魔法使いの誕生 ①
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「・・・・・・・はぁぁぁぁ。なんてはしたない・・・」
「・・・町で気が付いたときには穿いてなかったんだよ」
思いっきり溜めた深い溜息は羞恥心を思い出しそうになるから止めて欲しい。
やっぱり全身血塗れになって、私は、とっぷりと日が暮れた小川でルナリアに嘆かれながら行水している。
川岸の岩に腰掛けてるルナリアの手元には、竹筒の側面を刳り貫いて獣脂の小皿を入れた提灯―――、というか行灯?
行灯を取りに帰ったときに、お肉は洞に置いてきた。
この行灯、風情が有って良い出来だと思うけど、獣脂を燃やしているだけあって、焼肉臭いのが玉に瑕かな。
手に持っていると、おなかがすいてくるんだよ。
「その町の住民に下着を奪われたのね! 町ごと滅ぼすわ!」
決意を込めた目で、ルナリアが拳を握りしめる。
「・・・たかが、ぱんつで」
「たかが、じゃないわよ!」
「・・・アッ、ハイ。ごめんなさい」
キッと睨まれて、反射的に謝ってしまった。
怒っている人には逆らわない。ぼっちの処世術だよ。
干し肉が売れるようになったら私も買うよ? ぱんつ。
今すぐには、どうにも出来ないから反省してないけど。
ジト目が飛んできた。
口に出していないのに、私の考えていることがなぜ分かった?
「どうして、にやにやしているの?」
「・・・私、笑ってる?」
「笑ってるわよ」
意識していなかった指摘に自分の頬をムニムニと揉む。
なんでだろう? うーん?
「・・・私のために、そこまで怒る人なんて初めてだから・・・かな?」
「―――っ!」
なぜか酷くショックを受けたらしい顔でルナリアが黙り込んでしまった。
大人しくなったけど、捌きたてのシカ肉を串に刺して焼いてあげたら、すごい食欲を見せて頬張っていた。
やっぱりアメリカ人なんじゃないの?
今は、壺と一緒に焼いた素焼きのマグカップで、食後のアマチャヅル茶を飲んでいる。
ぱちぱちと、時折、爆ぜる焚火の炎を見つめながら、何か考え込んでいるらしい。
「・・・・・・・ねえ、フィオレ」
「・・・うん?」
「聞かせてちょうだい」
「・・・何を?」
「今まで、あなたがどうやって生きてきたのかを」
そう来たか・・・。
どうやって生きて・・・ねえ。
この子は、いつもストレートに質問をぶつけて来る。
聞かれるかもなぁ、とは思っていたけど、何を話せばいいものか、どこから話せばいいものか、私の中でも答えが出ていなかったんだよね。
ちらりと見ると、真剣な目で真っ直ぐに見つめられていて、ドキッとした。
この目に嘘は吐きたくないなぁ・・・。
「・・・話すのはいいけど、信じられないかもしれないよ?」
「信じるわ。フィオレは嘘を吐くような人じゃないもの」
言い切っちゃうんだ。
・・・本気で言ってるんだろうなぁ。
でも、実際、本当のことを話したところで、法螺話にしか聞こえないだろうしなぁ。
あの町で目覚めたところからかなぁ。
「・・・半年ぐらい前にね、路地裏で目が覚めたんだよ」
「半年・・・?」
「・・・うん」
予想していた出だしと違ったのか、不思議そうに首を傾げる。
普通は、どこで生まれたとか、どんな親だったとか、そういう話だと思うよね。
私だって意味不明なんだよ。
どうして町を出たのか、森へ来てからどんなサバイバル生活をしていたのかを話した。
半年以上前の「この子の」記憶が全く無いことも。
ルナリアは黙って聞いていたけど、腹立たしそうな顔をしたり、辛そうな顔をしたり、悲しそうな顔をしたり、ずっと百面相をしていた。
この子、本当に真っ直ぐで素直な子なんだね。
「すごいわね・・・」
「・・・そう?」
「わたしなら、きっと心が折れて諦めてしまうわ」
「・・・死にたくなかっただけだよ」
そう。たった、それだけのこと。
自嘲したら、ものすごく真剣な目でルナリアが私に向き直った。
あまりに真剣な目なので、私の背筋も伸びてしまう。
「ねえ、フィオレ。・・・その、さばいばる技術? どこで習ったの?」
だよねぇ。
問題は、そこだよねぇ。
誤魔化すつもりは無かったけど、触れないわけには行かないよねぇ。
我慢するつもりだったけど、我慢しきれずに溜息が出た。
この子は、荒唐無稽な話でも、私の話を信じてくれるんだろうな。
ちびっ子魔法使い①です。
新章、第3章です!
次回、新展開!




