幼女サバイバー ②
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
目の前を、馬車が走り抜けて行った。繰り返す。馬車が走り抜けて行った。
ごくり、と、息を飲んで立ち尽くした。・・・馬って、あんなに大きかったっけ?
農耕馬っぽい馬が牽く馬車は4トントラックほどの大きさに見えた。
いや、ツッコミどころは、そこじゃない!
呆気に取られたのも数瞬のことで、状況を理解しようと私の脳は猛然と回り始めた。
カボチャっぽい野菜を山積みにした別の荷馬車が、また私の目前を通り過ぎていく。
カボチャの色が真っ赤なんだけど、あんな色の品種が有ったんだ?
いやいや、そうじゃないって!
ぺちん、と手のひらで自分の頬をビンタする。
どうにも私の脳は目の前の光景を現実だと認めたくないみたいだけど、頬の痛みが現実だと訴えてくる。
馬よりも一回り体が小さいロバっぽい荷馬車も走ってるね。
トラックや自動車、トラクターなどではなく、硬く踏み固められているらしい非舗装の路面をガラガラと踏み鳴らして行き交うのは、すべてが荷馬車だ。
粗い質感の幌を掛けた、西部劇みたいな乗合馬車っぽいのも走っている。
道幅20メートル以上は有りそうな表通りの両脇に建ち並ぶ建物は、8割ぐらいが木造の2階建てで、瓦が載っていない板葺き屋根だ。
どの木造家屋にも玄関前にオープンテラスが有って、馬を繋ぐのであろう柵が有って、馬用と思われる木製の水槽が置かれている。
私が出てきた路地の両側は石造りの2階建てだが、少数派らしい。
石造りの建物は観音開きの木製扉が付いているけど、まだ開店前なのか人気が無くて扉は固く閉ざされている。
観音開きの玄関前には、他の木造家屋と同じように板敷きのオープンテラスが有って、柵と水槽もある。
道路も石畳だろうと何となく想像して路地裏から出てきたけど、石畳だったのはここの建物の敷地内だけだったようだ。
何かの商店かな? この建物の所有者は、周囲の住人よりも裕福なのかもしれないな。
玄関の頭上には看板らしき大きな板が掲げられているが、当然のように書かれている文字が日本語では無いし、アルファベットでも無いし、うにょうにょと波打つ感じがアラビア文字に似ている気もするけど、ちょっと違う気がする。
町の雰囲気としては、やっぱり西部開拓時代のアメリカっぽい?
言葉・・・、通じるかな?
私の耳に届いた、どこかで会話する人の話し声に、所々、聞き取れない単語がある。
少なくとも、通りの向こう側を歩く通行人の髪が金髪や亜麻色のほうが多く見えるので、ここは日本じゃないと思う。
視界の中に誰一人として黒髪の人が見当たらないのだから、日本から一歩も出たことが無い純日本人にはアウェイ感が半端ない。
なんか、全体的に地味だと思ったら、人々の衣服が生成り系の色しか居ないんだよ。
歩いている人間の服装は麻っぽい生地のズボンやスカートにシャツが基本で、シャツの上にベストを着て居たり、マント? ポンチョ? を羽織っている人が居たり、プロテクターっぽいものを着用している人まで居る。
そして、剣! 剣だよ!
鞘に収まった剣を腰に佩いている人も居れば、刃渡りが優に1メートル以上はある抜き身の大剣を背負っている人まで居る。
いや、男女を問わず、どの人も何らかの刃物を携行しているように見える。
銃刀法はどうなった!? と思ったけど、西洋顔の通行人たちが剣に反応しないところを見るに、ここでは武器を携行しているのが普通なのかもしれない。
日本どころか、私が知識で知る外国のどの国にも当てはまらない、と、結論した。
・・・これは・・・、どういう?
通行人にでも警察を呼んでもらうか、最悪でも警察の場所を聞こうと考えていたけど、有るの? 警察。
西部開拓時代は銃火器が普及していて剣の時代じゃなかったから、中世から近世初期ぐらいの文明進度だろうか。
背後でガチャガチャと金属がぶつかり合う音がして、扉を開けた音がしたから振り返ろうとしたら、振り返る前に怒鳴り声が頭上から降ってきた。
「邪魔だ! このガキ!」
「・・・・・ッ!」
私は大きな声が苦手だ。
怒鳴られて、殴られて、放置されて育ったから、反射的に身が竦むのだ。
声が大きな奴は、ロクな奴が居ないとさえ思っている。
「汚えんだよ! どっか行きやがれ!」
「ぁうっ・・・!」
ぐっ・・・ほらね。
固まっていて返事も出来ないうちに、背中を蹴っ飛ばされた。
「・・・ぅっく・・・」
硬い地面に這いつくばり、蹴られた背中と地面にぶつけた顔や手足の痛みを堪えながら、奥歯を食いしばって何とか立ち上がる。
息が詰まって苦しいけど、馬車に轢かれては確実に死んでしまうので、震える足を叱咤して、よろよろと道端へ避ける。
周囲の通行人は、興味無さそうな視線を私に一瞬投げるだけで、制止にも、助けにも入って来ずに、ただ通り過ぎていく。
現代日本でも最も多かった、無関心という暴力。
そんな日本でも有り得ないだろう、虫でも見るような視線。
ああ・・・、やっぱりか。
もしや、とは思ってたけど、ここは地球ですら無かったんだ・・・。
石造りの建物の前から逃げ出すときに、チラリと振り返ったら、私を背中から蹴り飛ばした大柄な男の頭上には、熊のような丸い耳が付いていた。
また、熊か。
よく分からない状況も、よく分からないまま暴力を受けたこともショックではあるはずなのだけれど、暴力や絶望感を受け入れることに耐性がある私の中では、熊に対する腹立たしさのほうが強かった。
だいたい全部、熊が悪い。
この瞬間、熊は私にとって不倶戴天の敵になった。
幼女降臨エピソード②です。