと思えてくる。
あの理知的な目をした少女の邪気のない笑みを思い浮かべて、深謀と慈悲のどちらがあの子の本質なのかとエルザの内側に迷いが生じる。
エルザの逡巡にフレイアが種明かしをする。
「親を亡くして各家の教育を受ける機会を失った孤児に、教育の機会を与えたいようだな」
フレイアを通したフィオレの指摘にハッとさせられた。
ウォーレス領の騎士、兵士は強い。
その強さの根源は、各家の教育に有るのだ。
物心もつかない内から木剣を玩具として育ち、騎士や兵士を目指す子供は、物心ついた頃には剣術の型を身に付けていたような子が圧倒的に多い。
物心ついた頃には生活術式を身に付けていた子もいる。
子供たちが「騎士になる」という同じ目標を持ったとして、出発地点で身に付けている技術が違うのだ。
ほんの数年の差では有っても、生まれたときから剣に馴染んでいた子と目標を持ってから剣を握る子では下地が違う。
「剣を振る」という作業を呼吸するように続けてきた子と、目標を見据えてから作業のし方を覚える子では、目標へ到達するまでに必要とされる努力の在り方が本質から違うのだ。
もちろん、重ねる努力で穴埋めできるものでは有る。
しかし、努力を続けるにも「努力できる」という才能が必要になる。
だからこそ、幼少期に親から各家の教育を受けられるかどうかの重要性が増す。
フィオレは孤児が失ってしまった教育の機会―――、学べる環境を作り出すと言っているのだ。
第二次ブートキャンプ③です。
分からされた!?
次回、集結(予定)!?




