血塗れの精霊 ⑪
趣味で書いていた異世界転生ファンタジーです。
人様の目に触れさせるのは初めてのことなので躊躇いましたが、思い切りました。
雑で拙いかもしれませんが、異世界に見る夢を共有していただければ幸いです。
「・・・ここを降りるから、足を怪我しないように靴と靴下を履いて」
「大丈夫・・・なのよね?」
「・・・登ってくるときは大丈夫だったよ」
岩に腰かけてブーツを履きながら不安そうに見下ろすルナリアに、肩を竦めて見せた。
今、私たちが居るのは崩落現場の上端だ。
見下ろす先は20メートル下の地上。
「他に通れる道は・・・?」
「・・・近くには無いと思うよ。有っても、ここを通る」
私の宣言に、ルナリアが絶望的な顔で絶句する。
「ど、どうして?」
「・・・一つは移動時間の短縮。もう一つは逃げきるための工作時間を稼ぐ」
「工作時間?」
「・・・ワナを仕掛けるから」
「罠!!」
「・・・興味あるの?」
「見たこと無いもの!」
「・・・そっか」
ルナリアの深緑色の目がキラッキラに輝いている。
そんなに興味あるの? 教えてもいいけど。
「ワナ猟で動物を殺すのが趣味なんてあの子ちょっと頭がアレなんじゃないの?」とか陰口を叩かれたことしか無かったから、私、そわそわして挙動不審になってないかな?
私の後ろから恐々と崖下を見下ろしているルナリアの顔は蒼褪めている。
震える手で掴まれている腕は痛いし背中からゴクリと息を飲む音が聞こえたけど、理由と目的を説明すると素直に頷いてくれたんだよね。
崩れた斜面を上から見下ろすと、下から見上げるよりも視点が高くて迫力があるね。
体重が軽い私たちなら降りても大丈夫じゃないかな、って思っている。
大丈夫であってくれないとゲームオーバーだから信じるしか無い。
でも、ムキムキの重たいオッサンたちが、ここを降りようとしたら、どうかな?
この崩落現場を通ろうとするオッサンたちの勝率は、かなり低いと私は予想している。
私が小細工を何もしなくても、天然のブービートラップとして働くんじゃないかな。
登るときにもギリギリの均衡で留まっている感じだったから、再度の崩落を起こす可能性が極めて高いだろう。
追手が崩落跡を危険だと判断してパスするとすれば、別の降りられる場所を探さなきゃいけないし、簡単に見つかるとは思えない。
降下用のロープを取りに帰る?
捕縛や誘拐を目的とした犯罪の実行犯じゃなく、暗殺部隊だよ?
ロープなんて持ってきている?
そういや、明確に認めては居なかったけど、“融和派”とかいう貴族の正規兵っぽい話をしていたから、周到な装備を持って来ていてもおかしくはないのか。
男たちの馬は鞍以外の荷物を積んでいる様子は無かったから、バックアップ部隊が随伴している可能性があるね。
襲って兵站を奪っちゃっても良いかな? アイツら悪者だし。
森での生活に使えそうなものを色々と持っていそうだから、くれないかな。
地球の軍隊編成では、所属最小単位の1個小隊は30~50人プラス指揮官なんだっけ。
何かの本で読んで、小隊って言うのに意外と人数が多いんだ? って思ったから記憶に残っている。
小隊よりも小さい、部隊編成最小単位の1個分隊が10人だったと思うから、実行部隊2個分隊とバックアップ1個分隊で、指揮官1人が実行部隊を直接指揮していたとしたら、総数21人でセオリーの範囲からも外れていないね。
この世界と地球の常識が一致しているかどうかは知らないけど、連中がどこかの正規兵である状況証拠が補強されたと考えて良いんじゃないかな。
だとしたら、多少の犠牲が出ようとも、総司令官から部隊に課せられた任務の遂行を躊躇しない可能性が高いよね。
隠密任務遂行部隊である連中にとって何よりも避けたいことは、暗殺実行部隊の正体を示す証拠を残してしまうこと。
暗殺に失敗した上に、遺体を回収しきれないレベルでの犠牲者を出す、あるいは生存者を捕虜として確保されることが、一番避けたい事態のはず。
だから連中は、顔を見られているルナリアを殺そうと、どこまでも追ってくる。
目撃者が居なくなれば、遺体や負傷者を秘密裏に回収する時間的猶予も生まれるしね。
逃げる、という基本方針は変わらないけど、逆襲も仕掛けるべきだろう。
すでにルナリアに逃げられて焦っているはずだから、焦りを助長させれば、焦りが更なる焦りを生んで新たな隙を生むはずだ。
どんどん殺して、どんどん負傷させれば、ルナリアの暗殺を指示した最高指揮官も、そのうち損益分岐点に達して手を引かざるを得なくなるんじゃないかと考える。
手を引く、イコール、暗殺部隊関係者を処分して知らぬ存ぜぬを通す、ってこと。
自分たちが殺される側になるのだから、暗殺部隊の連中も必死になろうと言うもの。
遺体の処理に負傷者の回収、20人程度でいつまで人手が足りるかな?
ただでさえ、騎士様たちに何人か倒されちゃっていたでしょうに。
連中は自分たちが狩人だと思っているのだろうけど、弱者を狙って力で倫理を踏み越えようとする輩なんて人間と言えるの?
ただの野獣が相手なら私は遠慮せずに殺るよ。
正義は我にあり。
暗殺部隊を返り討ちにした殺人なら、罪に問われないと信じよう。
ルナリアが私を擁護してくれると思うしね。
ならば、狩人としての知恵比べだ。
ルナリアという証人が生き残りさえすれば、“融和派”とか言う連中に対する反撃の目を残せるんじゃないかな。
だから、騎士様たちは身命を賭けた。
私はルナリアに情が移っちゃってるから、暗殺なんて全力を尽くして邪魔するよ。
自分に甘くて他人を犠牲にする心汚い連中ばかりを見てきた私は、卑怯な奴等が大嫌いなんだよね。
どうせ暗殺部隊は身元を辿れるようなものを身に着けてはいないだろうけど、指揮官の顔はどうかな?
作戦指揮を任される立場なら、表社会に顔を知られている相手も居るんじゃない?
少なくとも、ルナリアが生き残れば暗殺部隊の指揮官は表社会に立てなくなるはず。
私に勇ましい正義感なんて無いと思っていたけど、護らなきゃ、って思える相手が居ると覚悟が決まるんだね。
こんなの、初めての気持ちだよ。
普段通りの私だったら、他人の揉め事なんて見なかったことにして、小さな子供を見殺しにしたことを後で思い出して鬱々(うつうつ)と後悔していたに違いない。
ルナリアは、色々なところで私を暗がりから引っ張り出してくれるんだね。
この子とならもう少し一緒に居てもいいかな、と思える相手に私は初めて出会った。
私が先に立って、登ったときの記憶と照らし合わせながら、踏んでもいい場所、体重を掛けてもいい場所をルナリアに示し、彼女の手を引いてゆっくりと崖を降りた。
無事に崖下へ降り立ったら緊張が途切れたルナリアはへたり込んだが、私は降りて来る際のルートを反芻しながら次の手を考え始めていた。
森の小人さん⑪です。
幼女ってのはな・・・、加減を知らないんだよ(ニヒルな笑み
次回、ウンチク垂れます!




