幼女サバイバー ③
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
粗暴な大男は通行人と変わらない服装に厚手のエプロンのような前掛けを着けているので、石造りの建物の従業員なのかもしれない。
忌々し気に私を睨む男の視線から逃れるように、体の痛みを堪えて歩き出す。
熊に食い殺された私は、転生か何かで未開文明に飛ばされたのかもしれない。
未開文明の地なら、ここで私が殺されても殺人罪すら無い世界かもしれない。
なぜ、私があの路地裏に倒れて居たのかは分からないが、あそこに居ては殺されるかもしれない。
日本人の常識にある警察など存在しないだろうし、助けに入る大人が誰一人いなかったのだから、誰も信用できない。
元々、人間の良識などに期待したことは無かったが、ここは日本よりも危険な世界だ。
危険と言っても、それは今までの人生と何も変わらないし、私は自分の力で生き抜くしかないのだ。
ふらふらと宛ても無く歩いて、ここが、それなりに大きな町だと気付く。
それにしても、おなかがすいた。
ちょっと躊躇ったが、空腹に耐えきれなくなって、道端の水槽に頭を突っ込んで馬用の水を飲んだ。
財産でもある大事な馬に飲ませる水なんだから腐ってはいないと思うけど、水槽の水は少し生臭かった。
害虫を見るような目で、通行人が私を見下ろして行く。
どんな目で見られようが、死ぬよりはマシだ。
飢餓感が少し収まって、冷静さを取り戻した脳が思考を再開する。
あの熊男は、31歳の私を見て、「汚い」、「ガキ」、と言った。
耳に届く声は、聞いたことが無い言語だったけど、普通に大体の言葉は分かった。
この身体の本来の持ち主が話した言語と同じだから、初めて聞いた言語でも概ね理解できたのかもしれない。
分からない単語が有ったり看板の文字が読めなかったのは、この子が教育を受けていなかったせいかも。
きっと地球の私はヒグマに食われて死んだのだろう。
何の因果か、私はガリガリに瘦せ細った浮浪児に転生した?
転生、だよね? 小説や漫画やアニメにあるようなやつ。
・・・・・この身体・・・。
本来の持ち主の意思が感じられない。
想像するに、恐らく、この子は死んだのだろう。
今まで、どうやって生き延びてきたのか分からないけど、この子は餓死? それとも凍死したのかな?この子は無力なまま亡くなったのだろうけど、私は無力なまま殺されるつもりは無い。
一人でだって生き延びてやるし、今までだって、そうしてきた。
いきなり私が放り出された今の状況を考察するなら、ここは人間に混じって粗暴な獣人が棲息するような異世界で、浮浪児であるらしい今の私が、人権意識の存在が極めて怪しい未熟社会の中で日々の食料や寝床を確保しつつ安全に生きられる可能性は、著しく低いのではないだろうか。
少なくとも、この弱り切った体で、この町に居ては生き延びられる気がしない。
この地域の気候や植生は分からないが、カボチャのようなものを栽培、あるいは採集している農民が居たのだから、日本の気候に近い、温帯、あるいは亜熱帯の気候なのではないかと思う。
だとしたら、自然の植生も日本に近い可能性が有る。
カボチャの原産地って、北米だっけ? 中米・・・では無かったよね。
食用に適した植物の採集なら、この子の弱った体でも出来るはず。
道具も刃物も持っていないから出来るかどうかまだ分からないけど、小動物をククリ罠で狙ってもいいよね。
よく知らない世界の、よく知らない町だから、町の外には危険な野生動物が居るかもしれないけど、この町から出て山の中にでも住んだほうが私の生存率は高いと思う。
あるよね? 山。
田舎町の放置児童で、かつ、たまに家へ帰ってくる母親から虐待を受けていた私は、小学生の頃には図書館で調べた手製の罠で動物を捕ったり、山菜を採ったりで空腹を凌いでいた時期がある。
普通は他所様の畑で作物を荒らしたりするのだろうけど、私には罪悪感で無理だった。
おなかがすいていると、ワナに掛かった動物の命を自分の手で奪うことになんて忌避感は無いんだよ。
血を見るのは平気かって? 血液って栄養価が高いんだよ。
欠食児童にとって最大の敵は空腹だし、身体が育てば嫌でも毎月見なきゃいけないのに、血が怖くて女やってられるかっての。
母親が家に帰ってくるタイミングも、その辺の女の事情が関係していたみたいだし。
ともあれ、ワナ猟に至るまでは手製の弓矢で野鳥を捕っていた頃も有るし、20メートルぐらいの距離までなら、そこそこの命中率だったと自負している。
おなかがすいていると、必死だから上達も早いんだよ。
犬の散歩をしている人を見掛けて、犬、美味しそう、なんて普通に育った日本の小学生は発想しないよね。
街中に居る土鳩は寄生虫が多いらしいから、さすがに手は出さなかったけど、涎は出た。
生き残るため食べることに必死で不登校児童になった私は、目出度く、しかるべき施設に回収されて、中学、高校へと通うことが出来たわけだけど、自分で振り返ってみても、なかなかにハードな子供時代を生き抜いたものだと感動・・・は、しないな。
仕方ないじゃない、小学生を相手に鼻の下を伸ばす変態オヤジとヒステリーババアしか周りに居なくて、誰も信じられなかったんだから。
腹いっぱい食わせてやるよ、ラブホで! なんて一番最初に言ってきたサイコパスは、私んちのアパートの近所に住んでいる同級生の父親だったよ。
その頃の私は、下半身と頭が緩い、マセているクラスメイトのカレシ自慢でラブホの意味も知っていたし、すでに成功率が高いワナ猟の試行錯誤中で、ナニ言ってんだコイツ? としか思わなかったけど。
その場のフィーリングで誰彼構わず局部的に仲良くなるバカな小学生は、お前の娘だけだったと思うよ?
匿名の児童買春告発の投書で同級生ごと居なくなったけど、誰が告発したんだろうね?
うちの母親は母親で、出来ちゃった玉の輿結婚を狙って大好きホールドを掛けまくったけど上手く男を嵌め込めなかったらしく、自分の娘に八つ当たりするバカ女だったし。
私、死ぬまで自分の父親の顔と名前を知らなかった、というか誰だか不明だったしね。
母親本人も、バカすぎて私の父親が誰だか特定できて居なかったみたいだけど、そこをツッコむと「事故死」させられてもおかしくないと子供心に感じていたので、ツッコミたくてもツッコめなかった。
幼女降臨エピソード③です。
次回、幼女は町を出る!